惑星オレオ

 

 天界ーー全ての惑星を管理する神々と神見習い達が住む世界。

あその幻想的な空間は人々のイメージする天国に近いだろう。


 天界の首都、エリュシオン。

 多くの神や神見習いで賑わっている。

 そんなエリュシオンの中心にまるで象徴のように大きな建物が建っている。

 天界役所だ。 

 その最上部は雲で隠れてみることができない。


 そしてこの話の舞台は天界役所の地上8階。

 第1会議室へと移る。


 そこには惑星オレオを管理する8人の女神が集っていた。


 天界は意外にも暑い。

 会議室にはムワっと熱がこもっていた。

 冷房の効かない会議室での長時間拘束に神々とはいえかなり疲労が見え始めている。


 その状況に悩む女がいた。

 議長の女神リコリスだ。

 リコリスは手元にあった、氷で薄まったコーヒを一口飲むと会議を進行する。


「では、最後の議題に移ります。皆さんしっかりして下さい」


 議長のリコリスの言葉にやれやれという表情をしながらも他の女神たちは彼女に顔を向ける。


「昨今、所謂『ざまぁ』が横行し、惑星に負の感情が溜まりすぎています。

 これに対策するため、『ムーンライト謝罪専門事務所』を設置する運びとなりました。

 そして、この事務所の責任者として女神エリカを指名します」


 これにいち早く反応した、女がいた。

 その女はガタッとイスの音を立てその場に立つ。

 女神エリカだ。

 彼女はココアビスケットの間にクリームが挟まったお菓子を頬張りながら挙手をしている。


「はい、エリカさん。飲み込んでから話し始めてください」


 エリカは手元のコップを取り、口につけ、傾ける。

 プッと隣に座っていた女神サザンカが笑った。

 どうやら中身がなかったようだ。

 顔を赤くしながらエリカはオレンジジュースを召喚する。

 そして、これでもかとお菓子が詰まった口に一気に流し込んだ。


 もぐもぐ、もぐもぐ。

 むしゃむしゃ、むしゃむしゃ。


 静かな会議室に咀嚼音が響く。 

 ようやく飲み込んだエリカが少し顔の赤いまま平然を装い話し始める。


「責任者になるなんて話聞いてません」


「はい、先程初めて言いました」


「辞退します」


「……理由を聞かせてもらえますか?」


「どうせ、他に惑星から呼び出して社員集めたりするんですよね?めんどくさいです」


 ただの我儘だった。

 発言を待っていた時間を返して欲しい。

 エリカ以外の全員の総意だ。


 エリカは新人にも関わらず、どうも上司に対する態度がなっていない。


「めんどくさい。それだけで降りられるほどこの世界は甘くないですよ」


「では、逆に私がやらなくてはいけない理由を教えてください」


「私を含めあなた以外の7人は既に今世紀のノルマを達成しています。

 貴方はまだ3分の2もクリアしていないそうですね」


「…………」

 

 正論に何も言えないエリカ。


 彼女は何を考え発言したのだろう。

 アホである。

 詰むのが早すぎる。

 なにか勝算がある訳でもなかったようだ。

 そして自分の過去の怠慢が自分の首を絞めているのだからほんとに目も当てられない。


 さらに追い打ちをかけるように惑星オレオの取締役である女神カトレアが発言する。


「あなたは前世紀のノルマも未達成でしたね?」


「……はい」


「よって今回の作戦が遂行されなかった場合、女神エリカの神格を剥奪。また神見習いから始めてもらうこととします」


 みるみると顔の色を悪くするエリカ。

 部長にお説教されて落ち込まない新人はいないのだ。

 それに神見習いは地味でとても辛い。


「……わかりました。私、必ず成功させてみせます!」


「良い意気込みです」


 カトレアは満足そうに笑い、他の7人とは違う柔らかそうな背もたれにもたれる。


「では、これを渡しておきます」


 そうリコリスから手渡されたのは5センチほどの厚みの資料。

 表紙には『エリカへ♡』と書いてある。

 変なところでお茶目な上司だ。

 エリカははペラペラとページをめくりながらリコリスの話を聞く。


「これには報酬、達成条件、人員その他諸々、必要だと思われる事について載っています。目を通しておいてください」


 そう伝え終わるとリコリスは自席に戻る。

 彼女はまた氷で薄まったコーヒを一口含み、自身で作ったアジェンダに目を落とす。

 話し合いに漏れがないことを確認し、少し声を張る——


「以上で全ての議題が終了しました。最後に、何か発言のある方は挙手を」


『…………』


「それではこれで会議を終了とします。忘れ物をしないように」


 彼女の会議終了の合図と共に1人また1人と女神達は会議室から出ていく。

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