異世界の車窓から

長距離寝台特急の乗客である少女イリュリチカの旅の物語
各地の風景や料理を堪能しつつ、区間ごとに乗り合わせた乗客の人となりに思いを馳せる、一種の旅行体験記として読ませていただきました。

架空の異世界ではありますが旅情豊かな列車の旅、通り過ぎる各土地の描写も精緻ながら、鉄道の描写自体も大変に詳細に描写されていて、鉄道旅の醍醐味を心行ゆまで堪能できる一作だと思いました。
(作者様も相当に鉄道好きか…?)
極力会話文を減らす試み、とありますが、見知らぬ人々との交流によるドラマを云々、というには各話エピソードとも主人公が相手の様子を一方的に観察する下りに多くの字数が費やされていて、他者との対話でお話を膨らませていくのではなく目の前に座る人間でさえ、車窓の景色や食事と同じように主人公が旅で目撃したさまざまな事象の一つ、という扱いなのだと感じました。

各話の人物像をさんざん観察して精緻に記載してきたのと対照的に、旅を通じて高貴な御方にも対等に口を開く主人公が結局何者だったのかが一切の説明がないままだったかと。その違和感を清算するかのような最終話でのいわゆる「第四の壁」を超えての語り掛け、地に足のついた確かな描写力とは裏腹になかなかに大胆なチャレンジのある作品という風に感じました。
それらも含めて、一種独特な読了感の物語だったと思います。

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