第147話 奇妙なパーティー
オキナとナギをパーティーに加え、僕らイーリアが待っている約束の南門の方へと向かっていく。
アイギスはポータルを使って第2の街からこのファスタへと移動してもらっている。ポータル自体は街の外に出る門の近くや中央の噴水などにあるらしく、今回は南門の方に転移してもらっていた。
そして南門に近付くと、そこには……。
「あれ、アイギスに……ミネルヴァ?」
「あ、こんにちはリュートさん! それに龍姫様も!」
挨拶をしたのはアイギスの妹のミネルヴァ。ナギと並ぶとほとんど身長が変わらない。
「ゲッ、お主は……! って、だから頭を掻き回すなと言っておろうが!!」
「やーん! 今日も可愛らしいです龍姫様! ……って、あら? そちらの方はまさか……」
ルヴィアを見つけると、グワシと彼女の身体を確保したミネルヴァ。あっという間にガシガシと頭を撫で始める。あの勢いはいつか髪の毛が無くなりそうだな。
そして、そんな行動をしながらその視線はルヴィアからリディスの方へと移っていく。
「フフフ、私は【龍陰姫】リディスですわ。どうやら、聖少女様は一目で私が龍だとお分かりになったようですね……」
「ちょっと、リュートくん!? どういうことなの!? なんで、2体目の……えぇっ!?」
口元を手で隠す形でそう告げるリディスに対し、プレイヤーの1人かと思っていたらしいアイギスは慌ててこちらに詰め寄ってくる。
取り敢えず、粗方の説明をすると案の定アイギスは頭を抱えてため息をついていた。
「いや、規格外ってのは重々承知してたつもりだけどね? だとしても、SSSSランクドラゴン2体ってのはおかしいでしょうが!」
「あら、そんな事はありませんわよぉ。特に、マスターはとても良い匂いがしますから。それを頼りに私は舞い降りたのです……」
ふとアイギスの怒りの叫びに対し、リディスが説明を行っていく。もしかして、リディスが召喚されたのって何かしらの理由があるのか?
「それは主殿のジョブに所以するのだろうな」
すると、ミネルヴァに撫でられ続けているルヴィアが口を開く。因みにミネルヴァとルヴィアではルヴィアのほうが背が高いので、普通にルヴィアが縮こまっている形になる。
その様子があまりに可愛らしかった為か、その場にいた全員がクスクスと笑い出す。……リディスだけ若干、嘲笑が混じっていた気もしなくないが。
「……って、リュートくんのジョブ?」
「あ、そうか。僕のジョブってブラッド・ラグーン由来だから……」
僕のジョブはブラッド・ラグーンを召喚して契約している事が条件となるエクストラジョブのブラッドサポーターとなる。
もしかしたらそのジョブが、召喚するドラゴンに影響をもたらすなんてことがあるのかもしれない。ルヴィアに言わせればどうやら「ある」らしい。
「ジョブによって召喚できるドラゴンに偏りが発生するのかしら……?」
「流石に3度目はないとは思うがな」
まぁ、2度あることは3度あるという感じでありそうな気もしなくないが。
「それより聞きましたよ! セカンダの街に向かうらしいですね! いつ出発するんですか! 私も同行したいです!!」
「ミネルヴァ院……!」
僕たちの行く先を知ってか自分もついていきたいと告げるミネルヴァに対して、変なノリで返事をするオキナ。この反応を見る限りだと、オキナはミネルヴァのことを既に知ってるみたいだな。
「ちょっとオキナ?」
「アハハ、ちょっとした茶目っ気やん?」
そんなオキナだったが、直ぐ様アイギスにジト目で睨まれてしまう。
「ミネルヴァさん、聖少女になってから私の作った防具を使ってくれてるんですよ!」
「うん、ナギちゃんの作った防具は動きやすいからねぇ〜」
成る程、ミネルヴァはナギの防具のご贔屓さんだったというわけか。それなら店によく来るだろうし、その過程でオキナとも知り合いにはなるか。
「ごめんね、リュートくん。ちょうどこの子もセカンダの街に行きたいって言ってて。ただ、私だけだとちょっと不安でね……」
「まぁ、攻撃できない回復役と護衛メインの盾役だと攻撃が不安になるのは仕方ないよ」
アイギスは結構攻めに出るタイプではあるが【護衛術】を習得した盾役は本来あまり攻めは得意ではない。
アイギス自身が第2の街に向かった時はセインたちのパーティーに混じって向かったので問題なかったらしいが、ミネルヴァと共に向かうとなると余計に前衛で戦うプレイヤーは必要となるだろう。
そこに渡りに船といった感じで僕からの連絡が来たという訳だ。
まぁ、アイギスもミネルヴァも、僕というよりはむしろルヴィアの存在の方が大きかったのかもしれないが……あまり考えるのはよそう。
「取り敢えず、パーティーの空きはあと1人あるからミネルヴァも同行する分には問題ないと思うよ。確か、NPCの護衛とかはパーティーの枠は使わなかった筈だし」
今回の護衛依頼ではパーティーに護衛対象であるNPCを同行させる形になるが、このゲームはNPCを同行させていてもパーティーの枠を使わない仕様となっている。
今回はそうでもないだろうが、危険な場所を通る依頼の場合はフルパーティーでなければ厳しい場合もあるだろう。そういった時にパーティー枠が使えなくなると、戦力が大きく下がってしまうからだ。
ただし、ギルドなどで要請することのできる助っ人や傭兵などのNPCは、雇った時点で自動的にパーティーに組み込まれることになる。こっちはパーティーに空きがないと雇うこと自体出来ない。
要は戦闘に関与するかそうでないかでNPCがパーティーに入るかどうかは決まると考えればいい。
今回は戦闘には参加しないので、枠を使わない形となる。
「わぁ! ありがとうございます!! これで道中、龍姫様……あ、ルヴィア様と一緒に居られるんですねンフフフフフフフ……」
「ひぇ……」
奇妙な笑みを浮かべるミネルヴァに対して可愛い悲鳴を上げるルヴィア。しかし、わざわざ名前呼びに変えたのはリディスが居るからだろうが、リディスに対しては特に同行しようという感じではないな。
何故だろうと思ってこっそり聞いてみると、「あー。その、リディス様に関してはなんか怖いなぁと思いましてですね……。ちょっと苦手かもしれません」と呟いていた。
確かにそこはかとなく狂気のような物を漂わせている気はするが……。そんな風に思いながらリディスの方を見ると、こちらを見てニヤリと笑みを浮かべていた。
「よし。今回は僕、アイギス、ミネルヴァ、オキナ、ナギのパーティーで向かうことで」
流れで決まったパーティーだが、予想外に前衛で戦えるのが少ない。まともなのはルヴィアだけなのでは……?
うーん、実に奇妙なパーティーになってしまったな。
「一応、今日の夕方には到着しないといけないんだけど、その辺は大丈夫か分かる? アイギス」
「そうね、私は街道が開放される前にリーシャ村経由のルートで向かったからアレだけど、一応それでも日中で移動できたから、街道なら全然問題ないと思うわ」
まぁ何かしらイベントが発生したら話は違うだろうけどね――と追加で告げるアイギス。だとしてもそんなに時間はかからないだろうな。
「むしろ、リュートくんの場合、セカンダの街からリーシャ村に行く時が厄介かもね。オーガと戦わないといけないから……」
「あー、そっか……。そっちのエリアボスは逆側からでも出現するのか」
「まぁ、こっちも一度倒せばスルーできるようになるけど、流石に最初はね」
どうやらどちらのルートでもエリアボスとの戦闘は避けられないようだ。一応、セカンダの街に到着してから準備に数日を要するらしいので、その向かうタイミングでまたメンバーを集めれば問題ないだろう。
「さて、そろそろ向こうで待ってるイーリアのところに行こうか。さっきから早く来いっていう感じで睨みつけてるから……」
そう言って僕はアイギスたちが待っていた場所から少し離れた場所に1人立っているイーリアの方を向いて、そちらの方に向かうことにする。
案の定、目と鼻の先で談笑してた僕らに対して色々と言ってきたが、取り敢えずそこまで怒ってない様子なのでホッとした。時間もまだ朝の内だったので、大丈夫だったというのもある。
「それでは行きましょうか。護衛、よろしくお願いしますね皆さん」
そしてイーリアを連れて南門を通っていざ街道へ――と思っていたのだが、そこでナギに対して戦闘チュートリアルが発生してしまい、しばらく待つことになってしまった。
あー、生産者ギルドに登録するとここで戦闘チュートリアルが発生するんだな……。僕の時と同じでゴーレムを使うようだ。
ナギは涙目でこちらを見ていたが、こればかりは仕方ない。まぁ、あっという間にのしてしまって逆に本人がびっくりしていたのだが。
チュートリアルに対して、現状の最大レベル付近のプレイヤーだとレベルの暴力というものが本当に可能になるんだな……という新たな気づきを得られた。
しかし、DEXが高すぎてクリティカル一発でKOって……。僕は全く刃が立たなかったのに。
うん、あんまり色々考えるのはよそう。
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