第66話 私頑張りますからっ


「えっと、そのどういうことですか?」


 教室中の視線を一点に集める中、アイリさんの突然の宣戦布告に花梨さんは困惑した様子であった。


「私は花梨さんのことをライバルだと思っていまス。きっと花凛さんもそう思ってますヨネ?」


 すると、アイリさんは淡々とそんなことを続けるが俺にはよく分からない。この2人そんな関係だったっけ? もしかして、俺の知らない所でなにかあったのか?


 そんなことを考えた俺だったが、花凛さんが訳が分からないと言わんばかりにキョロキョロと視線を彷徨わせているのを見て考えを改める。

 いや、アイリさん割と変人だしアイリさんがそう思い込んでるだけパターンだ、と。

 となれば、花凛さんの為にもなんとかこの場を納めてあげたいが、俺が下手に仲裁に入ると余計話が拗れそうだしなぁ。

 なにより、花凛さんと接点があることをクラスメイトに知られるのはマズイし。


 そんなこんなで俺もどうしていいのか分からないでいると、先程まで困惑し視線を彷徨わせていた花凛さんが俺を見るなりなにかに気がついたようにハッと息を呑む。

 どうしたんだろうか?


「なるほど、わかりました。確かに私とアイリさんはライバルのようですね」

「ようやく分かってくれましたカ」


 いやなにが!? 花凛さんは今の一瞬の間で何を理解したと言うんだ? 俺まだなにも理解してないよ? アイリさんが変なのはいつものことだから分からなくても気にしないけど、花凛さんの話も分からないとなると俺の方が間違ってるみたいじゃん。


「とはいえ、体育祭でどうやって勝負するんですか? 私達同じクラスですけど」


 しかも、なんか花凛さん妙にやる気満々だし。本当に一体なにに気がついたんだよ。頼むから俺にも何か説明をくれないだろうか?


「そこなんですけド、丁度上手い具合にチャンスがあるんですヨ。確か、花凛さんって200m走出ますよネ?」

「はい、出ますけど。もしかして...」


 そんな俺の心の内など知らない2人は更にどんどんと話を進めていく。いや、別に俺に関係ない話ならいいんだけどね? アイリさんは分からないけど、なんか花凛さんがさっきから凄い俺の方チラチラ見てくるから気になってしょうがない。


「そう、実は私も出るんですヨ。まあ、とは言え同じクラスなので体育祭二日目に行われる予選は違いますけド。でもっ、3日目で行われる決勝まで進むとぶつかることになるんでス。このコトは先生に昨日確認しましタ。つまりですヨ...」

「お互いに決勝まで進めば直接対決が可能と言うわけですね」

「そう言うことデス! そして、別にこの勝負はなにかを賭けるわけではありませン。ただ、気持ちをぶつけあうだけの私達の自己満足デス。これでいいなら、受けてくれませんカ?」


 結局、俺が何も分からないままアイリさんは話を纏めると真剣な目つきで花凛さんを見つめると手を差し出す。


「...分かりました。そういうことなら受けて立ちます」


 そして対する花凛さんも真剣な目つきでアイリさんの元へと手を伸ばすと、2人はお互いあつい握手をかわすのだった。

 しばらくの間、静まり返っていた教室のクラスメイトもそれを見ると戸惑いつつも拍手を送るのだった。


 結局、その後はアイリさんと花凛さん特に話すことなくいつも通り学校生活を送っていたが、本当になんだったのだろう。



 *



 色々あった学校が終わり、今日からはいつもの梅さんのカフェでのバイトということでそれも無事終わった頃、俺は花梨さんと昨日と同じように一緒に帰っていた。


「いやー、久々だっから緊張したー。赤田くんはどうだった?」

「いえ、自分は特にはなかったですね」

「そっかー。赤田くんとこの独特な緊張感を共有したかったんだけど、ちょっと残念」


 俺の答えに花凛さんは軽く笑うとそう呟く。


「そう言えば、体育祭の件だけど...私、頑張りますからっ。だから、ちゃんと見ててね」


 そして次の瞬間、突然俺の目の前に立った花凛さんは真剣な顔つきでそんなことを宣言した。


「えっと...」


 恐らくアイリさんのとの件なんなのだろうが、俺は未だに皆目検討もついていないのでどう返していいのか分からない。


「大丈夫、赤田くんが理解する必要はないの。ただ、私は頑張るってことを伝えたかっただけだから」

「なるほど」


 なにが、「なるほど」なのかは俺自身分からないが花凛さんが言うならそれでいいのだろう。


「そう、これは私とアイリさんの一対一の孤独な戦い。最早、格ゲーといっても差し支えないものだからね」

「いや、体育祭ですよね!?」

「集中!」


 俺の言葉など知ったことかと言わんばかりに波動◯でも出しそうな雰囲気を醸し出す花凛さん。


「でも、アイリさんとの直接対決の前に5200が6人まで減る2日目を生き残らなくちゃいけないからね。頑張らないと」

「5200人もいないですし花凛さん確か去年200m優勝者出したよね? そんなにりきむ必要ないと思うんですが」


 ふんすと息を吐いて、異様なほど張り切る花凛さんに俺はそう口出しするが、


「ダメ。力むの! 私は本気で勝ちたいからっ。赤田くんは、つべこべ言わずに見届けて」

「わ、分かりました」


 そう言い切られ口を閉じるのだった。にしても、なにを花凛さんをここまで駆り立てているというのだろう。



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 次回「忘れてたけど、明日遊園地な件について」


 遅くなってすいません。これからは3日に一度のペースくらいで投稿しようとは思ってます。受験期ですので何卒ご理解のほどお願いします。


 最後にカクヨム甲子園用に1話短編書いたので良かったら是非読んでください。


 隣の席の石黒さんは美少女だ。しかし、変わっている。

 →https://kakuyomu.jp/works/16818093081207772390/episodes/16818093081207793675


 では!

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俺がカフェでバイトをしてたら同じクラスの学年一の美少女が新人バイトとして入ってきた上、研修を俺が見ることになった件 タカ 536号機 @KATAIESUOKUOK

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