第149話 久々のクッキング

 プレイヤーメイドによる休憩所はファスタの森にあった休憩所とほぼ同じような造りになっていた。


 おそらくデフォルトの設計などがあって、それに合わせて作るとだいたい同じようなものになるのだろう。


 火を使えそうな場所もあったので、ちょうど小腹も空いてきた事からもここら辺で食事もすることとなった。


「あら、食事休憩ね。私も冒険者ギルドの端くれだから、ちゃんと用意しているわよ。携帯食料」


「あ、携帯食料は必要ないわ!」


 携帯食料を取り出そうとしていたイーリアだが、残念ながら今回の旅路ではそれを口にすることは許されないようだ。


 冒険者ギルドの職員であるイーリアには申し訳ないが、やはり普通の料理の味を知ってしまうと携帯食料は味気なく感じてしまうらしい。


 ただ、僕の作った料理を食べたことがあるプレイヤーってこの中だとアイギスしか居ないんだよなぁ。


 まぁ、僕が【料理】を習得している事はオキナは知ってるし、料理スキルで作ったものがちゃんとリアルと同じような味がする事は知識として知っているようだから特に説明の必要はないだろう。


 ナギとミネルヴァに関しては生産技能を持ってはいるものの、【料理】は取っていないらしい。


 というか、この中で【料理】を取っているのもしかしなくても僕だけなのか……。


 取り敢えず僕は街で見つけて購入していた作業用テーブルと汎用料理キットを取り出して、料理を作る。


 今回は手持ちの素材から兎肉を使おうとしたら、アイギスがボア肉を提供してくれたのでそれを使った料理を作ることにした。


 因みにボア肉は街道をセカンダの街に進んでいく途中に広がるセカンダの平原や、セカンダの街以降のフィールドに生息する『ワイルドボア』というモンスターから得られる食用素材となる。


 セカンダの街では比較的ポピュラーな食材らしく、向こうではギルドや住人関係なく納品依頼が結構多いようだ。


 ボア肉……見た感じだと脂が程よく乗った豚肉って感じだろうか。ワイルドボアが野生の猪という意味だから若干臭みとかがあるのかもしれないが、思いの外に見た目は豚肉まんまで驚いた。


 こういうのが野生のモンスターから得られるのなら、養豚場みたいなものはもしかしたら無いのかもしれないな。……いや、だとしてもモンスターを討伐するのも危険が伴うわけだし、もしかしたら首都辺りだと家畜化されてたりするのかもしれない。


 農家系のジョブの派生については基本的なジョブ故か、そこまでやり込もうとしたプレイヤーが居なかったようで情報不足となっている。もしかしたら派生先に畜産農家とか、牧場主とかそういうジョブはあるのかもしれない。


 まぁ、安定して肉が手に入れられるからどうしたという根本的な疑問も出てきてしまうのだが。


 …………取り敢えず、料理は生姜焼きにでもしておこう。オキナの店に向かう途中にNPCの店で調味料や野菜を買っておいて良かった。


 今なら単品程度ならどんな料理でも作れる自信がある。まぁ、作ったことがある料理に限るけども。


 折角ボア肉があることだし、ここは簡単に生姜焼きでも作ることにするか。正確にはパラジンジャー焼きとなるのだが。


 パラジンジャーは麻痺を解除する為のアイテムや耐寒系のアイテムを作る際の素材になるアイテムなのだが、普通に八百屋のような店で売られているため、この世界では普通に野菜として扱われているのだろう。


 形も香りも生姜という感じなので、完全に生姜として扱うことにした。


「さて、まずはパラジンジャーを細かく切ってからすり潰して、その絞り汁を醤油と砂糖に混ぜるよ」


 その際、調合キットの薬研を使ってすり潰す光景にナギやオキナがギョッとした目でこちらを見てきたが、使う度に清潔になるので問題ないと言い聞かせる。……大丈夫だよな?


「ん? そういや、みりんとかは使わへんのか?」


「残念ながらみりんや料理酒は見つからなかったから今回は砂糖多めで代用だね。まぁ、醤油があったから多分遠からず見つかるとは思うけど」


「同じような場所由来やろうからな。まぁ、何にせよ料理せん俺とかには使い所はほぼないんやけどな」


 そう言ってウンウンと頷くオキナ。未成年は当然ながらお酒は飲めない仕様になっている。ただ、料理や調合等で使うことはあるので所持することは問題ない。ただ、生産アイテムにアルコールが残っていたら結局使えないのだが。


 なお、今回の醤油はたまたま入荷したものを入手できた形になり、在庫の仕入れも結構不定期らしいので、大事に使う必要がある。


 本当はオキナが告げたようにみりんや調理酒があれば良かったのだが、残念ながら店先にある料理に使えそうな酒はエールやラム酒などの洋酒系しかなく、酒やみりんの影も形もなかった。


 これらに関しては商人も見たことがないと言っていたので、あるかどうかは分からないが味覚にこだわってそうなここの運営が用意してないとは思えないので、いずれ見つかるだろうと思っている。


 今回は仕方ないので、砂糖を多めに使うことで代用することにした。まぁ幾らかはゲーム内の補正で美味しくなるだろう。


 因みにゲーム内ではわかり易さの為か、これらの調味料に関しては現実と同じ名前となっている。ただ、現実と比べるとかなり割高ではあったが。


 醤油が一瓶で10000ドラドとか、この世界の住民はどうやって料理してるんだろうと思ったが、どうやら生産地から運ぶのに経費がかかるからという理由があるらしい。


 なので、ほとんどの住民は醤油を使っていないという事になる。イーリアも滅多に使わないらしく、何が出来るのか興味津々といった感じだった。


「次にボア肉を薄く切って、小麦粉をまぶしていくよ」


「小麦粉はちゃんとあるのね」


 小麦粉があることに感心するアイギス。これは砂糖と塩同様、結構初期の方から店に並んでいた調味料になる。おそらくは調合素材としても使ったりするからなのだと思う。まぁ、僕はまだそっちの方では使ったことはないけど。


「小麦はセカンダの街の特産品なのよ。街の近くに小麦畑があるから、到着したら見に行くといいわよ」


 イーリアによるとセカンダの街の小麦畑は結構有名らしく、フォトスポット的に畑が広がっているらしい。風景をスクショして投稿する掲示板では結構投稿されているらしく、最近は黄色の写真ばかりなのだとか。


 ……年柄年中穂を実らせている小麦畑というのはどうなんだろうとは思うのだが、そういう品種なんだろうということで納得した。


「小麦粉をまぶしたら熱したフライパンで焼いていき、ある程度焼き目がついたらさっきの混ぜ合わせたものを加えて、少し煮詰めたら完成だね!」


 そう告げるとちょうど調理が終わったのか、ボワンという音と共に人数分の皿とフォークがテーブルに出現する。相変わらず完成すると皿まで現れる仕様が不思議で仕方ない。


 因みに皿などの食器類は食べ終わったらいつの間にか無くなる。不思議だ。


 ――――――――――――――――――


 ボア肉のジンジャー焼き(良品) ☆2


 分類:食事アイテム

 効果:空腹値を30%回復、5分間『耐寒(C)』獲得

 品質:良

 製作者:リュート


 丁寧に調理したジンジャー焼き。ボア肉の臭みをパラジンジャーでうまく抑えている。簡単な味付けがされている。


 ――――――――――――――――――


 取り敢えず完成したボア肉のジンジャー焼きにはバフのようなものがついたが、今のところは使い所のなさそうな『耐寒』の付与となる。


 流石に調味を簡単にした為か、中々評価が厳し目だ。まぁ、そればかりは仕方ないだろう。


「それじゃあ食べようか」


「「「「いただきまーす!」」」」


 初めて見るであろう料理にキョトンとした表情を浮かべているイーリアやルヴィア、リディスを他所に、プレイヤーたちがまず食べていく。


 みんな美味しそうに食べるなぁ。料理したかいがあるというものだ。


「妾もいただくぞ!」


「わ、私もいただきますわ!」


 その後、ルヴィアとリディスも食べていく。2人共、パラジンジャーの痺れるような味に驚いている様子だが、黙々と食べていく。


 そしてイーリアだが、いつの間にか食べ始めていて気付いたら食べ終わっていた。……え? 早くない?


「大変美味でした」


「は、はぁ……お粗末様です」


 その後、僕も食べてみたが調理酒やみりんを使わなかった割に味がまとまっており、ゲーム補正様々だなと思いながら舌鼓を打つ。


「けど、この味付けやと米が欲しくなるなぁ……」


「残念だけど、米は未発見よ」


「醤油があるなら、ご飯もあって良さそうなんですけどねぇ……」


「うぅぅ〜〜! ご飯が食べたいぃぃ」


 プレイヤーたちはやはりこの味付けに米、ご飯が欲しくなってしまったらしい。僕もだ。


 これに関しては、おそらく料理酒と同じタイミングに見つかる可能性が高い。何故なら、日本酒の原料は米だから。酒が見つかれば米が見つかる。その逆も然りだ。


 早いところ見つかることを説に祈る限りだ。

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