第17話 いつか丘の上の教会で……

 村には、いや、この国には結婚という制度がなかった。

 それでも二人で教会へ行く若者は多かった。

 元気な子が生まれるように。

 二人仲良く暮らせるように。

「二人で教会へ行こう」

 それは王都でも、田舎の小さな集落でも。


 隊商キャラバンが王都へ向かって半年、隣国ダリアへ帰る彼等が村へ来た。

 王都で仕入れた珍しい品を広げ、村の広場はお祭り騒ぎだった。

「今回も無事で何よりです」

「おかげさまで、なんとか辿り着きましたよ。これも神父様のお祈りの力でしょう」

「大地神マルソーの加護でしょうか」

「今回は臨時雇いの護衛が二人だけで済みました」

「そうですか。商人の皆さんに、死者が出なくて良かったですね」

 そんな会話を交わす、商人トビーと神父ピエトロだった。


「さぁさぁ、王都で人気の木工くじはどうですか」

 木工細工を積んだ馬車の前で、商人が子供達を集めていた。

「くじって楽しいの~?」

「なにそれ~」

 意味も分からず、子供達が集まっていく。

「くじを引いて、こんな素敵な賞品が貰えますよ~。さ・ら・に! 今だけ特別に、20回で天井商品まで貰えてしまいます! もう引くしかありませんね~」

「「わ~! 引く~」」

 何も理解していないが、子供達が群がっていく。

 賞品は木の玩具、木の盾、木槌、木彫りの熊、四角い木のコップに木の器。

 さらに木の小鉢等々、よく見れば、この村で作られたものだった。

 20回引くと貰える商品は山で採れた丸太。

 当然だが、子供達は金など持っていない。

 賞品と言っているものは、国へ帰ってから売る品々だ。

 カモだらけだが、商人も素朴な子供たちをからかって遊んでいるだけだった。


 隣りの馬車では、色とりどりの煌びやかな服を積んでいた。

「さぁさぁお嬢ちゃんたちはこっちだよ~。王都の最先端のドレスだよ~」

「すてき~」

「なにこれ~きらきら~」

 女の子たちが馬車に集まってドレスをながめる。

「隣りのとは違うからね~。こちらは王都の流行最先端のワンピース。くじなら何時当たるか分からないけれど、今なら銀貨を払うだけで、確実に手に入りますよ? 実質タダみたいなものですね」

「きゃー」

「今ならタダー」

 まったく意味が分からないが、女の子たちはキャーキャー騒いでいた。

 実際に買うのは、王都で仕入れた麻の古着だけだが。


 金かね金のかけ引きから解放される村。

 商人たちにとってその村は、心も休められる憩いのひとときであった。


 そんな騒ぎの広場から離れ、小高い丘の上の小さな教会の前。

「ごめんね。こんな時に」

「いいよ。なんかあったかい」

 ネアに連れられ、丘の上まで来たニロだった。


「かあさんを治せる医者がいるかもしれないんだって」

「え、本当に。良かったじゃないか」

「うん。その医者が東のダリアにいるんだって」

「え……隣りの国」

 外には魔獣も山賊もいる。

 隣国とはいえ、簡単に行き来できるものでもない。


「トビーが……隊商と一緒に連れて行ってくれるって。父さんの薬は、隣国あっちでも人気なんだってさ」

「そうなんだ……でも、アリーゼが元気になれるなら……」

 ネアの母アリーゼは生来、体が弱く、寝込みがちだった。

「……うん。でも……向こうへ行ったら、いつ帰ってこられるか……」

「待ってる。ぼくも14になれば、一人で外に出られる。逢いにも行けるよ」

「うん」


 うつむくネアの手を、ニロが強く握る。

「アリーゼが元気になって帰って来たら、二人で教会へ行こう」

「……えっ?」

「ピエトロの祝福を受けようよ。大地の神なんて祈ってなかったけどね」

「うん……うん。絶対だよ」

 顔を上げずにうつむいたまま、その頭でニロの胸をたたくネアだった。

「ははっ、国境を越えるのは大変だから、早めに帰って来てね」

「うん。うん」

「いたっ、ははっ、いた、痛いよネア」

 ドスッドスッと、ネアの頭突きは止まらず、ニロの胸を打っていた。


 チートで無双を、勝手に夢見るジョシュ。

 父を超える鍛冶屋を目指すジャレッド。

 体の弱い母を想う少年マシュー。

 機織りの少女ジーナ。


 子供達の希望溢れる明日と、光り輝く未来。

 優しく見守る大人たち。

 そんな特別な事もない、特別な日々。

 その全てが消え去る日も来るのだろうか。


 世界は理不尽に満ちている。

 不条理こそが、この世の理だ。



 序章、田舎の平和な暮らしはここまでとなります。

 平和な世界でいて欲しい方は、ここまでで満足してください。

 これより先は、絶望を知った少年が、破滅に向かう物語。

 お子様には見せられない為、別作品となっております。

 性的な表現はありませんが、残酷表現はたっぷりとある可能性があります。

 くれぐれも、ご注意ください。


 女性は分かりませんが、男、四十しじゅうで惑わず。ともいいます。

 この先の本編は、精神年齢が40を超えた大人向けとなります。


 続きはこちら『女神の剣』

https://kakuyomu.jp/works/16817330655878841886


 めんどくさいからエンディングだけ見せろ!

 という方は、こちら。

 たった一つ残った希望さえ失った少年が、最後に向かう道。

 エンディング『救世主』

https://kakuyomu.jp/works/16816700425968914449

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〔序章〕 丘の上の小さな教会で…… とぶくろ @koog

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