ガラス瓶の試験

葦沢かもめ

ガラス瓶の試験

まさか私が、ガラス瓶の真実を暴くことになるなんて。


私は、ソフトウェア開発者としてコーディングとデバッグに明け暮れる日々を送っていました。しかしある日、新しいプロジェクトに取り組んでいるときに、全てを一変させてしまうファイルに目が留まったのです。それは、人々の感情が詰まったガラス瓶の販売に関するレポートでした。


信じられない話です。感情が充填されたガラス瓶が、様々な目的で闇市場で売られているのですから。娯楽用、医療用、そしてプライベート用まで。私は、もっと知ろうという思いに駆られました。調べれば調べるほど、ゾッとすることばかりでした。


私は何とかしなければと思いました。このまま黙って見過ごすわけにはいかなかったのです。私は、このガラス瓶の真相を突き止めるために動き出しました。


最初に向かったのは、元同僚のサラでした。何年も一緒に仕事をしてきた仲間だから、きっと助けてくれるだろうと思ったのです。


しかし、私が質問を始めた途端、彼女の顔は強張りました。彼女は私に、危険だからやめるように言うのです。しかし、私は立ち止まりませんでした。


「お願い。サラの助けが必要なんだ。一人では無理だよ」


「ごめんなさい、エヴァ。私はあなたを助けられない」


彼女は私の視線を避けて「危険すぎる」と呟きました。私は敗北感を感じながら、彼女のオフィスを後にしました。


私は、他の方法を探さなければならないと考えました。そこで、親友であり、コンピューターサイエンスの学生であり、ハッカーでもあるライアンを頼ったのです。


「ライアン、君の力が必要なんだ。何かやばいものを見つけてしまったんだ」


彼は目を見開いて、「それって何?」と尋ねました。


私は緊張して周りを見回しながら、小声で説明して頼み込みました。


「分かった、手伝うよ」


「またいつもの面倒ごとか」とでも言うかのように、彼は呆れた顔をしていました。


ライアンの協力で、私はガラス瓶の情報をさらに掘り起こすことができました。そしてガラス瓶をつくったヘレン博士という科学者に面会することができたのです。


彼女は、ガラス瓶の危険性と、責任を持って使えば良いことがあることを教えてくれました。しかし、彼女は同時に、人の感情をガラス瓶に入れて販売する背後にある、マーカスという男が率いる企業のことも教えてくれました。彼は冷酷で、自分の利益を守るためなら手段を選ばず、真実を秘密にしていました。


ガラス瓶を売っている会社の経営者であるマーカスと顔を合わせるまで、そう時間はかかりませんでした。ライアンに彼のコンピュータに侵入してもらい、面会を設定したのです。緊張しましたが、私は真実を知る必要がありました。


「あなたのしていることは分かっています」


面会の席上で、私は声を荒げました。


「ガラス瓶のことも知っています。真実を明らかにするまで追求は止めません」


私の張り上げた声に対して、マーカスは冷たく残酷な声で笑いました。


「君は自分が何を相手にしているのか分かっていないね、エヴァ。私を止められるとでも思っているのかな? 君はただのソフトウェア開発者だ。ここでは何の力もないんだよ」


「私には真実がある」


私は恐怖を隠しながら答えました。


「真実? 真実とは、人々がこのガラス瓶を欲しがっているということだよ。今まで感じたことのない感情を感じられるようになりたいのだ。平凡な日常から抜け出したいのだ。私はその望みを叶えているにすぎない。君には止められないよ」


私はぞっとした。信じられない話だ。人々は、他人の感情が詰まったガラス瓶を喜んで買うのだろうか?


「しかし、代償はどうするのですか?」


私は、かろうじて絞り出したか細い声で尋ねた。


「その感情が売られている人はどうなるんですか?」


「やむを得ない犠牲というやつだ」


そう彼は答え、肩をすくめた。


「でも、もう遅いんだよ、エヴァ。君はすでに負けているのだ。みんなガラス瓶を使っていて、それを止めるつもりはない。君の友達の……名前はサラとライアンだったか?」


「私の友人が何か?」


「彼らも、私の大事な顧客の一人だよ。嘘だと思うなら、本人に聞いてみればいい」


そう言って彼が差し出したのは、顧客リストが表示されたタブレットでした。サラとライアンがどんな感情を買ったのかが、詳細に記録されていました。


日付を追うと、二人は私と会った直後にストレス解消用の感情をオーダーしていました。


私は打ちのめされました。社会はあまりにも変わりすぎていて、何も変えられません。世界は、ガラス瓶のように冷たく無情な場所になっていたのです。人間の感情が詰まったガラス瓶のように、私は空っぽで、冷たく、孤独を感じていました。


もう、どうしようもありません。未来の地球は、人々の感情をガラス瓶に入れて売り買いする場所となり、真実もまた売り買いされる商品となったのです。

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ガラス瓶の試験 葦沢かもめ @seagulloid

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