第146話 オキナのお願い
「いくらなんでもそらないで、リュートはん。彼女同伴とか聞いとらへんわ」
オキナの店である『オキナの防具店』に辿り着いた僕は、左右の隣に立っているルヴィアとリディスの姿を彼に見られ、どうやらリディスの方を彼女と勘違いしたらしい。
どうもプレイヤーたちは彼女たちの手に鱗がある事に中々気付かない。こんなに目立つのに、他の目立つ箇所に気を取られて気付かないらしい。それが何処なのかは僕は知らない。
「あら……彼女……。フフフ、マスターの彼女ですって」
「むぅ……!」
彼女扱いされたことがよほど嬉しかったのか、横で何やらくねくねと奇妙なダンスを踊りだすリディス。そんな彼女をルヴィアが冷たい目で見ていた。
「いや、何を言ってるんだお前は……。オキナ、こいつはさっき召喚したドラゴン。名前はリディスだよ」
「さっき……召喚した……? ってことはまさか、あのイベントで手に入れた召喚石で……?」
「あぁ。因みにルヴィアと同じSSSSランク。それも、同種なんだと」
「リュートはん……アンタ、色々持ちすぎやろ! 何やねん、その2回引いてどっちも大当たりって。天文学的確率なんやないの!?」
血走ったような目でこちらに文句なのか恨み辛みなのか分からない言葉を紡いでいくオキナ。
いや、そんな事を言われてもなぁ……。俺もどうなのかとは思ってるよ。外から操作されてたりしてても分からないからなぁ。
まぁ、彼の場合はCランクのピヨドラなのでそういった反応になってしまうのは仕方ないか。
「まぁ、LUKの数値はかなり高いからね」
「あー、そういや200あるってこないだポロッと漏らしよったなぁ。……いや、それでもや! なんでや! くそう……くそう……」
「どうどう」
「俺は馬やあらへんわい!」
その後、怒りにおかしくなりそうになっていたオキナをどうにか抑えて、僕は頼まれていたスライムポーションの方を提供する。今回は、ある程度数を纏めて渡すことにした。数がある程度残ってて良かった。
「いやー。コレだけあれば取り敢えずしばらくは大丈夫やろ。まさか宣伝しといて全く物が無いって状況になるとは思わんかったからなぁ」
すっかりご機嫌になったオキナ。現金な性格なのは今更だ。
「あー、すまない。最近は色々忙しくてログイン出来てなかったんだ」
「まぁ、学生とかならしゃーないやろ。その点、俺は悠々自適なMMOライフやさかい」
そう嬉しそうに告げるオキナ。どうやら彼は同い年ではあるものの特に学校とかには通ってないらしい。てっきり服飾系の学校とかそういうのに通ってるのかと思っていたが。
「あー、そういうのは家の方で習ったりしてたからなぁ。あとは独学したり、ネットで色んな師匠に師事してもらったりしとったで」
成る程、そういう感じなのか。まぁ、確かに今はフルダイブVRで遠方の人とも直接会うことが出来たりするから、仮想空間はそういう師事を受ける場としては最適なのかもしれないな。
しかし、家の方で習うって事はもしかしてオキナの実家って結構太い洋裁店とかだったりするのか? ……まぁ、あまりリアルの方を詮索するのは良くないか。
「あ、そうだ。これから僕も第2の街に向かう事になったから、もしかしたら依頼関係も込みでしばらくは渡しに来れないかも」
話を変えるついでに、ギルドからの依頼で第2の街であるセカンダの街に向かう事を説明する。
一応、街単位ではポータルという転移システムがあるらしく、それを使えば好きに移動は可能となるため、ある程度は自由に移動可能となる。
とはいえ、今回はリーシャ村までの護衛となる為、その後のことも色々考えるともしかしたらしばらくは自由にフラフラ歩き回ることは出来ないかもしれない。
すると、そんな僕の言葉を聞いてカッと目を見開くオキナ。
「おぉ、第2の街か! そういやリュートはん、今は別にパーティー組んどらへんよな?」
「え? まぁ、まだパーティーは組んでないね。取り敢えず、アイギスには声をかけたけど」
ランスとミリィはちょうど僕がログインする直前にログアウトしていたらしく、入れ違いになってしまった。スズ先輩も今日はログインしていなさそうだった。
アイギスはログインしていたので、ここに向かう途中にメールで確認したら、彼女自体は既に第2の街に到着済みとの事だったのだが普通に快諾してくれた。本当にありがたい。
護衛依頼なので、騎士であるアイギスが居てくれるだけでも凄く助かる。
「そうか。それやったらな、申し訳ないんやけど俺とナギちゃんも一緒に連れてってくれへんやろか?」
するとオキナはその道中に自分たちも一緒に連れて行って欲しいとお願いをしてきた。
「オキナとナギの2人共?」
「せや。リュートはんは勿論、竜道場の話は聞いとるやろ?」
竜道場。確か先程、クライスから教えてもらった場所の名前で、龍覚醒に関連する施設の筈だ。
今回の依頼において第2の街を目指す目的の一つでもあるので、勿論知っていると頷く。
「俺は生産者ギルドのギルドマスターから話を聞いてな? なんでも、竜覚醒したドラゴンはプレイヤーのスタイルに合わせてその能力を開花するらしいんや。ルヴィアちゃんのあの能力もリュートはんの影響なんやろな」
オキナの話によると、竜覚醒(ルヴィアの場合は龍覚醒となる)の能力はどうやらプレイヤーのプレイスタイルによって変化するらしい。
特に最初の契約ドラゴンであるパートナードラゴンはその影響を色濃く受けるらしく、おそらくルヴィアが龍覚醒によって支援系の能力を得たのは、その仕様によるものだったのだろう。
「プレイヤーの影響か……確かにそれなら納得だな」
そう呟いてルヴィアの方を向くが、本人はリディスと何やら睨み合いをしていて全く話を聞いていなかった。……いや、何をしているんだよ。
「俺のピヨドラはおそらくは生産系の能力に覚醒するやろから、今後のために色々育成しとかんと思ってな」
「成る程ね。能力でDEXとか底上げするパターンとかもあり得るし」
「せやせや。その為に第2の街に向かいたいんや。ナギちゃんはまだイベント発生の条件を満たしとらんけど一応ついでに、やな」
2体目以降に関しては情報が無さすぎて不明だが、全部プレイヤーと同じ系統になるとは考えられないので別の覚醒になるのではないかとオキナは推測していた。
「まぁ理由は分かったけどその間、店の方はどうするの?」
「一応、NPCの店員に在庫の管理だけしてもらって、オーダーメイドやスラポ希望の方はしばらく待ってもらう感じにする。……折角在庫持ってきてもらって悪いけどな」
「その点はオキナに任せてるから特に問題ないよ。でも、2人は戦える? 一応、エリア遷移になるからエリアボスが居るんだけど、流石に自衛は出来て欲しいかな」
先日、開放された街道からセカンダの街に向かうルートだが、ご多分に漏れずエリアボスが存在する。初回の通行の場合はそのエリアボスとは必ず対峙しなくてはならない。
リーシャ村からセカンダの街に向かうルートだとオークが出現するらしいが、街道の場合だとゴブリンの集団戦になるらしい。
単純な戦闘力的にはオークの方が上ではあるが、ゴブリンは連携をしてくる。その厄介さはホブゴブリンでの一件で重々理解している。
まぁ、自分がまともに戦えないのに何を言ってるんだとツッコミが入りそうな気もするが、気にしないことにする。
「うーん……。まぁ確かにリュートはんが不安になる気持ちもわかる。俺はともかく、ナギはまだ外にも出てないらしいからな。俺に関しては、一応足手まといにならへんくらいには戦えるつもりや」
一応、2人は生産を極めている事もあってかレベル自体はそれなりに高く、戦闘用のアビリティも決して取っていない訳ではない。アビリティレベルは低いだろうが。
もし、問題があるとすればナギの方だろうが、まぁ街道を通るだけなら、そこまでモンスターが出るわけでもないので問題はないか。
……まぁ、護衛依頼だから何かしらのハプニングが起きたとしてもおかしくはないのだが。
「取り敢えず、2人の同行については同行するアイギスにも聞いてみるよ」
「頼むわ」
そう告げてからアイギスに連絡を取ると「オキナはともかく、ナギちゃんは私が護ってあげるわ」と男前な返事が来たので問題はなさそうだ。……オキナは若干不満そうだったが。
その後、店先の方で接客をしていたナギの方にも話を降ると、ナギは嬉しそうに飛び跳ねていた。
「やったー! そろそろ向こうの街の素材とか見てみたいなーって思ってたところなんですよ! 嬉しいです!!」
ここまで喜ばれてしまうと、しっかり連れて行かないとなぁと思ってしまう。これは責任重大だな。
「じゃあ、今回は2人もパーティーに加えてセカンダの街に向かうとしようか。一応、護衛依頼のついでだから、何かか起こるかもしれないけど覚悟だけはしててね?」
「え? 街道を進むんですよね? そんな安全なところにモンスターなんて出てこないですよ!」
アハハと笑うナギに微笑ましい笑顔を向けるオキナ。
うーん。彼女はまだ知らないのだろうな。
このゲームは、そういうフラグを容赦なく回収してくるものなのだということを……。
まぁ、彼女の言うように終わればそれに越したことは無いんだけどね。
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