28話:sideさな-2

 私、千早ちはや紗奈さなは潰そうと思った奴はことごとく潰してきた。

 この業界舐められたら終わりだからだ。


 私に逆らう奴なんて誰もいない。でも、それはパパの仕事だけが理由じゃない。

 なぜならみんな、私を愛しているから。

 それは潰した相手も変わらない。

 ことが終わった後、優しくしてやればどいつもこいつもころっと墜ちてくれる。

 

 私が私らしくあれば、他人は愛してくれる。

 物心ついたときからそれは分かっていた。

 ちょっと笑顔を振りまけば、それだけでちやほやしてくれる。

 少し声を高くすれば、色めきだって尽くしてくれる。


 それが私の天命で、そんな自分が大好きで今に至る。 

 だが、こりゃなんの冗談だ?


 コラボ配信終了した直後。 

 私は身動き一つせず椅子に座り、目の前のモニタを見ていた。

 画面には柚須かふりを称えるコメントばかりが流れている。

 

 おかしい。

 本当だったらここは私の、神崎チナへの賛辞の言葉で溢れているはずだ。


 あの時だ。クソ後輩が少し声を変えたあの瞬間。

 流れが一気に持って行かれるのを肌で感じた。

 隣に座る女、柚須かふり演じるクソ後輩を目だけ動かして見る。


 綺麗に整った顔と長い黒髪が視界に入ってくる。


 初めて出会った潰れなかった相手。

 外敵。


 私はコイツを……どうすればいい?

 

「……負けてねぇから」

 

 絞り出すような声が私の喉から聞こえた。

 自分の声じゃなくなったみたいだ。


 クソ後輩、柚須かふりは私の方を見もせずに「はい」とだけ答えた。

 興味が無いという感じじゃない、あえて見ようとしていない。


 視界がにじみ、液体が頬を伝う。

 

 なんだ? 気を遣ったつもりか? 

 ――むかつく!!


 両手で顔をぬぐうと、私はあらためてクソ後輩に向き直った。


「また、コラボやるぞ。そんときゃ絶対に潰す」


「……はい。またやりましょう」


 クソ後輩は、話しながら柚須かふりの声から元の声へ音程を戻す。

 わずかに残っていたある響きが私の耳に触れた。


 ……その声をやめろ。

 

「先輩、何か言いましたか?」


「なんでもねぇよ」


 クソ後輩の言葉を蹴散らすと、私は配信後に行うSNSへの投稿のため、スマホを取り出した。ひととおり、客どもに感謝の言葉を与えてやると次はチャンネル登録者数を確認する。神崎チナの登録者数ではない、柚須かふりの方だ。


「……チッ」

 

 やっぱりだ。馬鹿みたいに増えてやがる。


 クソ後輩のそれは、リアルタイムで増加し続けていた。

 十五万はとっくに越えて、十六万が見えてきている……あ、越えた。

 ……このペースだと、明日には二十万には届くだろう。

 完全にこのコラボ配信の影響だ。


 パパの思惑通りといえば思惑通りだ。

 もしかして、ここまで織り込み済みでパパは私とクソ後輩のコラボ配信を企画して……? パパすごい!!


 でも……やっぱり……。

 面白くない。


「……おい、クソ後輩」


「はい?」


 私と同じく自分のスマホを触っていたクソ後輩が、間抜けな声で答えた。

 口元がにやけている。この野郎……登録者がドンドン増えるの見てにやにやしてやがったな。


 コイツはあの女の関係者だ。それは間違いない。だから、こんなにむかつく。

 適当な言葉で誤魔化していたが、私には分かる。


 なぜなら、あの女が自分から他人と一緒にいるなんてありえないからだ。


 それに……。


 ふと、私の中である考えが浮かぶ。

 やがてその考えは脳内で様々な流れを巡り、一つの結論を導き出す。

 仕返し。


「……クソ後輩、お前、私が登録者五十万人のご褒美に何をお願いしたか知りたがってたよな」


「え、あぁ……はい」


「教えてやるよ」


 私は、クソ後輩の耳元に口を寄せ、私がお願いした内容を漏らさず伝えてやった。

 なぜ、そのお願いをしたのかも。


「……え?」


 ……やっぱりコイツは知らなかった。

 あの女がやらかしたこと、そして、なぜアイツがこんな所で情報屋なんてやってるのかを。



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読者様へ

いつも読んでいただきありがとうございます。


更新した次の朝、PV数を見て読んでくれる人がこんなにいるんだと毎回感動しています。


ここで二章が終わり、次回から三章になります。全四章を予定しているのでここがちょうど、中間地点です。


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三章以降もよろしくお願いします。





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