島民の話

 毒の酒をしこたま飲んで、俺の友人たちはみんな死んだ。

「いやー、お客さんを連れてきてくれてありがとな。でも良かったのか? こいつら、お前の友達なんだろ?」

「いいんだよ。贄の調達が遅れてた分、人数を割り増しにした方がいいだろ? それに、友達だからこそ楽しいんだしね」

「そうか! でも気をつけろよー? オレの親父とか、同じようなこと言って、島で一等仲の良かった奴を『お客さん』役にしたらしいぜ?」

 この祭りには、必ず『お客さん』が必要になる。

 あの洞窟の奥にいる、浪神さまという神様のために。


 浪神さまは、この島の周りの海を穏やかにして、島を栄えさせてくれる神様だ。

 けれど、ずっとそうしてもらうためには、定期的に生贄を差し出さなければならない。

 夏の新月の夜、人間を一人殺して、洞窟に投げ込む。そうするだけで、この島の未来は安泰なんだそうだ。

 ただ、新月がいつかなんて正確に把握するのは面倒だし、祭りは大抵、その少し前から開かれる。一緒に盛り上がる島民が減るのは困るから、生贄は大抵、よそからきたお客さんだ。

 ただ今年は、新月の日に気付いたのがその日の夜で、生贄にするお客さんをちょうどよく連れてくることができなかったのだ。

 だから、俺は友人たちを誘った。生贄の調達が遅れる分、人数を増やせばいいと思ったのだ。

 酒に混ぜた毒で、友人たちは呆気なく死んだ。あとはみんなで、こいつらの死体を洞窟に投げ込むだけだ。

「しかし、毎年毒殺ってのも芸がないよな。確か、殺し方はなんでもいいんだろ?」

「多分そうだったと思うが。一人一回ずつ『お客さん』を殴って、誰のがとどめになるか賭けた年があったらしいし」

 みんなで死体を担ぎ上げながら、口々に言い合う。俺も頷いた。

「いやあしかし、浪神さまっていうのは本当にありがたい存在だね。浪神さまがいるおかげで、人を殺す機会が得られるんだから」

「分かるー。普段あんなに観光客がいるのに、手を出しちゃだめなんてつまらないものね」

「本当に! 神さまさまって感じだよなあ」

 みんなの笑い声が響く。洞窟の奥から、低く波の音が聞こえた。

(今年の祭りは、いつにも増して楽しかったなあ)

 そんな風に思いながら、俺も笑っていた。

 死体を洞窟に投げ込むと、俺たちはすぐに宴席に戻る。まだまだ料理は残っているし、ここからは無事に生贄を調達できた祝いもしなくちゃならないし。

 また来年も、楽しい祭りになるだろう。

 浪神さまのためならば、俺たちはずっと、同じように楽しく暮らせるのだから。

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浪神祭りにいらっしゃい 朽葉陽々 @Akiyo19Kuchiha31

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