第十八話

「湊…湊…貴方が居なくなったら…私は…」


どうしてこうなってしまったのだろう。

話は俺が帰宅し頃まで遡る。



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俺はスマホのあったすさまじい量の通知を確認してから一報入れてから、急いで家に帰った。


家に帰るとそこには泥酔した叔母さんの姿があった。

どうやら朝からずっと飲んでいたようで、周りには隠していた酒瓶が幾つも空いていた。


俺が介抱しに急いで駆け寄ると、虚ろな目の叔母さんと目が合った。


「湊…?」


掠れた声でそう呟く叔母さんを優しく担いでベッドまで連れて行こうとすると、ソファに引き込まれた。


突然の事に急いで立ち上がろうとすると、叔母さんは静かに涙を流していた。


「ごめんね、少しだけ一緒に居よう?」


叔母さんは震えていた。

俺は断わる理由など無い為、そのまま一緒にソファに寝っ転がった。

二人で一緒に寝転ぶとなるとやはりソファでは少し狭い。


叔母さんは俺の背中に手を回して、離そうとしない。

しばらくの間そのままにしていると、叔母さんが口を開いた。


「湊は小さい頃からそうだった」


震える声で叔母さんはそう言った。


「貴方は、私の気持ちも知らずに、危ない所に、誰かを助けようとして…自分の事なんて二の次で…家族の気持ちも考えてよ…」


そう言って、叔母さんは俺の胸元に顔を埋めた。

角度の問題で見えないが、たぶん叔母さんは泣いていたと思う。



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そんなこんなで今に至る訳だが…。


……俺は、自分を蔑ろにしているか、と聞かれたら正直、していると思う。


何故なら、俺の体は時間がたてばどんな傷でも再生することが出来るから。

俺は他の人よりも死ぬ確率が極端に低い…それに…。


俺は小さく息を吐いて言いたいことを頭の中で纏めた。


「俺は…あの日、自分の生きる価値も、生きる意味も、何もかもが分からなくなってたんだ」


俺がそう言うと叔母さんは顔を上げた。


「けど…今は違う。叔母さんや、土御門さん…ギルドの皆に、学校の皆、皆が居てくれるから俺は…生きていて良いって、今を生きていたいって、思えるようになったんだ」


「だから…絶対なんてことは言えないけど、傍に居るよ。家族なんだから」


俺は少し照れ臭くなってしまったが、真っすぐ叔母さんの目を見てそう言った。

叔母さんは目を潤ませながら微笑むと、そのまま眠ってしまった。


俺は叔母さんを起こさぬように抱擁を抜けてから、叔母さんをベッドに運んだ。


「はぁ…さてと」


俺は一息ついてから、リビングを見回した。


「掃除しなくちゃなぁ…」


俺は取り敢えず散らかった酒瓶を片付けるところから手を付けるのだった。



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朝起きると、綺麗になったリビングのソファで優雅に叔母さんがコーヒーを飲んでいた。

叔母さんは二日酔いになる事が少なく、割と毎回直ぐに元気になるのだが…昨日あんなに飲んでたのに大丈夫なのだろうか…?


俺が声をかけると、叔母さんの顔はほんのり赤みがかっていた。

心配になって何か言おうとしたが叔母さんが先に話し始めた。


「えー…ん”ん…湊、昨日言った事は私の本心です。…ですが、あまり私の醜態は思い出さないで欲しい…」


叔母さんは気まずそうに目線をまた逸らすと、別方向を向いてまたコーヒーを飲み始めた。


叔母さんは照れてるのだろうな…。

そう思った俺は一旦そっとしておいて、朝食の準備をし始めた。


昨日叔母さんが言った事は、心の内に留めておこう。

これからはもう少し自分を大切にする必要が…あるよなぁ…。


しかし、俺の戦闘スタイル自体が、再生することを前提とした戦い方だからな…。

……頑張んなくちゃな…。


俺は思考を切り上げて、半熟に仕上げた目玉焼きとカリっと焼いたベーコンをトーストに載せ、サラダを盛り付ける。


叔母さんは何時も通り、朝食を美味しそうに食べて仕事の準備に取り掛かって行った。


今日は社食があるらしいからお弁当は俺の分だけで大丈夫。

だから…冷蔵庫を見る限り新しく一品作る必要は無いか。


冷食と白米を弁当箱に敷き詰め、前に作っておいた漬物を隙間に入れたら…完成っと。


「行ってきます」


玄関から叔母さんの声が聞こえてくる。


「行ってらっしゃい!」


俺は叔母さんを見送ってから制服に着替え、登校の準備を始めた。


…昨日無断欠席しちゃったしなぁ…憂鬱だ。

また校長から金をせびられるのだろうか。


俺は足取り重く学校へ向かうのだった。



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「湊~昨日は何かあったのか?湊が無断欠席何て珍しいから柚島先生驚いてたぞ」


陽太がそう言って心配そうに声をかけて来た。


「あー…心配かけたよな…。まあちょっとトラブっただけだから気にしなくて大丈夫」


俺がそう言うと、陽太は一応納得したようで引き下がってくれた。


「ふーん…そう言えばさ、一昨日仕入れた話なんだけどうちの高校に転校生が来るらしい!しかもかなりの美少女みたいなんだ!」


「へー…この時期にか…変なタイミングだな」


「何か最近急に決まったらしいぜ」


ふーん…転校生か…もう少しで新学期ってのに大変だなぁ…。

そんな事を考えていると始業のチャイムが鳴り、生徒は席に座った。


柚島先生が冷や汗を流しながら教室に入ってくる。


「えー…今日は皆に新しい仲間を紹介するぞ」


「お入りください」先生がそう言うと、転校生が教室に入ってくる。


美しい白髪を腰まで伸ばし、神秘的な微笑みを浮かべながら優雅に歩くその姿は、まるで妖精の様だ…。


「皆さん初めまして、皇華凛と申します。どうぞこれから末永くよろしくお願いしますね」


俺はその場で頭を抱えて蹲った。



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・キャラクター紹介


・天城湊


叔母さんが居なければおそらく彼は此処に居なかっただろう。

異界顕現を潰した時、ある程度は土御門邸で療養させてもらったものの、両親と妹を喪った傷は癒えず、誰もいない部屋で一人、ずっと泣き続けていた。

そんな彼に対して、親族達は彼の力に目が眩み、彼本人に見向きもしていなかった。

誰も傍に居ない暗闇に最初に寄り添えたのが叔母さんだった。

それ以降、徐々に精神状態が回復して行き、土御門家や狐崎灯華の助力もありながら何とか持ち直すことが出来た。

しかし、彼の中で自分に対しての優先度はかなり低く、自己犠牲を厭う事は一切ない。

けれど、彼はきっと何が有ろうと家族を一人にしないだろう。


・天城彩希


メンタルボロボロ系、超絶飲酒お姉さん。

5年間一緒にいた大切な家族が行方不明となればここまで荒れる…だろう。

実は彼女自身は余り自覚がないが、かなり湊に依存している為、湊が数日間居なくなるだけで、精神に陰りが見えるようになる。



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皆様へ


これにて第二章は終了となります。

今章は新生活関連で時間を作ることが出来ず、投稿をお待たせしてしまって申し訳ございません。

次章は新生活がスタートした事もあり、更に時間がかかってしまうかもしれませんが、気長に待っていただけると幸いです。

それでは皆様、また第三章でお会いしましょう。

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高校生S級冒険者は苦労人 みたらし @TaTTaramiTarashi

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