踏切の幽霊

ひなみ

本文

「思い出したんだけどね!」

「え、なに? きーこーえーなーい!」

「何も聞こえないよー!」


 カンカンカン。

 警報機が鳴ると、今日も遮断機が人や車の通行を妨げるように降りてくる。目の前の三人の女子高生がこの音に負けないくらいの大声で話しているのを聞いて、女三人寄れば姦しいとはよく言ったものだと納得する。


「幽霊なんて、いるはずないじゃん!」

「え、でも出るらしいよ。この踏切に!」

「ちょっとやめてよ!」


 カンカンカン。

 夏の日差しや蝉にも負けないくらいの彼女達の声に、ある種の清清しさすらも感じている。


「ここに出るって……もしかして轢かれちゃったって事!?」

「そういう噂が昔からあるんだってさ!」

「えー本当やだやだやだ!」


 カンカンカン。

 この踏切はいつからか開かずの踏切と呼ばれている事もあって、待ち時間が異常に長い。よって、急ぎなのであればここではない迂回ルートを使うのが一番いい。

 数年前の今日のような暑い日、待ちきれずに渡ろうとした学生が撥ねられるという痛ましい死亡事故が起きてしまった。


 カンカンカン。

 警報機は鳴り続ける。叫び疲れたのか三人は静かになっていた。覗き込めば彼女らは今、スマートフォンを弄っているようだ。


「あ、このお店とかよくない!?」

「前にテレビで見た事あるかも!」

「じゃあ、今日はそこにしよっか!」


 警報機が鳴り止むと、かき消されていた蝉の声がようやく聞こえてくる。

 遮断機は上がって人や車が通行を再開し始めた。

 もちろん例の三人も言わずもがなで、ゆっくりと歩を進めていくようだ。


「あー、怖かった」

「ねえ、皆」

「まあ、幽霊なんていないけどさ」

「本当にそうかな?」

「そそ、そうだよね。非科学的すぎるよね」

「そう信じたいだけじゃないの?」


 渡り切る手前で、三人のうちの一人が突然立ち止まった。


「今、何か聞こえなかった?」

「特に何も……」

「ううん、私もまったく」

「ねえ、ここにいるよ」


 立ち止まったその子が振り返ろうとする。

 けれど、他の二人に腕を引っ張られここから離れて行ってしまった。


 カンカンカン。

 警報機が鳴ると、今日も明日も明々後日も延々と遮断機が人や車の通行を妨げるように降りてくる。


 カンカンカン。


 カンカンカン。


 カンカンカン。


 カンカンカン。


 もう少しで、こっちに連れて行けそうだったのに。

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踏切の幽霊 ひなみ @hinami_yut

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