第5話 五人目と六人目

 僕はしがない小学生。

 とはもう、さすがに言えないだろう。


 何せ僕は、米国大統領と通話をしてしまったのだから。


 とうぜん嘘だと思った。だがツナさんは抜かりなくテレビの電源をつけた。


 映像は大統領の演説風景。しかし彼女は演説を一時中断し、電話を手に取っていた。LIVE映像だった……。


 大統領の肉声がマイクを通して拡散される。

「まったくツナさん、困りますよ。いくらあなたといえど──」

「はぁいスミス、久しぶりだね。ごめんよ、でも安心して。この借りはいつでも返すから。君の好きなときに、拙を派遣するといい。拙の一週間を君に使わせてあげる」


 言葉も。ひょっとしたら呼吸も。

 僕は忘れていたかも知れない。


 テレビの向こう側の大統領。彼女の発言と子機のスピーカー音声が。多少のラグはあれど、リンクしていた。


 途中でテレビの映像が別の物に差し替えられた。その演出が余計に現実味を帯びさせていた。


 電話の相手は、本当に大統領だ──。


 目の前で起きている異常事態に、脳は思考をつつがなく停止した。


「……で、なんですか?」

「君とすこし話してほしい子がいてね。ジャパニーズの十一歳、元気いっぱいな男の子だよ」


「そんな子がどうして私に?」

「拙と同じかも知れないんだ」

「──! すぐに変わってください」


 きっとなにか、隠語の類いだろう。僕には点で理解ができなかった。


 ツナさんが笑顔を向ける──。

「さぁ、君の出番だ」


 子機を受け取ると、僕は数分間、言葉にならない会話を続けた。

 どんな話をしたのかも、もう覚えていない。


 どうにか平静を取り戻し、しゃきりと背筋を伸ばす。


「つまり君は、すごい人と出会うために、命知らずの冒険をしたと?」

「命知らずだなんて、そんな……」


「いや、実にクレイジーさ。学校一のお転婆に、町一番のフーリガン。銃をもったレメナントソルジャーだって!? おまけにつけて、ツナ氏ときた。君は目の前の彼が、何者かわかっているのかい?」


「え、いいや……」

「ツナ氏はとても恐ろしい人だよ。五百年も前から生きていて、国をいくつも滅ぼしているし、いくつも興してさえいる。USAも内の一つさ」


「え、えぇ?」


 ツナさんをみる。ダブルピースを決めている。

 え? 

 アメリカンジョークてきな? 


「実際、君はワタシと話せているじゃないか。ソレが君を異常たらしめる、なによりの証拠さ。ランチタイムまで本を読んでいた少年が、だよ。たった半日でだよ!?」

 

 そういわれれば、確かにすごいことだ、うん。


「君は自分が何者でもないと卑下しているが、とんでもない。君は命知らずのクレイジーボーイさ。ジョークで返すなら、しがない小学生でなく、『死が無い小学生』といったところだね!」

「ひひっ。スミスの奴め」


 何が面白い?


「あ、あの、もうわかったんで。もういいんで。大統領も、お仕事があるでしょうし。もしよろしければ、僕に大統領よりもを紹介していただけませんか?」


 あなたは五人目なんだ。


 五人目。

 スミス大統領。




「WOW」

「ひひひっ。これは傑作ですね?」


 クリス大統領とツナさんが大笑い。

 僕と来れば冷や汗で溺れてしまいそう。


「自覚なしか! いいよ、教えてあげよう。ワタシの知りえた中で、もっともすごい人。それはね──」


 大統領よりも、すごい人──。


「君だよ」


「え?」


「君以外にあり得ない、そうだろ? ツナさん」

「えぇ、本当に」


 茶化さないで。


「意味が分からないです。どうして僕なんですか? 僕なんて、なにも持っていない……」


「君はたった半日でワタシのもとまでたどり着いた。それも、奇想天外な人たちを大勢巻き込んで。相手取って。あぁ恐ろしい。もしも君に一年間の自由をあたえたら、この世界は、いったいどうなってしまうんだ?」


 その後も、大統領に沢山おだてられた。

 しょせん僕は子供だから。気分もよくなって。

 なんだかね。僕みたいな奴が、すごい奴に思えてきたんだ。


「君は行動しただけかもしれない。でもね、ひとつだけ確かなのは。この星は、たちの手で回っているんだよ」


 今日はとても楽しかった。毎日、こんな日が続くといいな。


 六人目。

 花咲みだれ。




「だがね、ワタシも一国をおさめる者として。君を自由にさせるわけにはいかないんだ」

「スミス、大人げないよ」


「分かっている。だから折衷案せっちゅうあん。みだれ君、ワタシと友達にならないかい?」


 大統領とお友達。とても素晴らしい提案だと思った。

 でも僕は──。


「断ります」


 実はね、僕の悩み、六次の隔たり。

 全部、ただのにすぎないんだ。


「友達に──」


 クネヒトちゃん。

 僕は彼女のことが、ずっと気になっていた。

 いつもキッカケを探していた。


 二人目以降は、だから消化試合みたいなもんなんだ。

 そして僕は、約束を守れる男だ。

『あたしを一番にして』


 一話目の赤いろな少女。


 少しは彼女にふさわしい、面白い人間になれたかな?


「親友に、怒られてしまうから」 


 大丈夫。自惚れていない。

 僕は、思ったより普通の奴だ。

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六次の隔たり 海の字 @Umino777

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