第17話 いつか丘の上の教会で……
村には、いや、この国には結婚という制度がなかった。
それでも二人で教会へ行く若者は多かった。
元気な子が生まれるように。
二人仲良く暮らせるように。
「二人で教会へ行こう」
それは王都でも、田舎の小さな集落でも。
王都で仕入れた珍しい品を広げ、村の広場はお祭り騒ぎだった。
「今回も無事で何よりです」
「おかげさまで、なんとか辿り着きましたよ。これも神父様のお祈りの力でしょう」
「大地神マルソーの加護でしょうか」
「今回は臨時雇いの護衛が二人だけで済みました」
「そうですか。商人の皆さんに、死者が出なくて良かったですね」
そんな会話を交わす、商人トビーと神父ピエトロだった。
「さぁさぁ、王都で人気の木工くじはどうですか」
木工細工を積んだ馬車の前で、商人が子供達を集めていた。
「くじって楽しいの~?」
「なにそれ~」
意味も分からず、子供達が集まっていく。
「くじを引いて、こんな素敵な賞品が貰えますよ~。さ・ら・に! 今だけ特別に、20回で天井商品まで貰えてしまいます! もう引くしかありませんね~」
「「わ~! 引く~」」
何も理解していないが、子供達が群がっていく。
賞品は木の玩具、木の盾、木槌、木彫りの熊、四角い木のコップに木の器。
さらに木の小鉢等々、よく見れば、この村で作られたものだった。
20回引くと貰える商品は山で採れた丸太。
当然だが、子供達は金など持っていない。
賞品と言っているものは、国へ帰ってから売る品々だ。
カモだらけだが、商人も素朴な子供たちをからかって遊んでいるだけだった。
隣りの馬車では、色とりどりの煌びやかな服を積んでいた。
「さぁさぁお嬢ちゃんたちはこっちだよ~。王都の最先端のドレスだよ~」
「すてき~」
「なにこれ~きらきら~」
女の子たちが馬車に集まってドレスをながめる。
「隣りのくじとは違うからね~。こちらは王都の流行最先端のワンピース。くじなら何時当たるか分からないけれど、今なら銀貨を払うだけで、確実に手に入りますよ? 実質タダみたいなものですね」
「きゃー」
「今ならタダー」
まったく意味が分からないが、女の子たちはキャーキャー騒いでいた。
実際に買うのは、王都で仕入れた麻の古着だけだが。
金かね金のかけ引きから解放される村。
商人たちにとってその村は、心も休められる憩いのひとときであった。
そんな騒ぎの広場から離れ、小高い丘の上の小さな教会の前。
「ごめんね。こんな時に」
「いいよ。なんかあったかい」
ネアに連れられ、丘の上まで来たニロだった。
「かあさんを治せる医者がいるかもしれないんだって」
「え、本当に。良かったじゃないか」
「うん。その医者が東のダリアにいるんだって」
「え……隣りの国」
外には魔獣も山賊もいる。
隣国とはいえ、簡単に行き来できるものでもない。
「トビーが……隊商と一緒に連れて行ってくれるって。父さんの薬は、
「そうなんだ……でも、アリーゼが元気になれるなら……」
ネアの母アリーゼは生来、体が弱く、寝込みがちだった。
「……うん。でも……向こうへ行ったら、いつ帰ってこられるか……」
「待ってる。ぼくも14になれば、一人で外に出られる。逢いにも行けるよ」
「うん」
うつむくネアの手を、ニロが強く握る。
「アリーゼが元気になって帰って来たら、二人で教会へ行こう」
「……えっ?」
「ピエトロの祝福を受けようよ。大地の神なんて祈ってなかったけどね」
「うん……うん。絶対だよ」
顔を上げずにうつむいたまま、その頭でニロの胸をたたくネアだった。
「ははっ、国境を越えるのは大変だから、早めに帰って来てね」
「うん。うん」
「いたっ、ははっ、いた、痛いよネア」
ドスッドスッと、ネアの頭突きは止まらず、ニロの胸を打っていた。
チートで無双を、勝手に夢見るジョシュ。
父を超える鍛冶屋を目指すジャレッド。
体の弱い母を想う少年マシュー。
機織りの少女ジーナ。
子供達の希望溢れる明日と、光り輝く未来。
優しく見守る大人たち。
そんな特別な事もない、特別な日々。
その全てが消え去る日も来るのだろうか。
世界は理不尽に満ちている。
不条理こそが、この世の理だ。
序章、田舎の平和な暮らしはここまでとなります。
平和な世界でいて欲しい方は、ここまでで満足してください。
これより先は、絶望を知った少年が、破滅に向かう物語。
お子様には見せられない為、別作品となっております。
性的な表現はありませんが、残酷表現はたっぷりとある可能性があります。
くれぐれも、ご注意ください。
女性は分かりませんが、男、
この先の本編は、精神年齢が40を超えた大人向けとなります。
続きはこちら『女神の剣』
https://kakuyomu.jp/works/16817330655878841886
めんどくさいからエンディングだけ見せろ!
という方は、こちら。
たった一つ残った希望さえ失った少年が、最後に向かう道。
エンディング『救世主』
〔序章〕 丘の上の小さな教会で…… とぶくろ @koog
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