第1話
「待てぇ!九尾狐!」
僕は狐を追いかけていた。
「待てって言われて待つ馬鹿はいないわよ〜」
山を優雅に駆け降りる狐。さすがは三強妖怪だ。式神を使って行く手を阻むがうまく逃げられる。考えながら走っていたら見失ってしまった。
「一体どこに…?」
「陰陽師。私はここにいるわよ〜。」
上を向くとそこに狐がいた。
「ここにいたのか、九尾狐!」
「はぁ。私の名は『九尾狐』じゃないわよ?」
ため息をついて言う狐に僕は怪訝に思う。
「では、なんて言う名前なんだ?」
「私の名は、
そう言って狐ーー紅巴は逃げていった。
「お、おい!待て!」
僕は困り果てる。今回の依頼は中納言の松栄様からだ。成果を上げなければ‥‥。
「
九字を唱えるが紅巴は逃げていた。
「嘘だろ……」
僕ーー
「困ったなぁ……」
結局、本当のことを若干美化して言うことにしたのだった。
「本当にしつこい人間だわ」
最近毎日のように追いかけてくる陰陽師を見て思った。どうやら偉い人が依頼しているらしい。私、そんな依頼されるほどやらかしたかしら?
「待て! 紅巴!」
あ。昨日に教えたばかりの名前、呼んでくれるんだ。ふふ、いい青年じゃない。よーし!
「陰陽師さん、折角なんだから話さない?」
急に止まって、振り向くとポカーンとした陰陽師の姿が。そりゃそうなるわよね。1ヶ月間ずっと逃げ続けてきたもの。
「なぜ止まった? 何を企んでいるんだ?」
疑いの眼差し。急には受け入れられないものね。
「何も企んでないわ。ただいつも鬼ごっこしていたら疲れるでしょ? だから平和的に話し合いしたいなーって思った訳」
「なら、退治されてくれよ。上からの圧が凄いんだよ……」
陰陽師は疲れたような困ったような顔をしていた。なんか申し訳ないなって思う。思うだけだけど。
「退治されるのは困るのよねー」
「ならせめていたずらしないでくれ。松栄様がお怒りなんだ」
「松栄様? ……ああ、あのハゲのおっさんね!」
その一言で複雑そうな顔をする陰陽師。事実でしょ。あれはただのハゲよ。
「コホン。えーと、とにかく退治されたくないならいたずらをやめてほしい。僕たち陰陽師もこんなくだらないこと……これ以上被害を出したくないし」
「本音、出てるわよ」
ウッと言葉に詰まる陰陽師。
「なんて依頼されたの?」
「九尾狐を退治してほしいとおっしゃられた。松栄様にはご家族が居られるから誰かが祟られているのかと思ったのだが……」
言葉を濁す陰陽師。ほんと苦労しているのね、この人。
「溜めた樽の湯をぶち撒けるや、米が全て木の葉になっているや、障子に穴を開けるやらの被害で……」
「……」
「正直子どものいたずらかと思った」
なにも言えない。
「僕たちも忙しく低位の陰陽師にやらせようしたのだが、松栄様は九尾狐をそのような新米が倒せる訳なかろうとおっしゃり仕方なく……」
「ちょっと待って。あなた、名前は?」
「賀茂英陽だ」
「賀茂ってあの!?」
賀茂家と言えば陰陽頭ーー陰陽師のトップを陣取る一家じゃない! 式神もやけに強いと思っていたけど。
「英陽って本気出してないんじゃないの?」
「まあ。たかが九尾狐のいたずらだし。しばらく追いかけていたら松栄様も納得なさるだろう」
たかがってなんかイラつくわね…。
「いたずらやめてくれたら万字解決なんだけど、どう?」
舐めているわね、完全に。
「英陽の思惑通りには動かないわ。じゃーね」
私は英陽に背を向け、逃げた。
「ちょ、ちょっと!」
「賀茂英陽、ね…。ふふ、久しぶりに面白くなってきたわ。」
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