第65話 真っ向勝負デス
「なるほど、そんなことガ。是非再現VTRを見てみたいものデスネ。ペンギン赤田くん」
「そこは忘れてくれません!?」
花凛さんから遊園地に誘われた翌日、昼放課に教室で俺が真剣にどうするべきかを小声で相談しているとアイリさんはニヤニヤしながらそんなことを言う。
「でも、ペンギンになるつもりナラ頑張ってくださいネ! オスのペンギンは子供を育てる期間、ご飯も食べずに子供を温め続けなくてはならないノデ。結構、過酷ですヨ」
「だから、そっちの相談はしてないですって」
「その点日本の特に奈良県のシカなら高待遇デスヨ? 基本的に温暖ですし、ご飯も鹿せんべいを貰えるので困りませン。なんなら、擬人化で美少女にもなれるので完璧デス」
「言ってる意味がよく分かりませんが、遠慮しておきます。俺がなりたいのはシカではなくペンギンなので...ってだからこんな話はしてないんですよっ!」
「デモ私が何か言った所でそれは解決する問題デスカ? 結局は赤田くんがどうしたいか、それが大事だと思いますシ花梨さんもそれを望んでいるはずデス」
「確かに...」
ふざけていたアイリさんは突然きゅっと真面目な顔になると、俺に真剣な目つきでそうアドバイスをする。
確かに、最近は人に頼ってばかりだったせいか少し自分で考えるということを忘れていたのかもしれない。別に悪いことではないとは思うが、こういうことは俺自身がどうしたいかなので人に聞くのは筋違いだったか。
「まぁ、それでも困ったコトがあれば言ってくだサイ。服のオシャレくらいならアドバイスしますヨ。赤田くん、そういうセンスなさそうですシ」
「急に刺してくるのやめません?」
事実だけども。
「というか、今はそれよりももっと他に話し合うべきことがあるはずデスヨ」
「えっ、なにかありましたっけ?」
「なにって
「あー」
言われて俺は思い出す。確かに9月なのでもう体育祭か。色々ありすぎて忘れてた。
「あー、じゃないですヨ。己の生命の尊厳をかけ足が再起不能になるくらい走って、どれだけ血しぶきが流れようとも臓器が散乱しようとも前だけを見て戦い続け、敵には嘘情報を垂れ流し疑心暗鬼に陥れ、時には弱気になっている味方を見せしめに処刑することによって、クラス一致団結して死屍累々のその先にある景色を見に行く、それが体育祭ってなモンですヨ。あまり軽い気持ちで望もうとしないでくだサイ」
「優勝しないクラスは死ぬんですか、ってく
らいスポーツマンシップもへったくれもない物騒な体育祭ですね」
恐らく、青春というより惨劇といった方が正しいだろう。「嫌な事件だったね...」と後世に語り継がれること間違いなし。
「まぁ、それは冗談にしても私、折角アピール出来るチャンスなので頑張りたいんデス」
「うん、頑張って」
アイリさんの事情を知っている俺は彼女の真剣な目つきを見て、心の底からエールを送る——がしかし、逆にアイリさんは何故か俺に向けて凄く冷たい視線を向けて来た。
「いや、頑張ってじゃないですヨネ? 赤田くんも、出るンデスから。いいですか、体育祭というのは誰か1人そういう他人事の人がいると絶対に勝てないんでス。絶対ニ」
「ごめん。でも、俺が張り切ってもクラスの雰囲気悪くなるだけですし...」
「はァ...」
俺の言葉に呆れたようにアイリさんが大きくため息をつく。
「赤田くん、その人がどんな人であろうと真剣に取り組み努力している人を見て雰囲気を悪くする人のことなんて考えなくていいんデス。それにそんな人こそ、私が吊し上げて真っ赤なお花を咲かせてあげマス。だから、安心して全力を尽くしてくださいネ」
「アイリさん...」
「分かって頂けたようデスネ」
「でも、真っ赤なお花はやめてください。ただの警察沙汰なので」
「じゃあ真っ赤な海にしておきまス」
「むしろ大規模になってるんですが!?」
「青い空の下広がる赤々と染まった海。対比が美しいですネ」
「いえ、ただの大惨事だと思います」
「体育祭も大盛り上がりデス」
「阿鼻叫喚の地獄を盛り上がってると捉える人は少数だと思いますが」
「なんなら地域全体が活気付きますネ」
「そうですね、この地域一帯が連日パトカーや救急車やらマスゴミなどで溢れ返りますね」
「むぅ、赤田くんがとても嫌がるので致命傷くらいに留めておきマス」
「気持ちだけ受け取っておきます」
と、そんな冗談を交わし終わると突然アイリさんが「あっ」と何かを思い出したかのように席を立ち上がると、花梨さんの元へと駆けていってしまう。
「花梨さん」
「あ、アイリさん急にどうしたのかな!?」
そして当然のごとく突然のアイリさんの登場に戸惑う花梨さんに向けて、アイリさんは大きく息を吸い込む。
「体育祭、私と勝負しませんカ? 正々堂々と真っ向勝負デス!」
そして教室中に響き渡るような大声でそんなことを宣言するのだった。
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次回「私頑張るからっ」
9ヶ月...。
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