そう私は、40歳、白ねぎ農家です。
さて、色々と白ねぎについて、白ねぎ農家についてお話してきましたが、いかがだったでしょうか?
農家と言うと、古臭くて、爺さん婆さんがえっちらほっちらやってるイメージかもしれませんが、そんなことはありません。
今は機械化が進み、かつては数多の人手が必要不可欠だった作業も、機械の力で省力化がなされています。
必要な人手は確実に減少しており、機械を揃える資金さえあれば、新規参入するのも難しくありません。
そして、そのための必要な資金もまた、補助金や無利子融資という形で調達しやすくなっており、参入のためのハードルは下がってきています。
実際、自分も農業に携わったことのない都会っ子でしたが、基礎研修に4ヶ月、親方の所で実地研修に1年を経て農家になれました。
そして現在、順調に業績を伸ばし、5年目の現在は2千万に稼ぎが届こうかというところにまで来ています。これは自分も、役所側も想定外の数字です。
会社を一つ立ち上げて、年2千万を稼ごうとなったら間違いなく大変です。実際、自分も色々と苦労しました。
しかし、都会であくせく働くよりかは、遥かに有意義な時間を過ごせていると自負しています。
もし、脱サラして農業をやろうと考えて踏み出していなければ、今頃は調理師のままであり、都会の片隅でコロナに怯えながら生活していることでしょう。
しかし、今は何の恐怖も感じない開放感の中にいます。広い畑を走り回っている以上、三密なんて関係ない職場ですからね。
縛られたスケジュールもなく、仕事の内容は自分で考え、自分で決めていけるというのが大きい。これが解放感、自由を生み出し、精神への負荷が段違いに楽になりました。
無論、リスクもあります。開業するにあたって、自分の財産を出資し、さらに足りない分は補助金と融資で補い、それで現在の形を作り上げたのですから。
しかし、リスクを背負っている感覚は、途中で消えました。リスク以上のリターンを得られえる実感を手にしたその時から、様々な苦労が報われたと感じたからです。
そう、自分は“賭け”に勝ったのだと感じました。
農業は一種の賭け事です。畑を用意し、種を植え、収穫して、出荷する。種から作物まで手間を、時間と経費を用いて、差額を頂戴するのが農業です。
順調に行けばそうですが、途中で病気や災害に襲われ、すべてが台無しになることだってあります。現に、四年目の水害は大きな損害を出し、苦しい場面に見舞われました。
しかし、それすら経験として活かせています。同規模の水害が来ても大丈夫なように、作付けを見直し、設備を整え、これに備えることができました。
なお、五年目となる今年は割と穏やかな天候でしたので、備えを活用することはありませんでしたが、備えていないよりは遥かにマシです。
こうした苦労もありますし、毎日休みなく働いています。ブラックじゃんと思われる方もいるかもしれませんが、自分は今の状況をブラックだと感じたことはありません。
人によってブラックな職場は何か、の尺度は違うと思いますが、自分は仕事が楽しいかどうかと、稼げるのかどうかで判断しています。
ゆえに、稼ぎは少なくとも楽しければブラックではなく、楽しくなくても稼ぎが多ければこれまたブラックではない。面白くもないし、稼ぎもない職場がブラック。これが自分の尺度です。
もちろん、体を壊すようなレベルの過酷の職場は論外ですが。
そう考えると、今の自分の職場、すなわち自分の農園は、楽しい上に、稼げる職場です。
休みはなくとも、その気になれば休めるという自営業ならではのセーフティーもありますし、気分的には楽な物です。
生物の根源的な喜びの中に、“つくる”楽しさというものがあると考えています。そうでなければ、遺伝子を次世代に残すこともできませんし、誰も子供を作ろうともしないのではと考えています。
そして今、自分は作る最前線にいます。種から育て、作物を製品として出荷する。作る喜びがなければ、決して長続きしません。
労働はかなり厳しいものがありますし、環境の厳しい夏冬も畑を駆けていますから当然です。
よく農業は3K(きつい、汚い、金にならない)の職業と言われます。
しかし、これは大嘘です。前二つには異論ありませんが、“金にならない”というのは間違いです。そうでなければ、商売として成り立たないからです。
実際、自分は素人で始めた脱サラ農業ですが、今では一端の農家として足場を固めることができました。つまり、しっかりと“稼げて”いるということです。
雇われ人の頃の精神的な負荷もなく、のびのびと暮らせています。
こうして執筆活動を行えるのも、“余力”があるからです。才が乏しい上に、余裕余力がなければ、書く作品もつまらないものばかりとなるでしょう。
まあ、下手の横好きということもありますが、こうして誰かに見に来ていただけるだけで満足でございますよ。
農業も、料理も、創作活動も、“楽しい”から続けているわけです。
今日も今日とて白ねぎを掘り、育てた野菜で料理を作り、異世界に想いを馳せながら筆を取る。
そんな私は、40歳、白ねぎ農家です。
ほんのささやかな幸せに、白ねぎの甘みを添えて、畑に飛び込んでいくのが日課の男です。
~ 終 ~
40歳、白ねぎ農家です。 夢神 蒼茫 @neginegigunsou
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