第13話 そして未来へ(12月)

 今までベンチに座って観ていたゼンヤン、大文字総監督はおもむろに立ち上がり、キャプテン、コーキを呼ぶ。コーキは黒いサングラスをかけた大文字総監督の元へ行く。表情はわからない。大文字総監督は『コーキ、あれしろ。勝ちたいなら。あれしろ。』とつぶやいた。コーキは≪天満相手にあれだなんて…≫と手を握りしめた。厚い雲の合間から日が差し込んできた。どうやら天気は回復方向だ。キックオフは、その空に向かってユージは大きく蹴った。天満の選手は皆わかっている。とにかく早い時間にマイボールにしないと、勝つことはできない。天満の選手は前へ出る。しかし敵陣15メートル付近に飛んだボールはゼンヤンがキープする。ゼンヤン、ハーフのヒデキが『フォワード、来い!』と呼んで集めだ。1、2、3番が揃うとヒデキはパスを出す。2、3メートル、ゲインされたがコーイチロー、アンで止めることができた。コーイチローは『アン、捨てろ!』と言って、アンを立たせた。次にヒデキはバックス陣を集結させた。キャプテン、コーキを除く、スタンド、センター、ウイング、そしてフルバックもだ。ヒデキはとにかく時間を使った。レフリーが『もう出せるよ。』とせかす。ヒデキはスタンド、ダイキにパス。他の3人はシールドに入る。コーイチロー、アン、ダイゼンが入るも、人数差もあり、これまた2、3メートルだが、ゲインされてしまった。コーイチローは『捨てろ!』と言ってすぐに立ち上がる。次の攻撃に備えてだ。しかしヒデキは時間をかける。すでにフォワード陣は集結している。なのにヒデキは球出しに時間をかけた。

 『くー、こう来たか。ゼンヤン、えげつないな。』北ヘッドコーチは戦況を見つめながらつぶやいた。≪リーグワンや大学ラグビーならわかるけど、小学生ミニラグビーで時間切れ作戦をやってくるとは≫ゼンヤンはマイボールを守りながら時間切れを待っていた。攻撃はサイド攻撃のみ。とにかく、相手にボールを渡さないのが重要だ。そうこうするうちに、残り時間は1分を切ってしまった。どうする、天満!


 リューノスケは持ち場を離れ、フォワードの位置に移動した。ゼンヤンはスタンド、センター、ウイング、フルバックを集結させていた。ヒデキはまだ、ボールを出さない。リューノスケは『ダイゼンだけで行け!すぐに寝かせろ!』とダイゼンの背を叩いた。ダイゼンは『リューノスケ君、今日の僕は頑張っていますか。』と試合中ながら天然ぶりを発揮した。リューノスケは『ああ。最高に頑張っとうよ。』と、もう一度、背中を叩いた。レフリーに再度そくされ、ヒデキはスタンド、ダイキにパスする。と同時にリューノスケは『今だ!行け!』とダイゼンの尻を思いっきり叩いた。ダイゼンは『ヒヒーン!』と馬のごとく突進する。ダイゼンは相手スタンドの膝裏をつかむと、あとは力任せに押した。バランスを崩したスタンド、ダイキは、かろうじて寝たが、ややグラウンディングが乱れた。『今だ!』と、リューノスケはコーイチローとアンの背中を押す。コーイチローは『アン、ターンオーバーだ。』と最後の力を振り絞り突進した。その時、ラストワンプレーを告げるフォーンが鳴った。ダイゼン、コーイチロー、アンはとにかく押した。こちらにボールが見えてきた。それを確認したリューノスケは、『ソータ、右だ。余っている!』と言い放って、持ち場に戻る。ソータはコースケにパスを出す。コーイチローは『まだ終わっちゃいないぞ!アン、ダイゼン、起きろ!』と言い残し、走っていった。コースケはさらにシンゾーへパスを出した。これでシンゾー、リューノスケの前には、ゼンヤン、キャプテンのコーキのみ。2対1の状況を生み出した。コースケは『シン、リューノスケ、頼んだ。』と願った。もうコースケには走る体力は残されていなかった。5年生ながら立派にスタンドでフル出場したコースケに拍手を送りたい。フルバック、ユージは全力で後を追った。≪何かあったら俺がフォローしてやる。走れ、リューノスケ!≫シンゾーは、やや中央へ開いた。リューノスケとの間隔をあけるためだ。ゼンヤン、コーキは二人を相手することになったのだが、冷静だった。≪まずは相手センター(シンゾー)へ近づく。タックルにいくそぶりをする。案の定、小っちゃい、ウイング(リューノスケ)にパス。この距離なら仕留められる。待ってろよ。小っちぇーの!≫パスを受けたリューノスケは右外へ逃げた。ゼンヤン、コーキが猛然と追いかける。雨も上がり、水はけのよい地面も乾き始め、50M走7.3秒のコーキの本領が発揮される。差はグングン縮まる。リューノスケは一瞬、後ろを振り返った。≪後方3メートルの地点にゼンヤン、ウイングが来ている。ここは勝負だ!≫しかし、さらにその後方3メートルの地点に、ユージがフォローで走ってきていることはゼンヤン、ウイング、コーキの死角に入り、リューノスケは確認することができなかった。ゴールラインまであと3メートル。コーキは≪小っちゃいの、結構、足が速い。ギリで追いつかん。ここは一か八かだ!≫コーキは思いっきり、タックルに飛んだ。右手がわずかながらリューノスケの右足を払った。バランスを崩したリューノスケ。このままでは、倒れてノックオンしてしまう。≪飛ぶしかない≫リューノスケは、思いっきり飛んだ。精一杯手を伸ばした。そして、ボールを地面にしっかりとグラウンディングした。レフリーが駆け寄る。ゴールまでたどり着けたのか。ベンチも保護者も応援団も総立ちで息をのむ。リューノスケは目を開けた。トライできたのか、確認するためだ。地面にグラウンディングしたボールを見た。楕円のボールの先には虹がかかっていた。


 11月19日土曜日、18時。場所は、イタリアンレストラン、ピエトロ。天満少年ラグビークラブの高学年、お疲れ様会が開催された。初めに創始者でもあるおじいちゃん代表が『大変いいものを見させていただいた。感動しました。これからも立派なラガーマンになって下さい。』と短く挨拶をした後は、北ヘッドコーチの乾杯だ。『みんな、お疲れさん、県大会は本当にナイスゲームでした。結果は準優勝やったけど、胸を張ってほしい。半年前、ボロボロに弱かったチームが、みんな、本当に努力して、そして成長して、Aブロックで準優勝できたんやけん。この経験はきっと、君たちの、これからの長い人生の、糧となります。』北ヘッドコーチはぼろぼろ泣いた。『スマン、君たちの素晴らしい人生を祈念してカンパイ!』北ヘッドコーチは回想した。


 『ノックオン、ピッ、ピッ、ピーーー、ノーサイド!』レフリーが宣告した。リューノスケのグラウンディングはあと3センチ、いや2センチ足らなかった。整列に戻るリューノスケは号泣している。『せっかくユージがヒック、走ってきてくれたのにヒック。』シャツで顔を覆う。ユージは『いや、俺の走るコースが悪かった。それにパス出しても通らんかったよ。あのウイング、狙っとったもん』とリューノスケの肩を叩く。ダイゼンは『今日のリューノスケ君はよく頑張りました。』と手を叩く。『そう、そう。みんな頑張った。』コーイチローも一緒に手を叩いた。整列し、お互いに礼をした。ゼンヤン選手と握手する。この24分間の激闘をお互いにたたえた。ゼンヤン1番のカズキは一目散にアンの元へ行き『ごめんな、大丈夫やった?』と不安そうな顔をしている。アンは『全然、大丈夫です。』と握手した。ソータとヒデキ、コースケとダイキも健闘をたたえ合って握手する。天満キャプテン、コーイチローとゼンヤン、キャプテン、コーキも握手している。コーイチローは『今度は絶対負けないからな。じゃんけん。』と笑った。『えっ、そっち!』とコーキも笑顔で返した。応援席にも感謝の挨拶をした。ゼンヤンの大応援団も一ノ瀬ヴィーナスも割れんばかりの拍手だ。死闘を繰り広げた両チームは、ノーサイドの笛とともに一つになったのだった。

 北ヘッドコーチは大文字総監督の元に行った。『どうもありがとうございました。』と頭を下げた。大文字総監督はサングラスを外して『負けたよ、北。試合では勝ったが、監督として、指導者として負けたよ。俺は子供たちを、周りのコーチたちを信じることができなかった。でも、北は信じ抜いた。もう一度、一から出直すよ。』と手を差し伸べた。北ヘッドコーチは大文字総監督の手を握りしめ『そんなことはありません。ゼンヤンはいいチームです。私の方こそ、ご指導ご鞭撻のほどよろしくお願いします。』ともう一度、頭を下げた。大文字総監督は『北、中学生になったらリューノスケ、ゼンヤンに移籍させてよかろ?』と笑顔で聞いてきた。北ヘッドコーチは負けじとニタ顔で『大文字総監督のお孫さんとはいえ、それは承服できかねます。』と返した。

 天満控えテントへは保護者から盛大な拍手で迎えられた。泣き笑いのお母さん、『よくやった』と手を叩くお父さん。試合は負けたが、よく健闘した子供たちを誇らしく思った。ダイゼン母はダイゼンを抱きしめる。『お母さん、今日の僕は頑張っていましたか。』『うん、よく頑張っていましたよ。』と答えるダイゼン母。『ねぇ母さん、私も頑張ったっちゃけど。』と、ノア。実はダイゼンとノアは兄妹なのだ。『お前は後半、変えられたやんか。もっと、頑張れたろうが。』と答える母。この二面性がダイゼンと、ノアを生み分けたのだろうか。あまりに似つかない。まだ、負けたことを引きずっている様子のリューノスケを見た北ヘッドコーチは『リューノスケ、こっちへ来い。』と呼んだ。そして手を握り、『お前のラグビー人生は今ここから始まったんだ。胸を張ろう。』とリューノスケの肩を抱いた。


 司会進行のコーイチローのお母さんがマイクを持った。『円もたけなわですが、ここで6年生、天満での思い出や今後の抱負などを一言お願いします。みんな、考えてきたっちゃろうね。在籍年数が多い順でお願いします。まずはキャプテン、コーイチローから。』とコーイチローにマイクを渡した。ヒューヒューと保護者たちは冷やかしながら拍手でコーイチローを迎えた。小高い段の上に登った。『僕は年中からここでお世話になりました。一番の思い出は準優勝できたことです。中学生になってもラグビーは続けます。ポジションはウイング希望です。』おおー-と会場は盛り上がる。『それと…』コーイチローは続けた。『アン、ライン交換、お願いします。』と頭を下げた。ヒューヒューと保護者たちはさらに冷やかす。ただ清水コーチ(アンの父)だけは『コーイチロー、それはだめです。』と顔の前で手をクロスさせた。北ヘッドコーチは『いいやないね、ライン交換ぐらい。清水コーチ、腹、くくらな!』と肩を叩いた。コーイチローの母は顔を赤らめながら『何ばいいよっとね!』とマイクを取り上げた。

 『じゃあ、続いてそのアンちゃん。お願いします。』と拍手で迎える。『私も年中からここにお世話になりました。長い間、ありがとうございました。一番の思い出は、私もAブロックで準優勝したことです。今後はレディースで頑張ります。』おおーーと会場はまた盛り上がる。北ヘッドコーチは『アン、お前はレディースに行ったら無敵や。ジャパン目指せよ。』と声を掛けた。アンは『はい。』と短く答え『あのー』と続ける。『お父さん、コーイチローとライン交換、してもいい?』と顔を赤らめた。『やったな!コーイチロー!』とシンゾーが冷やかす。大拍手が沸き上がった。北ヘッドコーチは清水コーチの肩を叩く。清水コーチは肩を落とした。

 コーイチローの母は『では次に行きます。ダイゼン君。』と何もなかったように進行した。ダイゼンはマイクを持った。『みなさん、こんにちは。僕もコーイチロー君やアンちゃんと同じで年中さんからラグビーを始めました。僕はコーイチロー君やアンちゃんと違って、ラグビーは全然上手じゃありません。でも頑張ってきました。だから、練習が終わった時、北コーチに、今日は僕は頑張ったか、聞きていました。一番の思い出は、県大会でトライしたことです。頑張ってきたからトライできたと思います。でも、お父さんがトライはみんなのおかげでできたトライなので、僕のトライじゃない、みんなのトライだと言いました。だから、僕のトライは、みんなにあげます。中学生になっても、ラグビーは続けます。なぜなら、僕はラグビーが大好きだからです。ラグビーは苦手だけど、ラグビーは大好きです。今後とも、よろしくお願いします。北コーチ、北コーチ、ほんとに、ほんとに、ありがとうございました。』会場は拍手の渦となった。清水コーチとダイゼン母は号泣している。北ヘッドコーチも涙をこらえきれない。『あー年を取ると涙腺が緩くなっていかん。なあダイゼン。』と立ち上がり、ダイゼンと固く握手した。そして抱き合った。『ダイゼン、ダイゼン、こちらこそ、ありがとう。』とダイゼンの耳元でささやいた。その姿を見て、また会場は拍手に包まれた。

 進行役のコーイチローの母は涙を拭きつつ『いいでしょうか。次はソータ君。』と紹介した。ソータがお立ち台に上がった。『僕は1年生からこのラグビーチームに入りました。1年生の頃はすぐに足が痛いとか言ってサボってばかりでした。でも北コーチや他のコーチのみなさんのおかげで、パスやタックルがうまくできるようになりました。ありがとうございました。』『おーー』と歓声が上がる。ソータは続けた。『僕は中学生になったら卓球部に入ります。』≪ズテッ≫会場は一斉にこけた。誰かが『ラグビーは?』と声を掛ける。ソータは『気が向いたらします。応援、ありがとうございました。』と締めた。会場は笑いと拍手で包まれた。北ヘッドコーチは成田コーチ(ソータの父)に『成田コーチ、いったいどうなっとーと!』と絡んだ。成田コーチは顔の前で手を振り『いや、私も初めて聞きました。』とのけぞった。

 コーイチローの母は『じゃあ次は、シンゾー君。』と呼んだ。シンゾーはくねくね、ふざけながら紙を広げた。広告紙の裏に書いてきたようだった。『えーみなさん、こんにちは』『こんにちは』と返す。『県大会、お疲れさまでした。』皆も『お疲れさまでした。』と返す。シンゾーは続ける。『えー県大会ではピラーに立つことや3歩前に出ることを意識しました。攻撃ではラインを作ることやキャッチ、いや、アーリーキャッチすることを意識しました。えーそれを、チョー短い歌にしてきました。聞いてください。』『イエーイ』『ピーーッ』と指笛がなる。『始めます。前へ出ろ、三歩出ろ、気を付けろ、テテテッテテテ、低いタックル、アーリーキャッチ、俺がピラー、ナナナッナナナ、サイン出せー!』会場は大いに盛り上がった。何でも、ティックトックで流行っている替え歌らしい。『僕は中学生になってもラグビーは続けます。北コーチ、ありがとうございました。これからも応援、お願いします。』いつもおチャラけていた、シンゾーらしいスピーチだった。北ヘッドコーチは『兄ちゃんたちみたいに頑張れよー』と声を掛けた。

 コーイチローの母は『じゃあ次はタケミ君。』とマイクを回した。『えー僕は1年生の時に天満に入部しました。北コーチ、6年間、ありがとうございました。県大会でトライできたことが一番の思い出です。でも中学になったら卓球をする予定です。』北ヘッドコーチは≪結構、卓球が人気あるんだな≫と思った。『でも、もしラグビーを続けるんだったら、ウイングがしたいです。6年間、ありがとうございました。』イエーイと拍手で湧いた。北ヘッドコーチは『タケミ!ウイングは、お前に向いとーぞ。』とビールを持った手を上げ、乾杯のポーズをとった。

 『次はユージ君』とコーイチローの母は指名した。ユージはマイクを持ち、便箋を開いた。『ゆっていい。』ユージは訊く。コーイチローの母が『はーい。静かに!』とざわつく会場を静かにさせた。ユージが続ける。『僕は3年生の時に、このクラブに入りました。この3年間で心に残っていることは4年生の時の大会でマン・オブ・ザ・マッチに選ばれたことです。また、夏合宿の二日目の地獄のトレーニングは一生、忘れないでしょう。県大会のゼンヤン戦で負けて悔しい思いをしたことも忘れません。でもそれまでは、ずっと負け続けていたので、こんなに勝てたことはチームのみんなやコーチのみなさん、お父さん、お母さんの応援のおかげだと感謝しています。中学でもラグビーを続けて、一流の選手になって恩返しをしたいと思います。応援、よろしくお願いします。』北ヘッドコーチは拍手をしながら『ユージ、お前ならやれる。海外でもやれる。夢を大きく持て!』と言いながら近づき、ユージと握手を交わした。

 コーイチローの母が『最後はリューノスケ君ね。リューノスケ君は入部半年ですが、よく頑張ってもらいました。どーぞ。』とリューノスケにマイクを渡した。リューノスケは紙や便箋は持っていない。『みなさん、こんばんは。』『こんばんは。』会場は答える。リューノスケの言葉に注目する。『僕がこのクラブに入った時は、天満はとても弱かったです。それで辞めてゼンヤンに行けばよかったなあと思っていました。』『おーーー』と会場はどよめく。『でも今は、このチームでよかった。天満でよかった、と思っています。』とリューノスケは一息ついた。続ける。『あんなに弱かった天満は県大会では勝ち続けました。それはみんなの努力とコーチたちのおかげと思っています。しかし僕たちは最後のゼンヤン戦で負けてしまいました。悔しかったです。でも僕はわかりました。なぜ負けたのかを。』一度、リューノスケは息を整えた。そして続けた。『続きがあるんですよ。天満ラグビー物語は終わらない。僕たちのラグビー人生は負けて終わらない、続きがあるということを僕はわかりました。だから中学になってもラグビーを続けます。応援、よろしくお願いします。』会場のボルテージは最高潮に達した。北ヘッドコーチは、リューノスケの両手をつかみ『リューノスケ、ありがとう。お前が来てくれたおかげで今の戦術ができるようになった。ありがとう。』北ヘッドコーチの涙は止まらない。清水コーチも割って入り、『ありがと、ありがと。』と手を握る。ユージが『リューノスケ、天満でよかったろ?』と冷やかす。シンゾーが『パンツタックル最高やったな』と背中を叩く。松尾コーチが北ヘッドコーチに『リューノスケを入れたのは私ですから。』と北ヘッドコーチの肩を組む。北ヘッドコーチは『指導して育てたのはわしじゃあ』と叫ぶが、清水コーチが『実際に指導したのは私ですがね。』と食い下がる。成田コーチも『私が一番3on3、入っていましたよね。』と参戦してきた。ソータが『リューノスケ、卓球も面白そうぜ。』と手をパタパタさせ、卓球の素振りの動作をした。ダイゼンは『リューノスケ君、どうぞ。』とタンドリーチキンを持ってきた。盛り上がっているそのすきに、どうやら、コーイチローとアンはライン交換しているようだ。リューノスケは『5年、来年は必ず、優勝しろよ!』とハッパをかけた。コースケは、立ち上がり『リューノスケ、わかった。必ず、優勝する。』と肩を組んだ。ノアも『リューノスケ、身長伸ばせよ。小っちゃすぎるぞ』と毒舌を吐く。キンタロー、カンシュー、フースケの次期、三羽カラスは食べ物を食い荒らしている。ユーキとケンタは携帯ゲームをここまで持ち込み、ゲームに夢中だ。有吉コーチと松尾コーチは2次会会場の相談を始めだした。佐々島コーチと大文字コーチは半裸でダンスを始め、極めて危険なゾーンに入り始めた。コーイチローの母はブチ切れ始めた。こうして天満少年ラグビークラブ、お疲れ様会の夜は続いていった。


 12月25日、日曜日のクリスマス。とても寒い朝を迎えた。場所はお馴染み、竹林総合公園。今日は天満少年ラグビークラブの納会であり、今年最後の練習である。練習と言ってもハードな練習はしない。それよりも最後のイベントを子供たちは楽しみにしていた。北ヘッドコーチは集合の号令をかけた。『全員、整列!』コーイチローが並ばせる。どこからともなく『スタイル』と声が飛び、シャツを入れる。北ヘッドコーチは満足げである。全員が注目した時、北ヘッドコーチは発声した。『みんな、おはよう。今日が今年最後の練習です。また、このチームでの練習も今日で最後です。来月、新年からは6年生は中学部に、5年生は、4年生と新チームになります。6年生は中学部に行っても頑張ってください。中学になるとグランドの広さが今の倍になります。今以上、走りましょう。じゃあ、さっそくこのチームでの最後のイベント、6年生、5年生対抗駅伝大会を開催します。』子供たちは『イエーイ!』と飛び跳ねた。北ヘッドコーチは『コースは、わかっとろーもんね。下の駐車場にコーンが置いてあるけん、そこが折り返しね。それとコーチも急遽、参加とします。清水コーチ、有吉コーチ、松尾コーチ、佐々島コーチは5年生チームに入って。俺と成田コーチ、大文字コーチは6年生チームね。よろしく!』と言うと、大文字コーチが『えっ、聞いてませんよ。私は、私は四十肩に加えて高血圧の糖尿で、足はねん挫していて…』と支離滅裂な言い訳を繰り出した。清水コーチが『大文字コーチ、腹くくらな。』と肩を叩く。大文字コーチ、重い足取りで6年生チームの輪に入っていった。

 『5年には負けん。絶対、勝つぞー』『オーー』6年生は円陣を組み、雄たけびを上げた。『こっちはコーチの人数が多い。絶対勝つぞー』『オーー』と5年生も負けじと雄たけびを上げた。北ヘッドコーチは『じゃあ第1走はこっちに並べ。タスキ代わりにボールね。』とラグビーボールを手渡した。6年の第1走者はリューノスケ、5年の第1走者はコースケ。コースケは『リューノスケ、負けんぞ』と意気込む。『かかってこいや!』とリューノスケも応じる。北ヘッドコーチは『では、用意、スタート!』と手を挙げた。二人はグランドを走り出した。保護者テントから『頑張れー』と声援が送られる。子供たちも目一杯の声援を送る。北ヘッドコーチは思った。≪最高の選手たちだ≫と。


終わり

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ミラクル・フィフティーン 来住 美生 @kisumiyoshii

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