百合の絆
* * *
「前世では、立場上、やりたいこともできなかった。望むものすらも、形にすることができなかった……」
アフターも終わり、外に出れば二人は駅へと向かいます。駅に着いたのなら、そのあとは帰る方向が違うのですが、駅まではロロランもにずふわも一緒に歩きました。
その最中で、にずふわは、
「しかし、前世でいろいろあったが、今世では自分の好きなことやりたいことに素直になれて……互いに、いい人生になっているようだな……」
「そろそろ口調戻しておかないと人に聞かれる」
「――お互い、いい人生になっているみたいですね……」
艶やかな黒髪をなびかせた美女と、お人形のような格好をした少女。まさかこの二人が元勇者と元魔王だなんて、誰も思いません。
しかも、二人とも百合小説を書いている、なんて。
ぴょんぴょんと跳ねるように歩くにずふわは、まるでおもちゃのようです。
「まだまだ制約はあるが、余は……にずふわも、半年後にはついにえっちな本が読めて、書けるようになるんです」
「えっちな本書くの! 書いたら読むぞ! 絶対読むぞおおお!」
「口調」
「書いたのなら、絶対に読みますわよ」
かつては対峙した二人でしたが、百合好きだと分かったのなら、もう争う必要はありません。
そもそもいまは、お互い百合小説作家。争う理由もありませんし、話してわかったことですが、解釈も一致していました。
「ふふ……もし機会があれば、合サ、なんてしても、いいかもしれませんわね?」
長い髪を耳にかけつつ、ロロランは微笑みます。すると、にずふわは小動物のように跳ねて、
「ぜ、ぜひ……! そ、そうだ、半年後に……半年後に……!」
ついに駅が見えてきました。ちょうど、それぞれの列車が来ていました。
「よい百合を」
別れ際に、にずふわが手をぶんぶんと振ります。ロロランは優雅に。
「よい百合を……ごきげんよう、それでは」
――酒場でのやり取りの際、連絡先をすでに交換しました。
半年後、ロロランの成人向け百合小説本を、にずふわに届けられるように。
……その後、現魔王を倒した現勇者が「えっちなものは全て悪」として、あらゆるえっちなものを排除しようと行動を始めますが、これはまた別のお話。
勇者の命令によりロロランの成人向け百合小説は燃やされるし「えっちな百合小説を書く」というにずふわの夢の危機もあり、現勇者を止めるために、ロロランとにずふわの二人は戦いの道を歩むことになりますが、それもまた別の話。
【終】
元勇者が百合小説を同人誌即売会で販売していたら元魔王に再会しちゃった話 ひゐ(宵々屋) @yoiyoiya
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