圷座侘助

「申し訳ございませんでした————-


 俺—圷座侘助は今、取引先で45度に腰を曲げている。

 因みに俺は最敬礼しているが今回も俺のミスではない。


 数日前のことを思い出す————


 ある日、俺の上司をしている男が新人の教育係をすることになった。


 まぁ正直、その日から嫌な予感はしていた。

 この無責任上司のことだ何かをやらかすだろうと。


 やはり上司はアホだった。

 上司はその新人にいきなり取引先を任せた。


 そして案の定というかなんというか。

 その新人が注文書より一桁少なく取引先に手配するというミスをしてしまう。


 ちょっとした騒ぎになり、取引先に謝罪しにいくことになった。


 そして謝罪に行かされるんのが俺。

 意味がわからない。


 上司が新人君引き連れていけば良いものを。

 それになぜか部長も俺を推してくる。

 こんなことで推されても全く嬉しくない。


 俺が代表して謝罪にいくことはよくある。

 理由もわかっている。


 俺は謝るのがとても上手いらしい。

 怒り心頭の相手でも最後にはなだらかに謝罪を終えることができる。

 だからか知らんがよく謝罪を任される。

 今回もそうだ。


 謝罪につき別途の給料はもちろんでない。

 俺にとっては謝り損。


 職場も職場で残業は当たり前のブラック。

 その残業もタイムカードを切ってからやらせる始末。

 せめて残業代は出せ。

 田舎だからって労働基準監督署の皆さん少し笊すぎませんかね。


 そんなこともあり、もう辞めようかな。

 と考えながら取引先から直で自宅へ帰る今日この頃。


 今日は金曜日だし、今週のご褒美に豚骨ラーメンを食べようと思いついた。


 自宅の最寄駅から徒歩3分。

 自宅へ帰宅するまでの動線上に、そのラーメン屋はある。

 名を『はづき』。

 店主が脱サラして始めたラーメン屋で、長年研究してできたと言われるスープは他の店と一線を画する。

 

 午後9時すぎ。

 俺は『はづき』に足を運んだ。

 手動の引き戸を開き、暖簾に腕押ししながら店内に入ると、鼻腔を蕩かす濃いスープの臭いが漂ってくる。


「いらっしゃい」

 

 店主のぶっきら棒な声で出迎えられ、俺は一番奥のカウンター席に腰をかける。


「お客さん、いつもの?」


「はい」


 数年前から週に一度は必ず来店している俺はすっかり常連客である。

 天井に設置されたテレビでバライティを見ながらチラチラとラーメンができるのを観察するーー


「はいよ」


 10分ほど経ってついにラーメンが出来上がった。


 俺が頼んだのは豚骨ラーメン。

 麺はカタ。油は普通。


 まずは濃厚なスープを一口。

 スープは鶏ガラと豚骨のミックスだ。

 うまい。

 仕事終わりの空きっ腹にしみる。


 次に麺を少し持ち上げる。

 細い麺に店主自慢のスープが絡みついてキラキラしている。

 ずずっと勢いよく麺をすする。

 幸せだ。

 細麺なのにコシがしっかりしている。


 そして忘れてはいけないのがチャーシューだ。

 数時間煮込んでいるこのチャーシューは箸で掴むだけで崩れてしまうほど柔らかい。

 肉にスープを絡ませ、いざパクリ。

 豚のスープと肉のデュエットが口の中で広がる。



 あぁエデンはここにあったのだ————

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