称号
* * *
『ナイトさまにはすでにご案内しておりましたが──ここが、王がお二人に御用意した仮の住まいです』
タホールは機械音声で明言した。
車を降りたカナイは、王都アシュル近郊の一軒家──高級住宅地の中でも一際巨大で広壮な建物・屋敷に案内される。
「こんな立派な建物を、自分たちに?」
『はい。それから、私が機属領での御二人の
白い衣を
ナイトはすでに勝手知った様子で屋敷の玄関に向かい、自動扉を開けて待っている。
カナイはナイトと二人きりではないことに多少の安堵を覚えつつ、何故安堵などしているのか自分自身に疑念を
ナイトを追って、カナイも屋敷の玄関に入ると、
「よぉ。おかえり」
「バ、バロン?」
驚くべき人物が待ち構えていた。
バロンは王都アシュルにて機属王に引き止められ、王宮で別れたばかりだというのに、すでに屋敷に到着していた……わけではない。
「驚くなよ、カナイ。俺の身体はほとんどが義体──交換可能な機械の身体だ。ここにいるのは、同時並列運用が可能な、いわば端末のひとつにすぎない」
「そ、そうは言っても」
バロンはナイトに話しかける。
「それで、ナイト。称号の数の件なんだが、二十四だったか? 現在のステータスは映せるか?」
「あのー」
カナイは二人の間に割って入るように声をかける。
「さっきも言ってた“称号”って、なに?」
なんの話か分からず、
ナイトはバロンを振り返り、彼が頷くのに合わせて、カナイへと向き直った。
「ちょうどカナイさんにも見せることができるようになったところです」
ナイトは空中を叩くと、コンソールでも操作するように何かを手指で操作しはじめた、途端。
「わっ」
カナイは驚きの声を発した。
ナイトの胸の位置に、立体映像のごとき
少年は慣れた手つきで画面のひとつをスライドさせ、カナイに見やすい位置に持っていく。
「これはステータスウィンドウ……俺たち“異世界転移者”に与えられた機能……スキルのひとつです。」
「ステータス、ウィンドウ……スキル?」
疑問符を頭上に浮かべるカナイの様子に、ナイトは微苦笑を漏らす。
「立ちっぱなしなのもあれですし、詳しい話はダイニングでしましょう」
言われ、カナイたちは場所を一階のダイニングに移動した。
そこは屋敷が鋼鉄の外観からは想像もできない樹のぬくもりに満ちた、吹き抜けのある空間だった。
一人用のソファにそれぞれ座った三人。タホールはお茶の用意をしにキッチンへと向かう。
ナイトは改めてステータスウィンドウを開示し、カナイの前に表示する。
「見て分かるように、俺たち“異世界転移者”には、このステータスウィンドウが与えられています。体力や魔力、攻撃や防御、各種属性値などの
各種アイテムの収納や装備。
カナイが気にしていた“称号”の項目を、ナイトはタップしてみせた。
「これが、カナイさんが気にされていた“称号”の一覧です」
そこには、以下のような単語が羅列されている。
《
騎士の中の騎士 『初期称号』……「etc」……
異世界転移者 「機神顕現」
貧民街の英雄 「攻撃力上昇B+」「格闘B+」
機神騎乗者 「機神類・操縦技術A+」
半機半人 「機械類・操縦技術A+」
弱者救済 「強者との戦闘で全ステータス上昇」
守護者 「守護対象存在で全ステータス上昇」
救済者 「道具作成A+」「魔力生成A+」
冒険者 「冒険適性A+」「野営能力A+」
閲覧者 「他者ステータスの閲覧」「ステータスウィンドウ開示」
「…………」
カナイは食い入るように一覧を見つめ、興味深そうに画面をスライドさせる。
確かにナイトの言う通り、二十四個の称号が、そこには列記されていた。
「“閲覧者”の称号スキル「ステータスウィンドウ開示」が獲得できたおかげで、今こうしてカナイさんにもステータスウィンドウを開示することもできるようになりました」
便利でしょと笑うナイト。
彼の跡を継ぐように、バロンが明言する。
「この称号システムをいくつ持てるかで、異世界転移者である俺たちのステータス・戦闘能力値は決定される。ちなみに、ナイトがメギドの闘技場で戦っていた時の称号数は、上から『四つ』のみ。
重ねるように説明を続けるバロン。
「だが。“
「それは無理な相談ですよ、バロンさん」
「ごめん、ナイト」
軽く微笑むナイトを見て、カナイはあらためて自責の念に堪えかね、謝罪の言葉を吐き連ねる。
「ごめん。私、なにも知らなくて……ナイトが戦える状態じゃないってわかっていたら、さらってでも逃がしてやるべきだったのに」
儀式前日に、決断できなかった己を呪うカナイ。
カナイの判断ミスで、ナイトは無謀な殺し合いに引き出され、今こうして左半身を機械のそれに変えてしまった。
「本当に、ごめん」
「謝らないでください、カナイさん」
ナイトはステータスウィンドウをどかして、カナイの震える両手を取った。
カナイはナイトの人肌の右手と金属の左手の感触を、同時に味わう。
「カナイさんが大事な十字架を壊してまで、俺を救ってくれた。あなたのおかげで、俺は命を拾うことができたんです。本当に、感謝してます」
「ナイト──ッ」
カナイは目に涙を浮かべて、ナイトの右手と左の義手を握り返した、
「本当に、ありがとう」
二人が真に和解する様子を黙ってみていたバロンは、懐かしい思い出にひたるように目を細めた。
「ま。そういうわけで、ナイトには今後のためにも、じゃんじゃん称号を獲得してもらわないといけないって話だ」
「わかってますよ、そのために、この屋敷を機属王から
「?」
首をひねるカナイに、バロンは屋敷の地下を親指で指差す。
「ここには。機属王が用意した、とびきりの修練場があるんだよ」
ナイトが急速に称号数を増やせたのも、そのおかげだと述べるバロン。
『皆さん、お茶の用意ができました』
白いメイド姿のタホールが、茶器をワゴンに載せて現れた。
「よし。じゃあ、ひと休憩した後で、地下の修練場と、屋敷の中を
きっともっと驚くぞと
タホールが入れてくれるハーブティーの香りに包まれながら、ナイトとカナイは見つめ合い、微笑み合った。
* * *
その夜。
カナイは夜風にあたりながら、煙草をふかしていた。
「カナイさん」
「おう、ナイト。呼び出して悪かったな」
タホールの用意した夕食と風呂を堪能した二人は、屋敷の三階バルコニーで向かい合う。カナイが煙草を携帯灰皿に押し込んだ。
ナイトはボロボロだった制服を脱ぎ捨て、タホールから与えられた
「話って何ですか?」
「ああ……」
カナイは少しだけ言葉を選ぶ間を置いた。
「その、今日はいろいろと、ありがとな。機属王と謁見だとか、称号システムを教えてくれたりだとか、本当に感謝してる」
「そんなこと。むしろ、俺の方こそカナイさんには感謝しなくちゃいけない側ですから」
ナイトは自分の左腕を、漆黒の義手を肩から肘まで大事そうに撫でた。
「うん。いや、うん。そうなんだけどな……
「カナイさん?」
「あれだ。前から言おう言おうと思ってたんだが」
「はい……?」
ナイトは頷いてみせる。
カナイは深呼吸して、もう一度だけ深呼吸する。たっぷり数秒をかけて、カナイは言った。
「その、『さん付け』で呼ぶの、やめてくれないか?」
「え、でも──なんでです?」
「特に理由はない。ただ」
「ただ?」
カナイはなんともいえない表情を作りだす。
「とにかく! 私を『さん付け』で呼ぶの禁止! わかった?」
「は、はい、カナイさ」
「うん?」
「カ────カナイ」
ナイトがそう呼ぶと、修道女は満足そうに数度頷く。
「うん! うん! はぁ、すっきりした! せっかく命を共有するほどの仲になったんだ! いつまでも『さん付け』じゃ、他人行儀がすぎるって思ってたんだ! 話はそれだけ! じゃあな! おやすみ!」
早口でまくしたてるカナイは、ズンズンとナイトの前を通り過ぎていく。まるでスキップでもしそうな柔らかい笑顔を浮かべて。
取り残されたナイトは左手の義手で頭をかいた。
「……カナイ、か」
ナイトはもう一度、彼女の名を呼んだ。
すると、ステータスが更新された音声が頭に響く。
空中のアイコンをタップし、ウィンドウを開く。称号一覧を見て、ナイトは笑みを浮かべた。
「そういうことか」
新たな称号を取得──“カナイの相棒”。
詳細を見てみる。
取得条件は「共闘回数・三回以上」そして「名前呼びするほどの関係性」──彼女と共に戦うパートナーとしての称号を、ナイトは新たに
内藤ナイト~異世界“機甲”物語~ 秘灯 麦夜 @hitou_bakuya
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