かにすぷれー

大隅 スミヲ

カニスプレー

 カニスプレーって知ってっか。

 いまSNSで最高にバズってる香水なんだよ。


 え、そんなの見たことが無いって?

 おいおい、バカ言っちゃいけないよ。キミがSNSでフォローしているのはオシャレに興味がある人たちなのか。まさかアニメやゲームの情報を掻い摘んでみているだけじゃないだろうな。


 もしそうだとしたら、キミたちは何も知らなすぎる。

 世の中の流行に取り残されちゃうよ。


 流行に取り残された人たちの運命ってわかってるだろ。

 ガラケーを使っている連中がいい例だ。

 みんながスマホを持っているのに、ガラケーの方が使いやすいっていって持ち続けている。


 なあ、滑稽だと思わないか。

 もうすぐガラケーの電波は止まっちゃうんだぜ。

 どんなに流行にあがいたとしても、結局はスマホを持たなきゃならないってことだ。


 えっと、何の話だっけ。

 ああ、カニスプレーだった。

 1本5000円。これが安いか高いかは、買うお前らの価値観次第だな。


 え、高いって?

 これだから流行に敏感じゃねえ奴らは困るんだよ。


 たった5000円で明日からモテモテになるんだぞ。

 だったら、安いもんじゃねえかよ。


 あ? おれのいうことが信用できないっていうのか。

 ごちゃごちゃうるせえよ、四の五の言ってないでさっさと5000円だせよ。


※ ※ ※ ※


 新宿歌舞伎町にあるゲームセンター。

 そこで男に声を掛けられた。


 タンクトップの上にダウンジャケットを着た厳つい男。

 胸から首まで何の模様かわからないタトゥーが入っていた。


 ぼくたちは、その男に路地裏へと連れ込まれた。

 逃げればよかったんだけれど、怖くて逃げられなかった。


 そして、カニスプレーの話だ。

 もう、わけがわからない。

 普通に「5000円だせ」とカツアゲされた方が、まだましだ。

 この男のわけのわからない話で、頭がおかしくなりそうだった。


※ ※ ※ ※


「ちょっと、なにやってるの」

 突然、背後から声を掛けられた。


 振り返ると、そこにはスーツ姿の女の人が立っていた。

 身長は、ぼくよりも大きい。

 おそらく170センチ近くあるだろう。


「なんだよ、おめー」

 カニスプレーの男が凄んだ声を出した。

 しかし、女の人は怯まなかった。それどころか、笑みを浮かべたように見えた。


「おれの商売の邪魔しようっていうのか」

 さらに男は言葉を続ける。

 女の人は笑みを浮かべたままだった。でも、目は笑っていない。


「なにがカニスプレーだよ、頭おかしいんじゃないのか」

 反対側の道から今度は男の人が現れた。こちらの男の人も背が大きい。こっちの人は180センチ以上あるように思えた。


「なんなんだよ、お前ら」

 男がいうと、女の人がポケットから革製のケースを取り出した。


「新宿中央署。恐喝の容疑で現行犯逮捕します」

 女の人の言葉に男は逃げようとした。

 しかし、それをもう一人の男の人が阻止する。


※ ※ ※ ※


 ぼくたちは新宿中央署の刑事さんたちに助けられた。

 あのカニスプレーの男は、恐喝の常習犯であり、ずっと刑事さんたちが追いかけていたそうだ。


 警察署を出たぼくたちは、スマートフォンでカニスプレーについて、検索をしてみた。


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 もちろん、そんな物は存在しなかったということは、いうまでもない。

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かにすぷれー 大隅 スミヲ @smee

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