長らく闘病生活を送っていた母親を亡くした作者が、タイトル通り「眠れないから」、その日の深夜にさまざまな思いを吐き出すつもりで書き始めたエッセイ集。息子の立場で故人の半生を振り返りつつ、葬儀という大仕事に否応なく向き合った数日感のあれこれを絡め、主軸としては、"自分でもびっくりの喪失感"から"母親の死を受け入れる心境"へと心が移ろっていく、そのありようを描いた文章、とでも申しましょうか。
見ようによっては「罰当たり」とも「業が深い」とも言える作品かも知れませんが、ほぼリアルタイムで読み続けた一人として言わせていただければ、作者の文章を通すことで、こちらの気持ちの十分の一ぐらいは、故人の弔いの場に参加して、一緒に喪に服すことが出来た、という印象があります。ええ、ご母堂とは全く面識がありませんし、あくまで気分的に、ではありますけれども。
何よりも、「書かずにはいられなかった」という本人の思い。これは投稿サイトの物書きなら、誰でもある程度までは共感できることではないでしょうか。また、中高年以上の読み手だと、経験者として、あるいはもう間もなくの当事者として、さらに別の角度からいろいろと読めるものがあると思います。
テーマがテーマだけに、あえて「おすすめ」みたいな言い方はいたしかねますが、こういう文を書くこと、そして読むこともまた、弔いの一つのあり方なのでは、と申し上げたいです。