きみと出会えて僕は、強く生きることを選んだんだ。
- ★★★ Excellent!!!
最終話までのレビューとなります。
この作品で強く心惹かれたのは作り込まれた人物造形です。一人ひとりが特徴的で印象に残りやすく、心がゆさぶられる先に思わず感情移入してしまうのです。本レビューでは主に、ストーリーよりも登場人物にフォーカスしてご紹介させて頂くことをご容赦ください。
舞台は医療技術が限りなく発達しても、心の傷を治すことはできない近未来。冒頭、引きこもりから抜け出せずにもがく主人公の少年・永遠(とわ)は美少女パートナー・瑠璃乃(るりの)と出会います。ふたりは仲睦まじく心を通わせ合うかと思いきや、どこかぎこちなく、綻びを生じる場面も。それには語られてこなかった理由があるのです。
そんな中、永遠の精神をえぐるように絡んでくる害悪メイト。永遠は激しく動揺し、トラウマがフラッシュバック。しかし、瑠璃乃は毅然でありながら柔和な態度で対応し、これを跳ね返します。辛辣で憎悪に満ちた存在にはお約束?のザマァつきなので安心して読み進められますが、先の見えない展開にドキドキ。これは記憶に残る脇役、躍動させる手腕がなんとも光りますね。
天然でほんわか美少女なのに心の芯はダイヤモンドのように硬く、永遠のためなら命をも顧みない。そんな表面的な柔らかさと内面的な強かさを併せ持つ瑠璃乃のギャップに多くの方が沸き起こるような好感を抱くことでしょう。瑠璃乃をサポートしてきた博士も頭はいいはずなのにどこか抜けていて、本当に大事なシーンで『えっ! なんで?』と読んでいるこちらがハラハラしてしまいます。しっかりしてよ博士!とツッコミどころ満載なんですよね。でも彼の言葉は回を増すごとに共感を呼び、畏敬の念を抱くようになるでしょう。そのあたりも彼の為人が如実に現れていて見どころですね。
そして最後に、主人公の永遠が圧倒的に不利な立場でありながら、逆境に立ち向かっていくシーンは胸熱です。
中盤、永遠を苦しめるように吹き荒れる心の嵐。
真実をのせた苛烈な言葉も。
目を背けたくなるような現実の直視も。
瑠璃乃への一途な想いを胸に過去の己を乗り越えて、前を向く英姿に瞠目します。
瑠璃乃と想いを通わせ、強く生きることを選んだ永遠。家から出ることもままならなかった少年はここまで成長できるんだと――まるで王道でありながらお手本のようなストーリー構成。その成長の幅が大きいほど心に響き、読んでいて本当に応援したくなりますよね。
作り込まれた人物造形と緩急自在で構築されたストーリー。読者を飽きさせない工夫も光る胸を打つSFヒューマンドラマです。
この超大作、ぜひ手に取ってみてください。