Ⅱ.仲良くなるためにお互いを知ろうって話

5.探しています:年齢相応の女子力

「うーん…………」


 日曜日。


 渋谷駅のハチ公前という、あまりにもベタすぎる待ち合わせ場所の前で、私は腕を組んで考え込んでいた。


 本当に、この服装で良かったのだろうか。


 今私が来ているのは、上下ともファストファッションブランド……っていうかユニ○ロで揃えた、私が普段、休日に出かける時に来ていた服だ。


 上が期間限定で売っていた、どっかの有名画家の絵がプリントされたTシャツとパーカー。下がストレッチ素材のパンツルック。


 斜め掛けの鞄と相まって、このままランニングコースのある公園にいたら、ランニングに来た運動部女子だと思われそうな感じのファッション。


 自分としては動きやすいし、気に入ってるんだけど、以前友達にこの私服を「とても花の女子中学生が着てる服とは思えない」って駄目だしされたことがあるんだよね。


 いいじゃん。別に。何来てたって。そもそも私が着飾って喜ぶ人間なんていないでしょ。そんなに。


 と、まあ、そんな普段と変わらない私服を着ているのにも関わらず悩んでしまっているのには一つ理由がある。


 今日、これから“あの三人”と遊ぶ予定になっているのだ。


 要するに親睦会だよね、と高原たかはらさんは言う。


 彼女曰く、小松川こまつがわさんは、中学校の時も、仲良くなった友人数人で、このくらいの時期に、一緒に遊びに行く話を持ちかけた、のだそうだ。その内容はずばり、お互いを知ること。


 着てくる服も、カッコつける必要性はなく、ただただ、普段来ている私服を着てくる。んで、全員で、それぞれがいつも言っているようなお店に行って、その趣味を共有する。それが小松原さんが提案した「親睦会のプラン」だったらしい。今回はそれの高校生バージョンということになる。


 もちろん、その時よりも活動範囲も広がっているし、個々人の趣味に仕える金額だって上がっている。


 だから、中学校の時に行ったそれとは違って、渋谷、という、全員の住んでいる場所からそこそこの距離にあるだろうと思われる場所を舞台にすることになったってわけ。


 まあ、私からするとそこまで近くは無いんだけどね。だって、家が横浜だし。片道一時間以上かかるっていうのはつまりそういうこと。ここから学校に行くには更に時間がかかるしね。


 と、まあそんなことを考えていると、


「あ、あの……相野あいのさん、だよね?」


「ん?」


 振り向く。


 するとそこには、


「えっと……黒沢くろさわさん?」


「(コクリ)」


 無言で頷く黒沢さん。


 その服装を見て思う。


 たかだかオールファストファッションくらいで一体何を悩んでいたんだろうって。


 黒沢さんの来ている服は所謂“ゴスロリ”というやつだった。私もそんなに詳しくはないんだけど、なんというか「お姫様」っていう感じがする。


 本人がどう思っているかは分からないし、周りを見渡してもそんな服装をしている人は一人もいない。おまけに挿している日傘も黒いものと来ているから凄い。私は思わず、


「すっごい……」


「え?えっと、なに、が?」


「あ、いや。そのえっと……ゴスロリって言うんだっけ?凄いなぁって」


 それを聞いた黒沢さんがちょっと視線を逸らして、


「あ、ありが、と」


 これは、やっちゃったのだろうか。


 前にあったんだよ。男子と一緒に遊んでる時に、なんとなく着てる服がカッコいいなぁって思ったから褒めてみたら、私の期待したのとは随分と違った答えが返って来たことが。


 私は素直に褒めたから「ありがとよ」とか「なんだよ、いきなり褒めんなよ気持ち悪い」とかそういう雑な答えを期待してたんだよ。でもその時の男子は、ちょっと俯いて、視線を逸らして、


「あ、ありがと」


 って答えたのよ。その時は「あれぇ?」ってなったよね。


 結局のところ、その男子には後で告白されてるから、「好きな女子の前で、ちょっとカッコつけたかった」とか「好きな女子に褒められて嬉しい」とかそんな類のものだったんじゃないかなぁと思うんだけど、そんなこともあったから、服を褒めて微妙な反応を見せられると、またなんかやっちゃったんじゃないかってびくってなるんだよね。


 まあ、黒沢さんが私のことを恋愛的に好きで、褒められて、素直な反応が出来なかったなんてことは無いと思うけ、



 →カッコいい、しゅき……→



 前言撤回。ほぼ、無いと思うけど、それでも、微妙な反応にはやっぱり気を使ってしまう。


 私は汚名を返上しようと、


「あ、ほ、ホントだよ?ホントに凄いと思って。私、そういう女の子?っぽい服、全然持ってなくって」


「そ、そう、なの?」


 ほっ、取り合えずリカバリは出来たみたい。


 だけど……まあ、これはいつものことなんだけど、黒沢さんの視線は基本的に私と交わらない。これに関しては小松川さんや、高原さんともそうなので、彼女がそもそも「人と目を余り合わせない人」なんだろうなと思ってる。


 この辺も人によるんだよね。私は基本「人と話すときは目を合わせなさい」って教えられたから、いつもそうしてたんだけど、どうも男子からすると、じっと目を合わせて、褒められるってのもちょっとキュンっとくる要素になりうるらしい。うーん……距離感って難しい。

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何故か人物相関図の矢印が見えるようになってしまった件 蒼風 @soufu3414

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