女神エリカと女神リコリス


 会議が終わり、会議室に残されたのは2人。


 議事録へとまとめを記入するリコリス。

 そして先程リコリスから手渡された資料を読み、頭を抱えているエリカだ。


 会議室にはカリカリとシャープペンシルの音だけが流れる。


 沈黙に耐えられなくなったアホがいた。

 女神エリカだ。

 エリカがリコリスに話しかける。


「先輩、募集人員の条件が酷すぎます」


 リコリスは動かしていた手を止める。

 そして先程の会議中とは打って変わり、優しい声でエリカに答える。

 この2人、普段は休日に遊ぶような関係だ。

 新人女神だったエリカのサポートをしていたのがリコリスだったというのもありとても仲が良いのだ。


「そんなことないと思うけど。世界には意外と優秀な人は多いのよ?」


「でも、身体能力、学習能力、思考力、コミュニケーション力がいずれも高く、向上心があり、謝罪をし慣れている20歳以上の男女(できれば美形がいいです)って見つからないと思うんですけど」


 そんな人間ほぼ存在しない。

 どうやらアホはエリカだけじゃないようだ。

 惑星オレオを支配する女神達は漏れなく頭が弱いらしい。


「そうかしら?」


「学習能力があってちゃんと考えられる人なら謝罪する状況に何度もならないと思います!」


「たしかに……ね。言われてみれば……」


 エリカが正論を言った。

 珍しいことにリコリスは少し呆気に取られる。


「もし見つからなかったら、カトレア様に進言してくださいね」


「仕方ないわね。わかったわ」


 そう言って、リコリスは自分の作業に戻っていく——


「そういえば負の感情ってどれくらい溜まってるんですか?」


「チッ……」


「ご、ごめんなしゃぃ」


 再開しようとした手を止められたリコリスに舌打ちされエリカはシュッと肩を狭める。

 リコリスはキッとエリカをにらんだ後、手をポケットへ入れる。

 出てきたのは丸い透明な水晶。


 リコリスはちょいちょいと手招きをしエリカを近くへと呼ぶ。


「少し、この水晶見ていてね」


「わかりました」


 リコリスは水晶に向け、呪文のようなものを唱え始めた。

 あ、遂にうちの上司がおかしくなってしまった。

 そうな事を考えるエリカだったがそうではないようだ。


 リコリスが呪文を唱え終わる。

 すると水晶の中心から赤黒い霧が湧き出るように発生し始めた。


 発生した霧は中心から離れるほど薄くなるように勾配をつけながら広がり、停止した。


「この霧のようなものが悪感情よ」


「へぇ、そうなんですか。中心の方が濃いですね」


「うん、物質化した感情は重力に引っ張られるのよ」


「え、この水晶なんなんですか?」


「簡潔にいえば、惑星オレオのレプリカかしら」


「えっと……?」


 頭の弱いエリカには難しい話のようだ。

 私にもさっぱりわからない。


「この水晶と惑星オレオは全ての現象を共有しているの」


「……そうなんですか」


 理解できなかったエリカは『そうなんですか』と言うことしかできない。


「事務所の活動が始まったらエリカにも使ってもらうわよ」


「そうなんですか?さっきの呪文とか全然聞き取れなかったんですけど」


「あの呪文を理解するにはカトレア様の許可が必要なの」


「そうなんですか」


「因みにこの水晶が漆黒に塗りつぶされた時、世界が終わると言われているわ」


「そうなん……えっ!?世界が終わる!?そんな重大な案件を新人にやらせるんですか?」


「カトレア様もあれであなたに期待しているということよ。もちろん私もよ」


「せんぱい!そんなに私のことを……っ!」


 ウィンクしながらそう言ったリコリスに感極まったエリカが嬉しそうに抱きつく。


「それに、あなたが失敗したところで最悪の事態になるのはもう数千年か後だから」


「…………そうなんですか」




 リコリスはどうやら上げて落とすタイプらしい。

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