事実
* * *
「
ナイトは
聞かされていた──カナイを治療施設に運び入れる際に。
聞かされていた──バロンとタホール、そして機属王ウルティマの口から。
彼女は、彼女たちの正体は、人間じゃないことを。
それでも、ナイトは実際に本人の口から告げられるまで信じなかった──そして、今。
カナイは胸の開閉機構を閉じ、円卓に置いた左腕を付け直して、
「──今まで隠していて、黙っていて、ごめん」
「──いえ。でも、どうして黙っている必要が」
「それは……」
「そういう慣習、というか信仰上の問題さ」
黙りこくるカナイに代わり、あっさりと答えたのはバロンだった。
「
どこかの誰かを思い出すように
しかし、ナイトは疑問を
「それだと、貧民街の人々が使っている“戦装”なんかは?」
「あれは完全に“別枠”扱いなんだよ。そこのところはうまく誤魔化している。必要な技術であり、神からの慈悲や奇跡って感じでな。実際、適合率の問題で扱えない民衆の方が多いって、ウツ地区でも言ったろ?」
そういえばウツ地区ではじめて会った際、護送バスの中でそんな話を老人に
彼は
「もっとも。高位の戦装、
『まぁ、その戦装とやらも、もとをたどれば
「──どういうことです?」
カナイは
機属王ウルティマは指を組んで話し出す。
『うむ。ナイトにも話したことじゃが、事の
とある異世界転移者が、この世界に流れ着き、それまでこの大地を取り巻いていた法則を
「ちょ、ちょっと待ってください」
カナイは唐突過ぎる話に、完全に置いてけぼりをくらう。
「一万年前って……というか、教団の歴史書では」
『世界創生が行われたのは五千年前、というのじゃろう。じゃが、儂ら機属王の歴史はそれよりもさらに古い。これは事実じゃ』
ウルティマは一呼吸おいて話を戻す。
『“彼”が築き上げた統一帝国は
「まさか……教皇聖下の、誕生?」
『そうじゃ。正確には「創造」と呼ぶべきじゃがな』
『とにかく、奴の、教皇の出現によって、“彼”と儂らが創りあげた帝国は分断された。教皇は「教団」を率いて独立を宣言し、現在
それが五千年前の出来事。
「じゃあ、教団の歴史や、教皇の予言というのは」
『まぁ、噓っぱちじゃな。機属は外敵だの、世界の終末だの、奴が己の支配を円滑に進めるための虚偽虚飾じゃよ』
カナイは頭を抱え込んだ。
無理もないとナイトはカナイに寄り添いつつ思う。自分が信仰していた事実が、こうも真っ向から否定されては。
ウルティマは話を続けるべきかカナイに問いかける。
金髪褐色の修道女は、なんとか頷くことができた。
『教皇は“高位戦装”と“人造人間”の技術を統合した“十字架”や、支配権を奪った静止衛星レーザー砲・通称“
「なるほど、そういうこと……か」
カナイの内にあった最大の謎が解けた。しかし、
その様子を見て、ウルティマは『ここまでじゃな』と裁定を下す。
『今日の語らいはこの辺にしておくかの。連中が何故「
鋼鉄の円卓が床下に戻り、四人が立ち上がると玉座と三脚の椅子も格納される。
『ああ、それと、バロンは残れ。少し話したいことがあるのでな』
「はいはい。仰せの通りに」
数度頷く焦茶色の髪の青年。
「機属王。最後にひとつだけ教えてください」
カナイは立ち去ろうとする赤毛に銀瞳の女性を引き止めた。
「機属王の……あなた方の最終的な目的は、なんですか?」
ウルティマは笑みを消し去り、そらおそろしいほど静かな声で断言する。
『あやつを、教皇を、
機属王ウルティマはそれだけを告げて
彼女の雪色のドレスが植物の園に消えていくのを、ナイトとカナイは
* * *
ナイトとカナイが、タホールに送られたのを確認してから、バロンはウルティマを追って玉座の間の奥へ。
機属王は見晴らしの良いバルコニーで、赤毛をエアコンディションの風に遊ばせていた。
バロンは気安く王に話しかける。
「何用ですか、王陛下」
『決まっておる。ウツ地区で、おまえがやらかした失態、と言っては
ウルティマは怒っているわけでもなく、ただ釈然としない様子で半機半人の青年に振り返る。
「その件につきましては、自分でもなんとも言えないとしか」
『儂の、“機属王の側近”という称号を持つおまえが、万に一つも機属に襲われるはずがない。だが』
「シスター・カナイの犯行と見るのも、今では正直どうかと思えます。彼女は本当に、何も知らない様子でした」
『うむ。儂の読心機関──相手の思考を読み取る機能でも、カナイがおぬしの邪魔をした事実は一切なかった』
だからこそ不可解であった。
カナイは本気でナイトを安全圏に逃がすつもりで護送バスへと送った。
100体の義体──別の身体を同時並列で運用派遣できるバロンが、一体の義体をウツ地区に潜伏させ、老人に
「自分が考えるに、おそらく第三者による攻撃で、護送バスは破壊されたものかと。そこへ機属が偶然やってきたとしか」
『うむ。だが、そうなると一体だれが、ウツ地区にいたバロンの義体を破壊したのか……』
二人は大きな懸念を残しつつ、王宮を去っていくナイトとカナイを乗せた車をバルコニーから見送った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます