第148話 新たなスキル

 南門を出てから、リーシャ村に向かう道に分岐するまでのエリアはモンスターのレベルが低い為、その間にナギとオキナの戦闘技能アビリティのレベル上げを行うことになった。


 幸いにも2人共、武器は近距離のものであった為、前衛を任せることにした。後衛で僕とミネルヴァ、そしていざという時の盾役としてアイギスが構える形で進んでいく。イーリアは僕らの直ぐ側に居る。


「おらぁ! 『スラッシュエッジ』や!」


「はぁぁ! 『横薙ぎ』!!」


 因みにオキナは片手剣、ナギは長槍を装備している。どちらも服飾師である為、切断するものである斬撃属性の武器に対してジョブによる補正が多少は働くらしく、剣士や戦士には流石に劣るもののそれなりにうまく立ち回れているようだ。


 尤も、そもそも敵のレベルが低い上に本人のレベルがそれなりに高く、ステータスをDEX中心に上げている事から、ATKが低くてもクリティカルヒットでそれなりのダメージを与えていく為、こちらが何もするまでもなく敵を倒していく。


 まぁ、その戦闘によって僕が得られる経験値のほとんどはルヴィアとリディスに吸い取られてほとんど入っていないが。早くアップデートこないかなぁ。


 因みに先日の邪竜討伐において、僕のレベルは14まで上がっていた。経験値のほとんどをルヴィアに吸い取られていたのに、ここまで上がったということはかなりの経験値量だったのだろう。


 まぁ、あれだけの激戦を4連戦したようなものなので当然といえば当然なのかもしれない。


 ジョブレベルの方はあれだけ大人数に何回も支援スキルを使用した事もあって、レベル6から一気にレベル9まで上がっており、新たに『ドラゴンエンハンス・ダッシュ』を習得していた。これはドラゴンエンハンス系のスキルでAGIを上げるものになる。


 他にアビリティの方では【魔力供与】がレベル10、【後方支援】がレベル8、炸裂魔術がレベル4になっており、【魔力供与】はとうとうレベルマックスに到達していた。後で新しいアビリティが覚えられるか確認しておかないといけないな。


 【後方支援】は新たに『マッスルオーラ』と『アイテムエクスポート』いうスキルを覚えた。


 まず『マッスルオーラ』に関しては一時的に対象のSTRを3倍にし、一定時間『疲労無効』の効果を与えるスキルだ。この上昇値は固定で、アビリティなどの補正は作用しないらしい。


 基本的にSTRの数値は武器の重量制限などにしか働かない為、それこそスズ先輩のようにSTRがダメージ量の判定に関わるような場合でなければ、そこまで使うことはない。


 ただ、逆に言えばその手のSTRでダメージ量が決まるプレイヤーに関しては効果てきめんなスキルとなる。


 更にもう一つの『疲労無効』というのは、しばらくの間疲労値のカウントを停止させる効果となる。このゲームでは行動をし続けると疲労値が溜まってしまうので、適時休憩を取ったりする必要があるのだが、それを行わなくていいというスキルになる。


 ただしこのスキル、効果が切れると『過労』という状態異常になるようで、その場合は通常よりも疲労度が溜まりやすくなるという本末転倒な事になってしまうようだ。


 因みに過労の状態異常はスキルやアイテムでは回復できず、時間経過でのみ回復可能となる。そうなるとより休憩する頻度が多くなるため、できるだけ過労にはなりたくないところ。


 一応、スキルの効果が切れる前にかけ直すことで延長すれば先延ばしにすることは出来るので、こまめにかけ直すよう気をつければ良いだろう。


 STRを上げたり、長距離のエリア移動を強行したりする際には使っておきたいスキルだが、取り敢えず今回の護衛には向かないだろう。普通に進めば日中には辿り着く予定だし、うっかり『過労』を出してしまったらそこで動きが止まってしまう。


 因みにオキナは生産アイテムを作る際などに効果がありそうだということで、このスキルには着目していた。ただまぁ、このスキルもご多分に漏れず自分には使えないので、それこそ誰かを馬車馬のように働かせたいのであれば使えるとオキナに告げると、「お、俺は大丈夫……」と声を震わせながらそう告げていた。


 そしてもう一つの『アイテムエクスポート』だが、次に自分が使用するアイテムの効果対象を特定の相手に変更するという効果になる。


 例えば僕がライフポーションを使う前にこのスキルを使って対象をルヴィアにすればその効果がルヴィアに与えられる事になる。


 そしてこのスキル、どうやら【全体支援】の効果対象にもなっているようで、パーティーの場合は指定した相手以外の全員に効果が半減した状態で与えられる形になるらしい。


 オキナたちの戦闘中に試しに使ってみたところ、そのような効果になったことから間違いはなさそうだ。


 流石にアイテム効果なのでアビリティの補正は一切乗らないが、それでも全体にアイテム効果を与えられるのは大きい気がする。


 まぁ、全体効果のアイテムを使えばいいし、スキルを使用するというラグがあるのでここぞというタイミングには使いづらいという欠点はあるのだが。


 効果自体もアイテムを使わなければ1分ほどで切れてしまうのも保険としては使いづらいところがある。


「【支援回復術】は新たに『マナリマインド・アザー』を覚えたけど、基本的に『魔力供与』の下位補完的なんだよなぁ」


 戦闘終了後、【支援回復術】のレベル4で覚えた『マナリマインド・アザー』を使用してみてその効果を確認するが、どうやらこれは自身のMPを相手に受け渡すという『魔力供与』とほぼ同じ効果となっていた。


 違う点は、『魔力供与』の方はアビリティレベルが最大になると減衰なしで相手にそのままMPを渡すことが出来るが、こっちは一律で消費MP40の半分の20ポイントとなっている。


 しかも、ミネルヴァに教えてもらったのだが、本来の回復術で覚える『マナリマインド』はそのMPを保管することで使用したいタイミングで自分あるいは他の相手に渡すことが出来るというスキルであるらしく、かなり効果が制限されていると言えるだろう。


「まぁ、結構そういうのは多いわよ。戦闘技能アビリティだと全く同じ名前のスキルやアーツを覚えるからね」


「成る程……。そのスキルやアーツはどう表示されるの?」


「全く同一のものの場合は1つに纏められて表示されるわね。補正の方はレベルが高いほうが優先されるわ」


 アイギスの説明によれば、戦闘技能で覚える『集中』などのスキルは【剣術】を始めとして多くの近接系の戦闘技能で習得するらしく、それらは複数の戦闘技能アビリティをセットしていても1つしか表示されないらしい。


 そのスキルの補正は、対象の戦闘技能アビリティの中で最も効果の高いものが反映されるらしく、全ての補正が掛け合わせて――という美味しい事は別にないらしい。


「あとは【炸裂魔術】の新しいスキルだけど――」


「よっしゃあ! 【剣術】のアビリティレベルが上がったで!」


「私も【槍術】が上がりましたよ師匠!!」


 確認の途中、アビリティレベルが上がったことを喜ぶ2人。


 とはいえこれで数戦目なのでやはり推奨レベル帯より自身のレベルが高い場合、諸々のレベルが上がりにくくなっているのは間違い無さそうだ。


「……取り敢えず、続きは休憩してからにしましょうか。ちょうどリーシャ村への道だし、休憩所もあるわよ」


「あ、本当だ。…………って休憩所なんてあったっけ?」


 以前――といってもゲーム内では2週間以上前になるのだろうが、僕らがアイギスと出会った際にあの街道の場所から出てきた時にはあんな休憩時はなかった気がする。


「あれはな、大工のジョブについたプレイヤーが組み立てたんやって」


 どうやらプレイヤーによる生産物のようだ。大工とはプレイヤーホームなどの建物を建てる事の出来るジョブで、基本的にはNPCがなる場合の多いジョブらしい。


 ただそのNPCの大工に弟子入りし、見習い試験をクリアすると大工のジョブにつくことができるようになるらしい。ジョブレベルは1から育て直しだが、大工仕事はかなりの経験値を稼げるらしく、人数は少ないが精鋭揃いなのだという。


 今ではその大工のジョブについたプレイヤーが集まって色々と建物を作っているらしく、今はリージャ村の開発にも参加しているらしい。


「へぇ。そういう建物って自由に建てられるの?」


「いいえ。一応街道なども国の所有地だから許可取りは必要よ。ただ、その許可は既に下りてるから問題ないわ」


 そう説明するイーリア。どうやら街や街道は商人ギルド、それ以外の周辺の森や荒地などは冒険者ギルドが管轄しているらしく、その維持管理に職員やギルド員を活用しているようだ。


 僕らがよくやる討伐などの依頼も、そういう周辺の森などからモンスターが市街地に溢れ出てこないように管理するために行われているらしく、討伐依頼のほとんどはギルド主体のものなのだという。


 まぁ、確かに一市民から特定のモンスターを倒してきてくれ、なんていうのはよほどそのモンスターに夜な夜な悩まされている小さな村なんかじゃないと起きそうにはない。


「最近は大工仕事を請け負う住人も少なくてね。来訪者の中からこうして大工仕事を引き受けてくれる人が出てきてほんと助かったわ。この休憩所も、よく会う商人からも評判なのよ」


「そうなんだ……。凄いね、私も自分が作ったもので色んな人の助けになりたいなぁ……」


「あら、ナギちゃんの防具で私とかは助けられてるよ?」


「み、ミネルヴァちゃん……!」


 イーリアの話を聞いて自分ももっと人の役に立ちたいと告げるナギに対し、大丈夫だと語るミネルヴァ。その言葉にホロリと涙を流しすモーションを取ったナギは、ミネルヴァとガシッと抱き合う。


 そんな光景を僕らは微笑ましく眺めていた。


 ……うん、どう見ても同じくらいなんだよなぁ。

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