これやる意味ある?

「りゅーちん、心理テストしようぜ!」



「…何急に」



 ある日のこと。SNSでネットサーフィンをしながら夏休みを満喫している流星に流れ星の如き勢いで真帆が突っ込んできた。

 本日は響華も母である華蓮の誕生日により不在のため、ゆっくり過ごそうと考えていたところだったが、そうはいかないようだ。

 あまりの勢いに押し倒される流星。ため息混じりに何かと聞き返す。



「今からりゅーちんがどれだけ私のことが好きなのかテストをします!」



「そんな中島野球しようぜ的なノリで言われても…こっちは夏休み満喫してんだよ」



「部屋でスマホいじってる奴のどこが夏休み満喫なんだよ!いつもと変わんないじゃん!」



 痛い所を突かれた流星は黙りこくる。こういう時ばかりは真帆もいいところを的確に突いてくる。

 とにかく今はぐだぐたしたい。そういう気分なのだ。



「今はそういう気分じゃありませ〜ん」



「じゃこのままヤろっか」



「それはやめよう。マジで」



 そう言って真帆をなんとか押しのける流星。勢いで及ぶ行為ほど後で後悔するものはない。真帆は少し残念そうだ。



「む〜…ま、いいや。いいからやるぞ〜それじゃ、最初の質問です!」



「…こっちの意見は聞いてくれないのね。OK…」



 彼女の勢いなどそう簡単には止められない。分かってはいたが、付き合うしか無さそうだ。



「あなたが1日2つ掛け持ちしてもOKなのは、次のうちどれ?1.スポーツの試合やライブ、2.興味のある勉強会やセミナー、3.趣味仲間との交流会、4.美術展や写真展」



「え〜…」



(勉強はやだし…かといってスポーツとかライブも疲れるからなぁ…)



「…強いて言うなら4かな」



「お〜…」


 ニヤニヤとした笑みを浮かべる真帆。その様子を流星は見守るだけだ。



「…そんなやっぱり〜?みたいな反応されても俺は何の結果か分からないんだが」



「ごめんごめん、今から読むね…『このテストはあなたと恋人の一体感を測るテスト。4の「美術展や写真展」を選んだあなたは「恋人との完全な一体感」を望むタイプ。たとえ現状がラブラブでも、簡単には満足できません。好きな相手と全てを共有することに喜びを感じます。恋人と心も体もぴったり寄り添っていたいと願い、常に一緒にいないと不安になるでしょう。』!…やっぱりりゅーちん私のこと大好きじゃ〜ん♡私も大好きだよ〜」



 結果に喜ぶ真帆は流星に再び抱きついてくる。付き合ってやってる感が否めないが、流星も満更でもない様子。否定はしないあたり本心が物語っている。

 分かりやすい、という指摘をするのは今更だろう。

 


「あー、はいはい。苦しいからそんなに強く抱きしめるな…」



「そんな事行っても離れないからっ。このまま次の質問だ!」



(色々と当たるのもなんか馴れたな…)



「あなたが失恋した時に最も効果的な「心の回復法」は、次のうちどれ?1.友達と食事する、2.勉強や仕事に打ち込む、3.スポーツで汗を流す、4.ひたすら泣く」



(回復法、か。…悲しいときはスッキリしたいタイプだからなぁ…勉強は嫌だし)



「4、かな」



「ほ〜ぅ?なんか少し以外だなぁ」



「だから一人で結果見てニヤニヤすんのやめろって。早く教えろ」



「はいはいそんなに急かさないで。。せっかちな男は嫌われるよ〜?あ、私はどうなってもりゅーちんのこと大好きだけどね!」



「はいはい知ってます」



「わかってんじゃ〜ん♡愛してるよ♡」



「…いいから早く結果を教えろ」



「分かってるって!…えーっと、『このテストはあなたとのベストパートナーを診断するテスト。4を選んだあなたはとても優しくて繊細なタイプ。人生に必要なベストパートナーは、大きな愛情であなたを包んでくれる人です。いつも動じることなく堂々としていて、何でも受け止めてくれる器の大きい人なら、心から信頼できるでしょう。』!そっかそっか、りゅーちん繊細なんだ〜知ってるけど。大きな愛情で包んでくれる人、誰だろうね〜?」



「…響華さん?」



「むー!違うでしょ!私でしょ!わ・た・し!」



 さすがに不満に思ったのか頬を大きく膨らませて流星の肩をポカポカと両手で叩き始める。絵に書いたような怒り方がなんとも可愛らしい。

 


「ごめんごめん、間違えた!間違えました!真帆が一番!一番だから!」



「むぅ…今は私も響華と同じ立場なの。冗談でもそんな事言わないで」



 少ししょんぼりとした様子で肩を落とす真帆。目に見えて気を落としたようだった。

 これには流星も間違えたかと反省する。いくら冗談でも彼女を傷つけることは避けるべきだ。



「…次やったら私のお部屋に閉じ込めるからね」



 真っ黒な瞳孔をがん開きした真帆。一切のゆらぎを感じさせないその深い瞳は確固たる意思と流星へ恐怖を与えた。



「…はい」



「…分かったなら抱きしめて」



 不満そうな真帆を優しく抱きしめる流星。かつて彼が彼女にそうされたように流星は優しく包み込む。

 


「…もっと強く」



「…こう?」



「ううん。もっと。壊れるくらいに強く抱きしめて」



 要望どおりに抱きしめる力を強める流星。彼女との距離はほぼゼロに。全身が彼女と重なる。



「…許してくれた?」



「…ふーっ」



「…?」



「ふーっ、ふーっ…はぁ、流星くんの匂い♡」



「なっ!?ちょちょちょっと何盛ってんの!?!?」



「ダメ♡おかしくなっちゃう♡何回嗅いでも飽きない♡やっっばぁ…」



 紅潮した真帆の息遣いはどんどん荒くなっていく。脱出を試みるも、思いの外真帆のホールド力が強く、手足の自由は奪われてしまっている。



(ちょ、やばいやつ!これマジでやばいやつ!)



「ねぇ♡もう今からシよ?♡ゴムあるからさぁ♡」



「いやダメだ!とりあえず落ち着いて離れろ!…くそっ、全然離れない…」



「ん〜…」



「ちょ、ストップ!」



 流星の静止も今の彼女に届くことはない。既に瞳孔にハートが浮かんでいる。歯止めは効かないのは目に見えている。



(おい万事休すってやつか…!)



 流星の脳裏に諦めの二文字がよぎったその時。背筋に嫌な冷たさが走った。



「…何をシてるのかしら?」



「…響華さん!」



 その悪寒は希望か絶望か。この絶体絶命の状況に現れたのは妻である響華だった。



「嫌な予感がしたから抜け出してきたら…何二人で楽しんでるのよ」



「きょ、響華さん助k「私も入れなさい」…へ?」



「私も、入れなさい」



 希望の光は絶望を照らすただの照明に。走る悪寒は再び恐怖に。響華の一言は流星をどん底に突き落とした。

 彼がこの後どうなったかは、言うまでもないだろう。

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隣の俺にだけは甘い氷結の女王綾部さんは愛を誓った(?)幼馴染であり、俺の妻(自称) 餅餠 @mochimochi0824

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