第2話 三人称ver

 木柵で囲われた広場の周囲に人が集まって

いる。


 人々の視線の先には、どことなくやつれた男が一人、座らせられていた。

 後ろ手に縄をかけられている男は、項垂れたまま地面を見つめていたが、ふと、面を上げる。


 頭上高く広がる空を、眩しそうに心地よさそうに、目を細めて見つめ出す。


 その表情は周囲の声など聞こえていないような、まるで自分が蚊帳の内側にいるかのような様子であった。


 何を考え、誰を想っているのか。

 外側にいる誰にも本当のところは分からなかった。


 彼が偉大な夢を持ち、その元で同じ袂に腕を通し歩みを進めてきた、唯一無二の仲間達がいたことも、多くの者は知りもしない。


 ただ愚かな時代の忘れ形見として、哀れみを向ける者もいれば、怒りを向ける者もいた。 


 だが、そんな声はどこ吹く風。


 刑場の真ん中で空を仰ぎ見る彼には、微風すら届きはしない。


 心を通わせ合った愛しい友のことを想い、空にその心を馳せていたからだ。


 鬼と呼ばれた愛しい友。

 

 その2つ名には似合わない繊細で負けん気の強い、人間らしい男である。


 今生で顔を合わすことも叶わなくなった友の今後を案じた。


 走馬灯とは呼ぶには早いのか、友との思い出が蘇る。

 思い返せば、その友から自らが多くを奪ってしまったのではないかと不安も生じてはきたが、後悔はない。

 

 こんなところで自分だけ離脱してしまうのは無責任なようにも思えたが、あいつなら大丈夫だと思えた。


 親よりも互いのことを理解しあった竹馬の友だ。

 だからこそ、心置きなく全てを託せたのだから。


 欲を言えば、もう少し傍らで共に茨の道を行きたい気持ちはある。


 許されぬことは分かっている。


 それでも夢の後先まで共にありたいのだ。


 しかし、それも泡沫の夢。


 せめてもの想いで彼は誓う。


 来世があるとしても、今生をやり直せるとしても、必ずお前や皆を巻き込み武士を目指そうと。

 

 それがこの結末にたどり着こうと、何度でも必ずこの道を選ぶと。


 その誓いを聞けば、鬼と呼ばれたバラガキも笑って2つ返事で答えてくれる。


 そんな気がした。


 男は最期に何かを呟くが、群衆の声にかき消され、誰にも何も聞こえはしなかった。

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ある空の下で 沖方菊野 @kikuno

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