第8話 バカップル
指輪を購入した後、ハルジオンたちは近くのショッピングモールへと来ていた。
目的地はモール内に出店されている高級菓子店だ。
紗耶は歩みを進めながら、ため息を吐いた。
「正直言うと、指輪よりもお菓子のほうが喜ばれそうなのよね……」
「あはは……食いしん坊な人なんですね……」
苦笑いで答えるハルジオン。
お前のことである。
話をしながらフードコートの隣を通り過ぎようとしていたハルジオンたち。
しかし、ハルジオンの目がふとフードコートへと向いてしまった。
後輩からの餌付け以外では、その辺に生えている野草か、もやしや納豆などの格安食品で飢えをしのいでいるハルジオン。
だいたい何時も美味しいものに飢えている。
つい先刻にもカフェでスイーツを奢って貰ったばかりだが、ついクレープ店を見詰めてしまった。
「……食べたいのかしら?」
「え⁉ い、いえいえ、なんとなく目が行ってしまっただけです……」
紗耶に問われるが、ハルジオンはぶんぶんと首を振った。
勢いよく振ったせいで、ピンク色のツインテールが振り回される。
カフェで奢って貰ったように、ハルジオンには金が無い。
クレープを食べるとなったら奢ってもらうしかないが、流石に日に何度もご馳走になるわけにはいかない。
ヒモ根性が染みついているハルジオンだが、それはそれとして遠慮の気持ちが無いわけでは無い。
「そう……私は食べたいから買いに行っても良いかしら?」
「え? は、はい。もちろんです」
紗耶が自分から甘いものを買いに行くなんて珍しいことだ。
少なくとも、高校時代なら数えるほどしかなかっただろう。
どういった風の吹き回しかと首をかしげながら、ハルジオンは紗耶の後に続いた。
食事時からは少しズレた時間のため、紗耶はあっさりとレジにたどり着いた。
ちらりとメニューを見ると、迷わずに注文をする。
「ストロベリークレープを一つお願いします」
クレープと言ったら
バナナやチョコソースなども美味しいが、やはり王道は苺にストロベリーソースのかかったシンプルな物が一番だ。
少なくともハルジオンはそう思っていた。
高校時代に紗耶とクレープを食べるときなどは、そればかり注文していた。
注文からほどなくして、焼きたての生地に包まれたクレープが紗耶に手渡される。
甘い匂いが鼻をくすぐる。ハルジオンはよだれが出そうになるのをこらえて、クレープから目を離した。
羨ましそうな眼を向けていたら、紗耶が食べづらくなってしまう。
「ハルさん。あーん」
「え、なんでですか?」
などと思っていたら、ハルジオンの目の前にクレープが差し出された。
どうやら紗耶が気をつかって買ってくれたらしい。
しかし、ここで食べるのはなんだか申し訳ない。奢ってもらってばかりで、まるで紗耶にたかっているようだ。
ハルジオンはギュッと目をつむって顔をそむけた。
「いえ、受け取れません! 紗耶さんが食べてください!」
「ふふ、強がってる顔も可愛いわね」
「ふにゃ!?」
紗耶は愉しそうに笑うと、そっとハルジオンの首筋を撫でた。
驚きのあまりハルジオンが声を上げると、ぽかんと開いた口にクレープが差し込まれる。
「――むぐ!?」
うっかりクレープをかじってしまった。
まさか吐き出すわけにもいかないため、ハルジオンはもぐもぐと口を動かす。
甘酸っぱい苺と生クリームがマッチしていて、とても美味しい。
「うぅ……美味しいです……」
「それは良かった。それじゃあ、大人しくクレープを受け取ってくれるかしら?」
「……はい」
ハルジオンは渡されたクレープを大人しく受け取る。
微かな意地はクレープの美味しさに打ち砕かれた。
「やっぱり彼と似てるわね。物欲しそうな顔をされると、ついかまいたくなる」
ぼそりと呟いた紗耶。
しかし、その言葉はクレープの甘さにとろけていたハルジオンには届かなかった。
不本意ながら女装してダンジョン配信をしてたら、女勇者が厄介ガチ恋勢になっていた こがれ @kogare771
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