第十七話

皇家から救出されてから2時間後、俺は犬淵さんに抱えられている最中に爆睡したお陰で、刻印に対する耐性を得る事が出来て、無事にステータスを元に戻すことが出来た。


いやー……最悪もう一回『超越突破』をする事も視野に入れていたけれど、使わずに済んで良かった。


今俺は、冒険者協会本部にて暖かいココアを飲んでいる。

原因は分からないが、協会の皆が俺に対して腫物を扱うように接してくる。


「湊…あんまり気にするなよ…」とか「辛くなったら言ってね」とか何故か皆凄く優しい。


違和感が凄いが、気にすることなくゆっくり過ごす事にした。

俺が呑気にココアを飲んでいると、部屋にノックの音が響き渡った。


「先輩、俺…何ですけど今いいっすか…?」


突然の来訪者は鷹田だったようだ。

俺は「はーい」と言って、一応に備えて予備の仮面を身に着けてから、扉を開いた。


鷹田は気まずそうに視線を右往左往させて、何だか歯切れが悪かった。

俺は取り敢えず、部屋に入るよう促し、仮面を外してから新しくコーヒーを淹れた。


鷹田は小さく会釈をしてコーヒーに口を付けた。

何時もは饒舌な鷹田が此処まで深刻そうにしているのはとても珍しく、一体何事なのだろうかと、思わず身構えてしまった。


鷹田は小さく息を吐いた後、こちらを真っすぐ見つめた。


「今回の事件、先輩には何と言えば良いのか、適切な言葉が見つからないっすけど…兎に角、救出で来て良かったす」


鷹田は穏やかな表情でそう言った。

俺は何が何だか分からず、我慢できなかったので思わず聞いてしまった。


「…そもそも、何で皆俺に気を使って来るんだ…?俺は特に怪我とかしてないぞ?」


俺がそう言うと、鷹田は分かり易く目を逸らした。


「いや…その……皇邸で先輩が性的なアレを受けたと聞いたんですが…」


「…………………はぁ?」


俺はこのとんでもない状況に思わず米神を抑えた。

どうしてそんな話になったんだ?


「…俺は皇に誘拐されはしたが特に何もされなかったぞ。それどころか、ステータスを封じられただけで特に悪いようにはされて無い…と、思う…」


「自信無くしてるじゃないすっか!」


「いや、ちょっと待ってくれ!最後のは…いや、あれはどうなんだ…?」


考え込む俺に対して、鷹田は大袈裟に悲しみ始める。


「うわーん!このままじゃ先輩を巡る争いが激化してしまうっす!」


「おい!ちょっと待て!何だそれは、身に覚えがないんだが!」


俺がそう言って鷹田に詰め寄ろうとすると、また扉がノックされた。

一旦話を止めて、俺は仮面を着けなおしてから扉を開いた。

扉を開くと、その人物は俺に体を預けて来た。


少し驚いたが、この人ならやりかねんなと思い、そのまま抱き留める。


「お疲れ様です土御門さん…余り急にこういう事はしちゃ駄目ですよ」


「ただいま~って、何だ鷹田も居るのか」


ぐでっとした様子の土御門さんをそのままソファに誘導して座らせる。

俺はまた台所へ向かってコーヒーをカップに注いだ。


「あ”―――旨い。腕を上げたなあ、湊。私は嬉しいぞ」


土御門さんは美味い美味い言いながら、少し温めのコーヒーをグビグビ飲んでいく。

この感じの土御門さんは大体疲れている。


俺は戸棚に隠しておいた少し高めの洋菓子も土御門さんに差し出した。

土御門さんは先程から表情を変える事無く、「美味い」と一定間隔で呟いていたが、洋菓子が想像以上に美味しかったようで、その表情も綻んでいた。


俺はホッと一息を吐いて、土御門さんに気になっていた事を質問する事にした。


「あの…土御門さん…その「皇華凛の処遇についてだろう?分かってるそこまで厳罰化するなって事だろう?」…はい」


俺がそう言うと、鷹田は酷く驚いていた。


「全く……そう言うと思ってたよ…。ほんと、お前は甘いなぁ…どうせ、[別に自分に直接的な危害が無かったから大丈夫ですよ]なーんて、思ってるんだろう?」


「……はい。そうです」


余りにも図星だったため、取り繕う事はせず、素直に頷いた。

俺の反応を見て、土御門さんは分かり易く肩を落とした。


「その優しさは美点なんだが……はぁ、まあ良い。近い内にまた会う事になると思うが……トラウマにはなっていないか?」


「あ、それに関しては大丈夫です」


あんなの余裕余裕。

あの程度でトラウマになってたら今俺は冒険者になっていないどころか、生きてるかも怪しい。


「そうか、それなら良いんだ。話は変わるが鷹田、休憩中に悪いが話がある」


鷹田は頷いてコーヒーを飲み切ると、部屋を出て行った。


俺は二人を見送ってから、普段着に着替え始めた。

そしてロッカーに入れていたスマホを取り出し、ロックを解除すると、最初に目に飛び込んできたのは夥しい程の通知の数だった。


……そう言えば、叔母さんに日曜の夜までには帰って来るって言ったような…。


俺は嫌な予感がして荷物を纏めて、急いで冒険者協会を後にした。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


キャラクター紹介


・鷹田修斗…【鷹ノ目】


湊が誘拐された際の二次被害を一番警戒していた人。

毎回軽薄そうな口調で話しているが、実際は色々と考えている…はず。

因みに、S級冒険者の中でも一二を争うくらい弱い。


・用語紹介


・湊の貞操


実際に何かあったら、色々と大変な事になる。





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