第63話 色々と話したいことはありますが、ひとまずはお別れからです


「いやー、本当に今日が最後だと思うと悲しいようなsadなような気分になるなぁ」

「本城店長、それ同じ意味です。まぁ、私も同じ気持ちですけど...」


 ここでの最後のバイトも終わりを迎えた俺と花凛さんの前に立った本城さんがそんなことを口にするので、沙也加先輩が横で軽くツッコミを入れていた。本当にいいコンビだなこの人達。


「そこまで自分のこと思ってくれてたのは正直嬉しいですよ」

「本当、これから赤田くんと町田ちゃんの関係が面白くなりそうだってのに...なんで見れなくなっちゃうんだろ」

「正直、私もそれは思いますけどしょうがないですよ」

「あれ?」


 俺としては少し恥ずかったが勇気を出して口にしたセリフだったのだが、この人達もしかして子供がオモチャ取り上げられた時と同じ感じの悲しみ方してない?


「本当にっ、本当にっ、ありがとうございました!!」


 俺がそんな疑念を抱いていると、横で今まで黙り込んでいた花凛さんがそんな声を頭を下げると少し泣き出してしまった。

 花凛さんめっちゃ可愛がられてたしなぁ...思うことも多いのだろう。普段なら号泣必至な映画を観た後でも涙なんてカケラも出ない俺も、釣られて少し涙ぐんでしまう。

 なんか、本城さんはまた会いそう感凄いけど沙也加先輩は多分もう今後会わないだろうしなぁ。

 一か月ちょっとと短い間ではあったが教わったことも困った事も嬉しかった事もダントツに多くて、濃密な日々だったからこそ寂しさが強いのだろう。


「ずっ、花凛ちゃんっ、最後に私とギューしよ」


 すると俺と同じく花凛さんの涙に釣られたらしい沙也加先輩が鼻をかみながら、そんなことを口にした。そして花凛さんも同じ想いだったのか、即座に頷くと手を広げて待っている沙也加先輩の元へと飛びついた。

 最終的に1番仲良くなったのあの2人だからな。やっぱり歳がそこまで離れていない女子同士ということもあってか話も合うみたいでいっぱい話してたし。


「ま、町田ちゃん私もギューしていいか?」

「あっ、本城さんは嫌...です」

「そんなっ」


 そして花凛さんの涙を見て何故か1人だけヨダレをこばして本城さんはと言えば、沙也加先輩とまだ抱きしめあっている花凛さんに速攻で断られていた。

 本城さんの顔は悲壮感に満ちていたが花凛さんが拒否するのもしょうがないだろう。なんか色々と危険感凄いし。


「じゃあ、赤田くん!」

「...花凛さんに振られたからってこっち来るのやめてもらえます?」

「赤田くんはダメっ!」

「「「えっ?」」」


 するとその途端に俺の元へとやってきた本城さんに俺がそんな言葉を飛ばしていると、突然花凛さんが珍しく大きな声をあげてそんなことを言うので俺と本城さんと沙也加先輩は驚きの声をあげる。


「えっ、あっ、いや私は単純に付き合ってもない男女が抱きしめ合うのは良くないと思って...」


 すると俺たちからの視線に気がついたのか花凛さんは慌てて弁明を始めた。まぁ、花凛さんなんとなくそういうの厳しそうなイメージあるしなぁ、と納得した俺だったが何故か本城さんと沙也加先輩と言えば不気味な笑みを浮かべていた。...なんか嫌な予感するの俺だけ?


「じゃあ、お姉さんとギューしよっか赤田くん〜」

「そ、それはもっとダメっ!」


 今度は沙也加先輩がそんなことを言い始めたので俺がなんと言っていいか考えていると、花凛さんが全力で俺に近づこうとした沙也加先輩を通せんぼしていた。


「なんで、邪魔するの花凛ちゃん。私ただ赤田くんともギューしたいんだけなんだよ?」

「そんな笑いながら言われても説得力ないですからっ。赤田くん、早く逃げるよ」

「えっ、あっはい」


 そして結局、俺と花凛さんはやや逃げるようにと店を出るのだった。

 全く締まらない感じになっちゃったけどこれくらいがちょうど良かったのかもしれない。



 *



「じゃあ、2人ともいつでも歓迎するからね? 絶対、いつかまた来てよ? お姉さん待ってるからね? 絶対だよ、絶対だからね?」

「分かりましたよ」

「ちゃんと私に会いに来て進展を報告するんだぞ」

「沙也加先輩、本城さんがいない時間帯とかまた今度教えてください」

「オッケー」

「赤田くぅん!?」

「それでは..」


 店の外へと出た俺たちを見送るように出てきた本城さんと沙也加先輩と最後にそんな会話を交わすと、俺と花凛さんは駅の方へと向かって歩いていく。


「「また、いつか!」」


 そして俺と花凛さんは特段相談したわけでもないのに全く同じタイミングで振り返ると、まだ見送ってくれている本城さんと沙也加先輩に向かってそう口にするのだった。

 ちなみに本城さんはダッシュでこちらへと来そうな雰囲気だったが沙也加先輩に全力で止められていた。本当に最後まで締まらない人である。

 そうして、俺と花凛さんの一か月強に渡る出張バイトは無事(?)完全に終わりを迎えたのだった。


 →→→→→→→→→→→→→→→→→→→→


 次回「条件があるよ」


頂いた町田 花凛さんイラスト!


https://kakuyomu.jp/users/KATAIESUOKUOK/news/16817330664758118438


 良かったら星や応援お願いします。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る