第64話 条件があるよ?


「にしても、一緒に帰るのも随分久しぶりな気がしますね」

「...それは、最近赤田くんがアイリさんと帰るからそんな気がするだけじゃないの? 私は教室で話すことすらダメなのに」

「すいません」


 俺としては、このまま帰り道無言で歩いていくのはどうかと思い話を振ってみたのだが、プクーと頰を膨らませた花凛さんにより見事に致命傷を受けてしまう。

 そういや、その話全然終わってなかった。


「どうも赤田くんこの話を軽く捉えてる節があるよね?」

「と、とんでもないです」


 ジト目の花凛さんから図星を受けた俺は言葉に詰まりながらもなんとかそう返す。


「ふ〜ん?」


 しかし、花凛さんに納得した様子はなく疑惑の視線を俺へと飛ばしてくる。

 というか、少し不満げな花凛さんの可愛すぎるっ! 怒っている様子の本人を前にして思うことではないかもしれないがとにかく可愛いのだ。

 怒っている時すら可愛いとかどうなってるんだ、この生物。


「あ、あの、それくらいにしてくれない?」

「へ?」


 俺がそんなことを考えていると、突然真っ赤な顔をした花凛さんが消え入りそうな声でそんなことを言うので、俺は思わず間抜けな声を出してしまう。どうしよう。凄い嫌な予感するんだけど。


「...も、もしかして、心の声漏れてたパターンだったりしますか?」

「あっ、う、うん」


 ノォォォォォォン!!! 終わった。いつか即死するって分かってたのに。今までは、運良く全て致命傷で済んでいただけだったと言うのに...。

 何故、直そうと努力しなかったんだ俺。


「わ、私、そんな内容覚えてないからそんな落ち込まないで?」


 そこで花凛さんが慌てて俺をフォローするようにそんなことを言ってくれるが、顔が嘘だと物語っていた。花凛さんは優しい嘘つきである。


「...消えてなくなりたい。来世はペンギンがいいなぁ」

「ダメ、って言おうと思ったけどちょっと可愛いかも...。と、とにかく、そんな気にしないで!? ね!?」


 花凛さんは横で必死に俺になにかを訴えかけていたが、放心状態の俺には何も響かなかった。


「と、とりあえず今のはお互いの為に置いてとくとして...話を戻そうか? 赤田くんは私と教室で話す気はあいもかわらずない、と。これでいい?」

「えっ、あっ、はい。間違ってはないですね」



 突然、そんな話題を振られた俺は慌ててそう返す。


「むぅ、即答されるかぁ」

「すいません、こればっかりは譲れないので」


 非常に不満げだが許して貰うしか俺に道はない。


「はあ...じゃあ、関しては諦める」

「あ、ありがとうございます」


 どこか引っかかる言い方だが一応は言質が取れたので、俺はホッと息をつく。


「こういう時の赤田くんが死ぬほど頑固なのはもう知ってるしね...でも、条件があるよ?」

「はい?」


 花凛さんから出た条件と言うワードに俺は戸惑う。


「いいよね? ね?」

「は、はい」



 だが、花凛さんは有無を言わさぬ笑顔で俺に詰め寄ってくるので俺は咄嗟にそう返事してしまう。まだ、条件の内容すら聞いてないのに。


「それで条件ってなんなんですか?」


 とはいえ、一度頷いた以上はそれを果たす必要があるので俺は少し不安を抱えつつも尋ねてみる。


「突然だけどさ、赤田くんって高い所って大丈夫?」

「? まぁ、落ちたら死ぬみたいな所なら嫌ですけど安全なら高くても大丈夫ですけど」

「そっか...じゃあ、速い乗り物って大丈夫?」

「スピード系も特には...」

「そっか」

「?」


 花凛さんは助かったと言わんばかりにウンウンと頷いた。しかし、対する俺は意味が分からずはてなマークを頭に浮かべる。一体、俺はなにを聞かれているのだろう?


「あ、あのね? 奈々が最近凄く遊園地に行きたがってるの。でも、お父さんもお母さんも土日は中々時間が取れなくて...だから、来週の土曜日に私と奈々が行く遊園地に着いてきてくれない、かなって」

「全然、いいですよ」


 想像以上に優しい内容のものに俺は内心ホッとしつつそう答える。良かった。これくらいなら全然——。


「そっか、良かった。...神崎さんも来るけど問題ないよね」

「ブアーー!?」

「上向いてペンギン鳴き!? 本当に来世ペンギン目指してるの!?」


 花凛さんは何故か凄く冷静かつ専門的なツッコミをしているような気がするが、今の俺はそんなことどうでも良くなるくらいパニックに陥っていた。


「だ、大丈夫だから。神崎さんは私と赤田くんの仲知ってるし。とても優しくていい子だから」

「じ、じゃあ、神崎さんと花凛さんと奈々ちゃんで行ってくればいいのでは!」


 なんとしでも、それだけは拒否したい俺は名案を思いついたとそう口にする。


「奈々が赤田くんと凄く行きたいって言うし...そ、その私もどうせ遊園地行くなら赤田くんがいて欲しいの。...ダメ、かな?」


 が、破壊力抜群すぎる花凛さんの上目遣いを貰ってしまった俺に断るなんて選択肢があるはずもなく...。


「...準備しておきますね」

「本当、やったー! わーい!」


 となるのだった。本当にどうすんの!? 本当にペンギンに転生してきたくなってきたけど。


 追伸 ちなみにこの後の花凛さんは四六時中ハイテンションで飛び跳ねたりしていて、とても可愛いかった。これが等価交換というやつか? なにかを得る為にはなにかを捨てなければならない的な。




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 次回「真っ向勝負でス」


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 ちょっと、沼ってます。書きたいものが中々書けない。軽いスランプ状態かもです。そのせいか、少し更新遅れてますがお許しをっ。

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