オリビアといふ女
ゲマルク王国、首都バトラべ。
その中心には王城が存在する。
そして今回の事件はそこで起こった。
最重要人物となったのはオリビア・アレス伯爵令嬢。
彼女は、貴族学院での有名人だ。
才色兼備、品行方正。
誰から見ても憧れの対象になる彼女にはファンクラブがいくつも存在した。
そう、
今日、この日までは。
「オリビア・アレス。お前がステラ・マルク男爵令嬢にした非道、もはや許し難い!お前との婚約をここで破棄する!」
学院の卒業式後の舞踏会の開会直後、王太子のカイル・ゲルマクが、壇上からオリビアにそう宣言した。
彼女はカイルの隣で微笑むステラを睨む。
(あいつ、よりにもよって殿下にちくりやがりましたの)
「っいきなり何をおっしゃるのですか。悪行なんてした覚えはありませんのっ」
(やばい。声が震えてますの。動揺しているのがバレバレですの)
「いきなりではない、前々からステラから相談されていた。この場で貴様の罪を読み上げようーー」
そう言ってカイルは大きな質の悪い紙を広げ、声高らかにオリビアの犯した罪を読み上げる。
「一つ、ステラ嬢の教科書の中に落書きをし、破って捨てた。
二つ、彼女の靴を隠し、裏の井戸に捨てた。
三つ、彼女のドレスに故意にワインを掛けた。
・
・
・
八つ、テストでカンニング。
九つ、魔法の授業での教師の買収。
そして挙句の果てには先日、移動教室に向かう彼女を階段の5段目から突き落とした!」
カイルは息を切らしながら、どんなもんだとドヤ顔でオリビアに言い放つ。
(まずいですの。全部心当たりがありますの)
オリビアの内心は気が気ではない。
今日の会場は宮廷。
王侯貴族の当主たちも出席しているのだ。
何か一つ行動を間違えるだけで物理的に首が飛ぶ。
「そそそ、そんなこと、してませんの。なにか証拠でもありますの?」
震えが止まっていない。
悪どいことをやりながらも小心者のオリビアである。
「あぁ、ここに目撃者の名前も複数名、書いてあるぞ」
(まじか。ほんとにやばいですの)
「そ、それに、い、いい、いくら殿下とはいえ、王命の婚約を破棄などできるわけありません」
「いや、父にも承諾を得ている」
(完全に詰んだ。お先真っ暗ですの)
(あれ、ピンチすぎて視界が揺らいできましたの)
——
(え?……え!?ここはどこですの!?)
オリビアはかなり狼狽している。
当たり前だろう。
先ほどまでは宮廷で殿下と対峙していたのにいきなり白い部屋に移動したのだ。
彼女は辺りを見回し出口を探す。
(出口ないですの)
そして彼女はあるものに目が止まった。
この部屋の異分子。
彼女はゆっくり近づいていく。
(なんか、爆発しそうですの)
(何ですの、この黒い箱……)
彼女は手が届くところまで黒い箱に近づいた。
そして彼女は不思議そうにそれを眺める。
上から眺めーー
左から眺めーー
右から眺めーー
黒電話持ち上げて
下から眺めーー
(あ、触ってしまいましたの)
(でも、何も起こらないですの……)
彼女は黒い箱の正面に数字が書いてあることに気づいた。
(この数字なんでしょう)
ギギッと音がした。
(まずい!変な音なりましたの!!)
彼女はその場から離れ、頭を抑えて蹲る。
何も起きない。
彼女は恐る恐る顔を上げる。
(何も起きないですの)
また彼女は箱に近づく。
(さっきは触っても大丈夫でしたし)
ギリリリ。
ギリリリ。
静かな部屋に鈍い金属音が響く。
(まだ何も起きないですの……)
ギリ。
ギリリリリリ。
(…………ふむ)
ギリリ。
ギリリリリリ。
ギリリリ。
ギリリリ。
(なんか、ちょっとたのしいですの。玩具の類いかしら)
彼女は少し楽しくなってしまったらしい。
黒い箱と戯れた彼女はふぅと一息ついた。
そして、箱の横に手のひらサイズの手紙が置いてあるのに気づく。
(あれ?さっきまで手紙なんてありました?)
彼女は少し警戒を高める。
最初からあったのなら気づかないはずがないもの。
(触ったらダメ。危険な香りがぷんぷんしますの)
だが、彼女の好奇心が邪魔をする。
彼女は手紙をおずおずと手に取った。
そして上から目を通していく——
-お困りのあなたへ-
はじめまして。
この部屋はあなたの謝罪の入り口。
あなたが強く謝りたいと願った時。
そして
あなたが謝らなくてはいけないと世界が判断した時。
この部屋はあなたの前に現れます。
共に解決策をみつけましょう。
私達は何があってもあなたの味方です。
手紙を読み終えるとすぐに電話に着信が入ります。
※電話とは隣にある黒い箱のことです。
※電話が鳴ったら上に乗ってる小さな箱を手に取り耳をつけてください。
※電話は着信専用です。
-謝罪専門事務所『ムーンライト』-
(意味、わからないですの……)
(超怪しいですの)
彼女は、その怪しい手紙を読み終えると元あった位置に置く。
ジリリリリン——
(ビックリした!脅かすなですの)
(やはりこれが黒電話ですのね)
ジリリリリン——
ジリリリリン——
ジリリリリン——
(上のこれを取ればいいのよね)
戸惑いながらも彼女は上の小さな箱を手に取る。
音が止んだ。
すると
『もしもし————』
(誰かいますの!?)
彼女は辺りを見回す。
周りに人はいない。
『もしもし————』
(ここから聞こえてますの)
声は箱の先端から聞こえている。
彼女は声が発せられた場所へと耳を当てる。
「…………あの、誰ですの?」
『あ、お電話ありがとうございます。私、謝罪専門事務所『ムーンライト』のワビスケと申します。まずはあなたの謝罪についてお話ししたいので——」
ガチャン
(箱、戻してしまいましたの)
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