自身の名も覚えていない主人公の「男」、彼は元の世界に戻るべく異世界のダンジョンを攻略していく。そこは力と知恵なきものは死あるのみ……そんな非情な世界において、果たして彼は生き残れるのだろうか。
主人公である「男」の過去は不明ですが、他人であれば容赦なく見捨て、悪人は寄らば切る、使えるヤツは利用するといったドライな性格であり、いわゆる少年漫画的な「主人公」らしさはあまりありません。そのため、みんなで力を合わせて頑張って攻略しよう!といった展開にはなりにくく、あらすじにもある通り、爽やかなお話ではないでしょう。ですが、そんな彼も比較的親しい人達(特にヒロイン)へは優しさを見せたりすることも稀にあり、そんな時は妙に嬉しくなったりします。いずれは協力し合う展開も見られるのかもしれません。
そんな過酷な世界での唯一の癒やしが、ヒロイン(?)の獣人幼女のリトであり、彼女の珍妙な言動がいちいち最高に可愛らしいのです(珍妙なのに可愛い?と疑問に思われる方は、ぜひ読んでみてください!)。彼女は男をマスターと呼んで慕い、健気に献身的に戦闘サポートをしてくれるのですが、それが少々行き過ぎているところもあり、彼女の行く末が心配になるところであります。そんな二人の微笑ましい日常シーンは、死と隣り合わせのダンジョンバトルとの対比もあって、かけがえのないものに感じられることでしょう(飯テロもアルヨ!)。
作中には世界各地の伝承や魔物、古今東西の武具類の解説等が随所に挟まれていますが、特に作者様は刀剣類の造詣が極めて深く、解説に毎回驚かされること請け合いです。また、武術についても詳しく書かれており、躍動感ある巧みな戦闘描写の裏付けがなされています。バトル系ファンタジーの作家の読者様はとても参考になるのではないでしょうか。他にも、その説明欄において丁寧口調で語られるブラックジョークがなんとも痛快で、ニヤリとさせられます。
ぜひ皆様も、この非情な世界で足掻く者達の行く末を見守ってみませんか。
記憶を一部失った男が迷い込んだのは、
異世界人たちが召喚されてくるダンジョンだった。
何故自分がここに飛ばされたのか、
ダンジョンを攻略すれば、日本に戻れるのか、分からない事だらけ。
ただ、一つ わかるのは、
ここでは力無き者、己を過信した者は生き残れないという事。
先程まで隣で笑い合っていた者が、次の瞬間には肉塊と化す。
夢見る若者にも容赦なく、非情な現実が襲いかかる。
他人の心配の前に己の身を案じろ!
目を凝らせっ 耳をすませろっ 辺りを嗅げっ 敵を見落とすな!
ここは死神が常に纏わり付いたシビアな世界。
それでも男は明日のために、今日を足掻いていく。
どっしりと腰を据えた戦闘描写と、興味深い逸話。
時折息抜きのように出てくる美味しそうな食事に、
感情をあまり見せない男がふと漏らす優しさ。
隠しスパイスのように、強烈なキャラがいたり、
頼りになる可愛い相棒が出来たりと
少しづつ、ダンジョンを攻略していく男を
この安全地帯(日本)から眺めていきたいと思います。