第150話 アビリティと雨避け

「はぁ……マスターの手料理、美味しかったですわ……」


「うむ。主殿の食事は最高だからな!」


 僕の料理を堪能し、うっとりとした様子のリディスとガハハと笑うルヴィア。2人共、気に入ってくれたようで良かった。


 まぁ、燃費が悪いルヴィアにおそらくこちらも燃費が悪いであろうリディス。この2人に対してはある程度作り置きしておかないといけないだろうし、セカンダの街に着いたら向こうかファスタの生産ルームで色々作っておかなくては。


「しかし、【料理】の技能1つでここまで味が良くなるとは思わなかったわね。……私も料理教室にでも通ってみようかしら」


 イーリアも【料理】の技能の凄さに気付いたらしい。因みに普段から料理自体はしているらしいが、【料理】の技能は持っていなかったらしい。


 理由としてはこの世界の住民はアビリティを獲得する場合は、誰かに師事を受ける必要があるからである。これはNPCからアビリティを得るタイプの取得方法のことだ。


 その習得可能は当然ながらプレイヤーにも適応される為、案外こういうNPCとの会話でNPCから習得可能となるアビリティの情報等が手に入れられる事は多々ある。


 今回の場合、生産者ギルドでは基本的な生産技能の習得クエストを受けることが可能であり、【料理】の技能もその1つとなる。イーリアの言った料理教室も生産者ギルド主体のものとのことなので、おそらくは同じものなのだろう。


 因みにプレイヤーの場合、NPCから師事した場合はアビリティポイントを使えばすぐに習得できるのだが、NPCの場合はそのアビリティポイントの存在がない。


 その為、プレイヤーよりも時間はかかる上に、やりきれば技能が必ず手に入れられるというわけでもないという、中々に世知辛い現実が待ち受けているようだ。


「それにしても、アイギスは結局【料理】は取らなかったんだね」


「まぁ、こういう場で作れるのは魅力的だけど、こまめに作るかって言うとそうでもないし、その為に貴重なアビリティポイントを使うのはねぇ……」


「まぁ、適材適所っちゅうもんもある。アイギスはんはなんかめっちゃガサツ――ってあいたっ!?」


 オキナが言い切る前にアイギスからの鉄拳が脳天に激突する。これは流石にオキナが悪い。


 ナギとミネルヴァの2人は本気で【料理】を取ろうか迷っているようで、特に不摂生になりがちなオキナと一緒に活動するナギはオキナの事も考慮して割と本気で取るつもりのようだ。


「私もですけど生産に接客と、割と飲まず食わずで活動してるんで、気付いたら空腹値のアラートがなったりしてびっくりするんですよねぇ。それに、あの家のキッチン、だいぶ持て余してたので……」


 確かにオキナの店にあるキッチンは全く手付かずの状態で綺麗だったからな……。僕も流石に勿体ないと思った程だし。


「私の場合は器用がアレなんで微妙なところですけど、リアルだと普通に手料理作るんで取ってみたいですね」


「うちの妹、結構料理は上手なのよ。……私? 私はまぁ、さっきので察して頂戴」


 ミネルヴァは自身のDEXの低さが気になってるようだが、そこは僕みたいにDEXを引き上げる生産装備を作ってもらえれば問題ないような気もする。リアルでの腕があるのなら尚更だ。


 ただ、両名とも既にレベルアップで得られたアビリティポイントはステータス系のアビリティレベル上げに使ったりして残っていないようで、またアビリティポイントが得られたら習得するつもりのようだ。


「……そういえば料理で思い出したけど、生産ギルドからリュートくんに顔を出してほしいって話が来てたわ。ギルドランクの件でお話があるんですって」


 すると、食事終わりで頬にジンジャー焼きのだれがついたままのイーリアがそう告げる。そのギャップに思わず笑いかけてしまったが、くっと堪えた。


 はて、特に生産アイテムの納品とかはしてなかった気はするけど、なんでランク上がったんだろう……。


「あー、それは俺のせいやな。すまん」


 すると、おずおずとオキナが手を挙げる。


 どうやら僕の作ったスライムポーション各種のギルドでの評価を確認するために提出していたらしい。


 一応、アイテムには相場というものが存在しており、基本的にはギルドでの取引額を参考にする。基本的にギルドは低めに買い取る事がほとんどであるため、その買取額よりも高く売ろうという感じで相場が決まっていく。


「ほんで、そのスライムポーションの販売額を決めようと思って提出したら、金額は大したこと無かったんやけど新しいレシピがどうこうっちゅう話になってな…… 」


「あのポーション、普通に未発見レシピ扱いだったのね……」


「そんなわけで、ランクアップに相当するっちゅう話になって今に至るって感じなんやろうな……。途中は俺の憶測も入っとるけど」


 成る程、そういう経緯があったのか。


「まぁ、売ってくれって頼んだのは僕の方だし、その点を確認してなかったのが悪いよね」


「本来ならリュートはんから買い付けるときに把握しとかんとあかんやったんやけどな。流石に【価格鑑定】は商人から教わらな習得できへんかったし」


 アビリティの1つである【価格鑑定】は『鑑定』で見れる情報に、生産者ギルドや商人ギルドでの取引価格が表示されるようになるものである。


 これがあれば、先方に確認してもらわなくても価格を把握することが出来るらしい。


 生産に手を入れすぎていたオキナはそのアビリティを習得しておらず、今回は外部に確認して貰ったという形になるようだ。


「私がその場に居たら見ることができたんですけどね。ただ、先日リュートさんが出られたあと急用でログアウトしなきゃいけなかったんで……」


「まぁ、いつまでもナギちゃんに頼ってるわけにもいかへんし、ちょうどいい機会やから今度習得してみるわ。セカンダの街にもギルドはあるわけやし」


 因みにナギはそのアビリティを持っているようだが、残念ながらオキナが確認するタイミングでは不在だったらしい。


 その後、ある程度の休息を取った僕らは、休憩所を後にして再び街道を進んでいくこととなった。そういえば【炸裂魔術】についての確認忘れてたな。まぁ、後でもいいか。


「それにしても、休んでるうちに何だか雲行きが怪しくなってきたな……」


「もしかしたら一雨来るかもしれないわね。少し、急いだほうが良さそうかも」


 僕らの行く先、セカンダの街の方向にはどんよりとした黒い雲が浮かんでいる。どうやら一雨来そうな気がする。


 今まで特に天気が変化した場面に立ち会ってきてなかったから完全に失念していたが、確かにこのゲーム世界にも『天候』というものはある。酷い場合は雷が落ちる事もあるようだ。


 流石に今回はそこまでではなさそうだが、あまり雨が振り込まれても面倒といえば面倒だ。


 防具が濡れてしまうと『湿潤』状態となってしまい、特定の装備でないとその状態になることで防御力が下がったり、属性ダメージが多く入ってしまう事になってしまうからだ。


 それを防ぐにはあまり雨に濡れない必要があるのだが、今回の依頼では今日中にセカンダの街へ到着しないといけない為、悠長に雨宿りをしている暇はない。


 どうしたものかと僕とアイギスが相談していると、オキナが後ろで「フッフッフッ」と笑い始める。


「まぁ、そんな事もあるかと思って用意していたで!」


 そう言ってオキナが取り出したのはツヤツヤな表面となっている単色の雨合羽のような外套であった。ナギも一緒に同じものを取り出していく。


「ナギちゃん特製の『雨避けのローブ』や。ステータス値への補正はあらへんけど、撥水効果で『湿潤』無効に更に水属性ダメージが10%軽減やで!」


 どうやらこれはナギが作ったアクセサリーのようだ。これで雨による『湿潤』状態が無効となり、更に水属性ダメージが軽減される。場合によっては雨以外でも使い所がありそうな装備だ。


 これらは僕らの分もちゃんと用意してくれていたようで、それらはナギから受け取ることとなった。予定になかったミネルヴァやイーリアの分もあるのも助かった。いったい幾つ用意していたのだろう?


「因みにルヴィアちゃんたちのもちゃんと用意しとるわ。装備耐久値の比較で幾つか作ったから、リディスちゃんの分もあるで。因みにダメージ軽減の代わりにVITとMINの数値が上がる仕様になっとる」


「うむ、恩にきるぞ」


「感謝致しますわ」


 ルヴィアたちのものは、オキナがナギの作ったローブを再度改修する形でドラゴン用の装備へと作り替えたもののようだ。撥水効果は僕らの使うものと同じだが、ダメージ軽減の代わりに耐久系のステータス値がそれぞれ30ずつ上がるらしい。


 属性ダメージの軽減効果よりも基礎ステータスが上がる方が絶対汎用性はあるので、これは嬉しい効果だ。


 それらは僕の方で装備を変更する必要があるので、僕がオキナからまとめて受け取ることになった。


 その後、装備を変更するミネルヴァたち。


「わぁ! 私のは黄色なんですね! ニワトリみたいです!」


「ニワトリは私の白のほうじゃないかしら? ……泥汚れとか付いたら目立ちそうね」


「ホントに水を弾くのね。どういう仕組みなのかしら」


 それぞれ自身で身にまとった外套を見て、三者三様の反応を示していく。因みにイーリスが着ているものは薄紫となっており、僕のは今着ている装備に合わせてか灰色となっている。


 そしてルヴィアは濃い赤、リディスは濃い青とそれぞれの髪の色に因んだ色となっているが、やはりオキナは狙ってその色を渡したらしい。まぁ、似合ってるからいいんだけど。


 その後僕らはお金を支払おうとしたが、ナギからは「簡単な素材ですし、そもそも試作品だから大丈夫です!」と断られた。


「……ホントに大丈夫か?」


「……実はルヴィアちゃんたちのはそこそこ希少な素材を使っててな。その素材の取り寄せ代だけでも貰えたら助かるわ」


「因みに幾ら?」


「20000ドラドやな」


 結構高いがこの手のドラゴン向け装備は簡単には手に入らないし、悪くない出費だろう。でも、素材代だけってのも何だかモヤッとしてしまう。


 結果、手間賃も含めて30000ドラドをオキナに渡すことにした。有無を言わさず手渡したが、まぁ多く渡す分には問題ないだろうと思う。


 オキナもなにか言いたげであったが、こっちの意図を理解してくれたのか黙って受け取ってくれた。


「……よし、取り敢えずこれで雨でも問題なさそうだから、早いところ先に進もうか」


「了解やで〜」


 そして装備も整えたところで、雲行きの悪い街道の中を僕らは歩いて進んでいくこととなった。

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