第9話 Aの告白


僕は結局サークルを辞めなかった。


大学にも最後まで通った。


キャンパスに植わった銀杏の木陰に、食堂の人混みの中に、サークルの大講義室の隅の席に、彼女がふと現れるような気がして、どうしても去ることが出来なかった。


だけど彼女は結局現れなかった。



彼女が部屋に置いていった荷物の中に分厚い手帳が入っていた。


たくさんの友達との予定がぎっしり詰まった手帳のページを僕はパラパラとめくっていた。彼女の筆跡をなぞるだけで今でも涙が溢れてくる。


僕と付き合うことになった日付にはぐるぐると赤いペンで丸が付けられていた。


そこには一言だけメモが添えられていた。



「愛で殺して」



✴ ✴ ✴ ✴ ✴ ✴ ✴ ✴ ✴ ✴


告白しようと思う。



彼女を刺した犯人は自分の部屋で首を吊っていたそうだ。


遺書には死んで一緒になろうと書いてあったらしい。


だけど彼が佳奈さんと一緒にいないことを僕は確信している。




なぜなら彼女を殺したのは僕だから。




あの時僕は、抜けば出血が酷くなるのを分かっていたくせに、彼女の胸に刺さったナイフを引き抜いた。


「私は私を殺した人のものだよ」


彼女の言葉がナイフを引き抜く僕の腕に力を与えた。


佳奈さんが泣きながら部屋を訪ねてきた日の夜、僕の胸に芽生えたのは佳奈さんへの愛しさだけではなかった。


あの日僕の胸に芽生えたのは、彼女を独り占めにしたいという妬み。


そして恐ろしいまでに強い独占欲だった。


佳奈さんはきっとそんな僕の心を見透かして、最後にあんな言葉を言ったんだと思う。


僕は助かったかもしれない佳奈さんを、ナイフを抜いて殺した。


他の誰かに彼女をとられるくらいならば、僕はこの胸を刺す鋭い痛みと、彼女と、これからも生きていく。


彼女は今なお、僕の胸に刺さったままだ。




✴✴✴Aの告白✴✴✴

✴✴✴Fin✴✴✴



この物語はフィクションです。

物語に類似する事件等があったとしても、本作とはいかなる関係もありません。

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Aの告白 深川我無@「邪祓師の腹痛さん」書籍化! @mumusha

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