第22話 鉱山の怪物



 「その岩山と言うのは?」

 イゼさんが尋ねる。

 

 「元は鉱山だ。

 銅やダルテイト鉱石が採掘されていたんだが、採掘量が減って、30年ほど前に、閉山になったんだよ」

 団長の説明に、町長さんが補足する。


 「このロキアは、鉱山開発と共に生まれ、栄えた町ですから、閉山と共に潰れてもおかしくはなかったのです。

 しかし、閉山になる10年ほども前、たまたま訪れた転生者の方が、鉱石が枯渇したときに備えるべきだと、提言してくれたのです」

 

 「町の主産業が変わったのですか?」

 「はい。採掘ではなく加工へシフトしました。

 ロキアで作られる、ダルテイトの武具や加工品は評判が良く、今では、王都や他国からも注文がきます。

 ほかにも、アルバニという果実の栽培、品種改良を行い、これの生産も順調です」

 イゼさんの質問に答える町長さんの表情は、そのときの転生者への感謝に満ちているように見えた。


 あたしも感謝である。

 もし、その転生者が、この町で悪事を仕出かしていたら、あたしたちは、こうも歓迎されなかったであろう。


 「それより怪物だ。

 怪物は、迷路のように広がった、坑道を棲み家にしている」

 団長の言葉に、現実に引き戻された。

 閉ざされた坑道は、怪物の徘徊する地下の迷宮というイメージなのだろうか?

 絶対に入りたくない穴である。

 

 「襲われて、逃げ延びた人もいるんですよね。

 その人たちは、怪物の姿を見ていないのですか?」

 「それがなあ……」と、団長は苦い顔になった。


 「巨大なサソリに追われたというヤツもいれば、坑口から出てきたリビングデッドの集団に、仲間がさらわれたって騒ぐヤツもいた。

 巨大なクモだ。いや、コルボドの集団だ。

 いやいや、巣食っているのは、ハーピィだというヤツまで出る始末だ。

 知っているかい? ハーピィってのは、女の顔をしたバカでかい鳥だよ」


 もちろん、よく知っている。

 あたしは色々と思い出し、胃の辺りが痛くなった。


 「そういう種類の違う怪物が、集まって棲みつくということはありえるのでしょうか?」

 「……いや、ちょっと考えられんな。

 お互いに相手をエサとみて、殺し合うだろう」


 「あの」と、あたしは、団長に声を掛けた。

 「今まで、駆除をすることは無かったんですか?」

 

 「駆除? ああ、退治な。

 もちろん、討伐隊を出したさ」

 団長が語り始めた内容は、こうであった。


 西の鉱山跡に怪物が棲みつき、近くを通る人々を襲っている。

 その話が出てから十日後に、最初の討伐隊が結成された。

 人数は、団長を含めた、町の男が十八人。

 十八人は、剣や槍、弩などの武器を手にして町を出発した。


 鉱山跡についたのは、午前中であった。

 「誰かいないかー-!

 助けに来たぞーー!」

 生存者がいる可能性を考え、大声で呼び掛けながら移動したが、返事は無かった。


 逆に、声にひかれて、怪物が現れるかとも思い警戒をしていたが、呼び掛けを止めると、鉱山は、不気味なほどに静まり返るだけであった。


 坑口は複数個所あるため、討伐隊は六人一組となり三隊に分かれて行動した。


 被害者の遺留品らしい衣類が発見されたのは、第三坑口から少し入った場所である。

 坑口から陽光が届かなくなった辺りに、引き裂かれた衣類が落ちていたのだ。


 衣類は三人分。

 どれも大量の乾いた血で固まっていた。

 

 第三坑道の内部を捜索する案も出たが、グリド団長が却下した。

 「行方不明になった人間が、この奥に連れ去られていたとしてもだ、とても生きているとは思えない。

 進めば、闇の中で、新たな犠牲者が出るだけだ。

 予定通り、煙材を使うぞ」


 煙材とは、毒のある数種の果実を煮詰め、その液を何層にも塗り込んだ薪らしい。

 燃やせば、有毒ガスが発生するのだ。


 鉱山で働いていた老人の指示で、第四、第七、第一、第五坑口の順に、火をつけた煙材が、放り込まれた。

 「これで、坑道内は煙が充満するわ。

 中に怪物がいて、煙に追われて出てくるとすれば、この第三坑口よな」


 討伐隊は、周囲に警戒しつつ、第三坑口の風上に身を潜めた。

 持ってきた三挺の弩が、坑口に狙いをつける。

 

 しかし、坑口からは毒ガスが漂い出てくるだけで、怪物が出てくる気配は無かった。

 煙が途絶えた後もしばらく待機したが、結局、何かが坑口から炙り出されてくるということは無い。


 「坑道の奥で死んだか、別の穴から逃げたのかもな」

 団長がそう結論付け、討伐隊は岐路についた。


 ロキアの町が怪物の群れに襲われたのは、その夜であった。

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