要塞の家

西しまこ

第1話


 私たちはその家を「要塞の家」と呼んでいた。


 その家はYの字の道の鋭角部分にあり、正面部分が全面ガラス張りで、家を建て始めたときは何かおしゃれなカフェかと思っていたのだった。


 しかし、しばらくして工事は止まり、人の気配もなかった。

 どうしたんだろう? と思っていたら、気づいたら室外機が動いていて、人が住んでいることが分かった。

 ただし、ガラス部分はいつ見てもブラインドが閉じられていて、どうしてガラス張りにしたのか謎めいていた。あれでは光が少しも入らない。何しろ、布のカーテンですらないのだから。人が住んでいるらしいことは室外機が動いていることから分かるけれど、人を見かけたことは一度もなかった。


「ねえねえ、あの家、何をしている家なのかな?」

「さあ?」

「……もしかして、宇宙人が住んでいるとか⁉」

「Xファイルの見過ぎじゃない?」

「それで、ニンゲンを捕まえて、首に金属チップを埋め込んでいるの!」

「……」

「やばいよね?」

「やばいのは君だよ……」


「それか。もしかして!」

「今度は何?」

「もしかして、違法な取引をしているとか⁉」

「ふんふん」

「何か、違法薬物を栽培して、売ってるの! ……つまらないな」

「つまらないって、何言ってんの」


「やっぱりね、あそこに住んでいるのはミュータントなの!」

「今度はギフテッド?」

「それでね、ミュータント狩りから逃れるために、ブラインドを開けられないの!」

「……ミュータント狩りなんて、ないから」

「あるの! それで、ちょっと姿も違うから、外に出て来られないんだよ、きっと」

「……はいはい」


「それにしても、ブラインド開けないのは、なんでだろうねえ」

「別にいいじゃん」

「よくない! だって、何かすごいことが行われているんだよ!」

「すごいことって……」

「だって、要塞の家だし!」

「要塞って、何?」

「だって、要塞っぽいんだもん。悪の組織だし!」


ともかく、私たちはその家を「要塞の家」と呼んでいるわけだ。



    了


☆☆☆いままでのショートショートはこちら☆☆☆

https://kakuyomu.jp/users/nishi-shima/collections/16817330650143716000

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

要塞の家 西しまこ @nishi-shima

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

同じコレクションの次の小説