ある空の下で

沖方菊野

第1話 一人称ver

 顔を上げると、空の蒼が澄んでいた。


 良い天気だ。


 こんなに晴れ晴れとした心地の良い空は久方ぶりだ。


 いや。違うな。


 空が久方ぶりなのではない。


 空をこうしてゆっくり見上げる俺が、久方ぶりなのだ。


 そんな単純なことにすら気がつけず、空に気を向ける余裕すら失っていたのだな、俺は。 


 手を伸ばしてみたところで届きはしないが、空に手をかざしたい。


 だが、俺にはもうそれが叶わないのだ。


 もう少し早く気がついていれば、自由の身で空を仰げたものだが。


 今は縄が邪魔をしてくれる。


 …………。


 あいつも見ているだろうか。


 この美しい蒼さを。


 トシも見ているのだろうか。


 昔から俳句なんかを書いたりする繊細な奴だったからな。


 こんな空を見たら密かに句に認めるのだろう。


 鬼などと呼ばれはしたが、それは面でしかない。本当のあいつは、もっと繊細でどことなく女々しさのある負けん気の強い、喧嘩っ早い、そんなただのバラガキだ。


 しかし、そんな時間を俺はあいつから奪ってしまったのかもしれんな。


 自分の生き様に後悔などないが、それに付き合わせてしまったトシのことだけが気がかりだ。


 けどな、トシ。


 もし、お前の本当の幸せを奪うきっかけが俺であったとしても、俺は楽しかったぞ。

 トシと皆で、一つの旗に誠を込めて追いかけ続けた日々は、かけがえのない重みだ。

 

 だから、来世なんぞがあるとしても、もう一度今生をやり直せるとしても、俺はお前たちを巻き込んで、また一から侍を目指すさ。


 それがこの結末に辿り着こうとな。


 お前ならきっと、仕方ないと笑ってついてきてくれるだろう。


「な、トシ。」

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