第2話

今日も紅巴に逃げられた。そろそろ松栄様もお怒りだろうな……。ため息をついたその時だった。

「英陽様! 大変でございます!」

「どうした?」

新米陰陽師が駆け寄って来た。

「鬼どもが人里を襲っているらしいのです!」

「なんだと!?」

数十年前に先代の陰陽頭が倒して以降、息を潜めていた鬼の一族。とうとう動き出したか。

「とりあえず、父上……陰陽頭にお伝えしてくる。お前は松栄様に九尾狐の件について話しをつけてこい」

「かしこまりました」




「鬼が動き出したとの情報が入りました」

その一言に渋い顔をする陰陽頭。

「誠か」

「おそらく」

さらに渋くなる顔。おそらく僕も同じような顔をしているのだろう。

「九尾狐どころじゃないな。松栄様には?」

「他の者を向かわせました。ただどうなるかは……」

「あの人は自分本位の方だからな。」

「とりあえず私も松栄様にお会いしてきます」

そう言って立ち上がった。その時だった。

「陰陽師様も大変なんですねー」

「誰だ!」

声の方を見ると赤い着物の女性がいた。

「ここは立ち入り禁止だ。今すぐ失せろ」

「そんなこと言わないでくださいよー。私と英陽の仲で免除して欲しいわ」

「その声、もしや紅巴か!?」

「正解! というか本当に賀茂家の者だったのねー。見栄張っているのかと思ったわ」

クスクスと笑う紅巴。少し腹が立つ。

「英陽、この者はお前の知り合いか」

「例の九尾狐です。変に懐かれてしまい……」

「失礼ね! なついてないわよ!」

睨む紅巴。不穏な空気になる。

「コホン。で、何故九尾がここにいる? 用もなく敵の陣地に入るほど馬鹿でもなかろう?」

陰陽頭がそう言うと紅巴は頷く。

「ええ、もちろんよ。今日私は貴方達に取引しにきたの」

「取引だと?」

「そう。私は松栄?とか言う貴族にはこれから手を出さない」

「なっ!?」

いままで一日も悪戯をやめなかったあの紅巴がそんなことを言うなんて…。

「明日、大雨でも降るのか……」

「はぁ?」

「おい、英陽。話が進まん。遮るな」

言動一つについつい気になってしまうんだよな…。なんでだろう?

「申し訳ありません」

「気をつけろ。では九尾、話を続けろ」

「はいはい。 そのかわり代わりに貴方達は私に協力して欲しいの。」

「協力?」

怪訝な顔をする陰陽頭。そりゃそうだ。式神以外陰陽師に協力する妖怪などいない。

「そう。私と鬼を倒すの手伝って欲しいの」

「何故だ? 九尾は三強妖怪のはず。しかも鬼も同じ妖怪だろう?」

「あんな奴と一緒にしないでちょうだい。わがままで自分勝手な一族だから、鬼は他の妖怪からも嫌われているのよ!」

わがままな紅巴が言うぐらいなんだからよっぽどだろう。

「でも何故協力を?」

「私が率いる仔達が鬼達に襲われているのよ。数体ぐらいなら私だけでも倒せるけど、主までは倒せないし……」

本当に悩んでいるような顔の紅巴。意外と仲間思いなんだな。でも、陰陽頭が許可するわけ……

「わかった。協力しようじゃないか」

「はぁぁぁ!?」

あの頭のかたい陰陽頭が!? 頭かたすぎで母上とバチバチのあの父上が!?

「英陽、丸聞こえだぞ」

「すっ、すいません。有り得なすぎて……」

「ふふふ。でも、物分かりがいいのは助かるわ。わかってくれなかったら力技しかないと考えていたけど必要なかったみたいね」

何する気だったんだ? とてもじゃないけど聞けない。


こうして紅巴は陰陽師と協力することになったのだった。


「最後、雑よねー。めんどくさくなったの?」

「あの後のことは考えたくない……」


陰陽頭である父は、人間の姿の紅巴に惚れていたのだ。

父が美人好きだということをすっかり忘れていた僕は、普通に母に話し修羅場になった。

やっぱり狐は惑わすんだな……。

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紅狐 和泉 花乃羽 @kanoha-izumi

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