女神様からのお呼び出し


 ————あ、あれ?

 ここどこだ?

 今までお店にいたよね?


「あ、きたきた!アクツザ ワビスケさん、こっちでーす。ようこそ!」


 女神だ。

 翠髪の翠眼の女神様が俺に話しかけてきてる。

 チャーシュー食って、本当にエデンに来てしまったのだろうか。


「…………えっと、モグモグはじめまして?」


「はじめまして。私の名前はエリカ。神様やらして貰ってます」


 本当に女神様だった。

 近づくとさらに美しい。

 お肌卵みたいね。


「モグモグ、エリカ様、綺麗ですね」


「……えっ?」


 あ、少し顔が赤くなった。

 チョロインだ。


 いや、それどころではない。


「あの、モグモグここ、どこなんでしょうか?」


「天界です」


 天界に居る展開か。

 なんつって。


「もしかして、モグモグ俺死んだんですか?モグモグさっきまで豚骨ラーメン食べてたんですけどゴクッ」


「はい、あなたは死にました」


「そ、そうなんですか」


 やはりそうなのか。

 あれが最期の豚骨ラーメン。

 あ、最後のチャーシューも今飲み込んでしまった……

 最期のラーメンくらい食べ切って終わりたかったな——


 いや、待て。

 ラーメン食べてて死ぬ状況とはなんだろうか。


「あ、お水貰えたりしますか」


「どうぞこちらを」


 ファンタジーだ。

 何もないところから水の入ったコップ出てきたよ。

 しかも冷たい。


「ありがとうございます」


「私が殺しました」


「ブフォッッ…………」


 吹き出してしまった。

 思い切り口の中の油と水の混合水を顔にかけてしまったよ。

 ごめんなさい。


「ごめんなさい、ちょっと驚いちゃって」


「全然気にしないでください〜」


 良い笑顔だけど、目が全然笑ってない。

 怖いんですけど。

 というか今なんて言った、この子。


「こ、殺した?」


「はい、もちろん間接的にですよ?」


 うーん。

 あまりそこは関係がない。

 殺意があるのが問題なんだよ。


「俺、あなたに恨まれるような事しました?」


「いえ、全然。むしろあなたの事は好ましく思っておりますよ」


「……え」


 俺のこと好きなのだろうか?

 もしかして、もしかするのだろうか。


「私、扱いやすそうな人間、好きなんです」


 そうですよね。

 そう都合良い展開にはなりませんよね。


「……では何故、俺は殺されたのでしょう?」


「実はですね、世界がピンチなんです!」


 またよくわからないことを仰り始めた女神。


「……世界がピンチ?」


「はい、私の管理する『惑星オレオ』に負の感情が溜まり始めてしまって。今、大ピンチなんです!」


 緊張感ないな。

 そんな元気に言われても……

 やはり、そのピンチと俺が死んだ事に何か関係があるのだろうか。


「俺に、何かさせたいんですか……?」


「そうなんです!理解が早くて助かります」


「……何をすればよいのでしょう?」


「ワビスケさんには、天界にある事務所で私と一緒に働いて欲しいんですよ」


「…………えっと。ごめんなさい。理解の範疇を越えたらしいです」


「だから、天界にある謝罪専門事務所『ムーンライト』で働いて欲しいんです」


「謝罪専門事務所……ですか?」


「はい、『ざまぁ』される側の人の救済措置を目的として活動します」


「へぇ……。なんで俺なんですか?」


「ワビスケさん勉強できますよね?」


「え、まぁ。難関の私立校に入学するくらいには」


「それに身体能力も高い」


「動いていたのは大学までの話ですけどね」


「……それにワビスケさん、お知り合いになんと呼ばれているか知ってますか?」


「え、知らないですけど」


「圷座にちなんで『土下座の王様』ですよ」


「まじでじま」


 土下座はそんなにしていない。


 誰だそんな渾名を付けたのは。

 心当たりはなくはないけど。


 映画のタイトルみたいだな。

 なんかこうもうちょっと捻れなかったのだろうか。


「まぁそんな所が選ばれた理由ですかね」


「……わかりました。そのお話引き受けます」


「よかったです。今更無理とか言われてもどうしようもなかったので」


 そうですよね。

 殺してしまってるんですもんね。


 女神様が何か呪文を唱えると空の上からひらひらと高級そうな紙が一枚落ちてきた。


「これ誓約書です。血判をお願いします」


 血判なんて押すのか。

 だんだん不安になってきた。

 でも、ここまで来て引き下がれないよな。


「わかりました」


「あの…………なんで……親指、噛んでいるんですか?」


「ちょっと浪漫が」


「……はぁ、」

 

 一度はやってみたいよね。

 カリッと噛むやつ。


「はい、これ、小刀です。薄く切ってくださいね」


 薄く。薄く。

 お、いい感じだ。


「捺せました」


「ありがとうございます。これで契約完了です」

 

「では次にそこの魔法陣の上に乗って、血を一滴垂らしてください。ワビスケさんの体を天界に耐えられる体にします」


 血ををよく使う日だ。

 というか神様も魔法陣とか使うんですね。

 一滴。

 一滴って難しいな。

 えいっ。


「…………垂らしました」


 切りすぎた。

 痛い。

 リストカットみたいになってしまった。


 また女神が呪文を唱え始めた。

 少し魔法陣が光るーー


「では、事務所に向かいましょうか」


「え?もう終わったんですか?」


「はい。もう大丈夫です」


 一瞬だったな。

 ほんとに耐えられるのだろうか。

 破裂したりしないよね。


「あの、徒歩ですか?」


「そうですよ?」


 事務所徒歩圏内か。

 あ、女神様が部屋を出ていってしまう。


「最後に……俺の、死因とかわかりますか?」


「わかりますよ」


「やっぱり、あのラーメンが美味しすぎて……?」

 

 ラーメンのうますぎで死んだなら死に方としては及第点ではないだろうか。


「あながち間違いじゃないですね。ラーメンの食べ過ぎで高血圧からの動脈硬化からの心筋梗塞にしました」


 しました。って。

 そうでしたね貴方が殺したんでしたね。


「そですか」




 ほんと聞かなければよかった———

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