エレケナの木

ヨドミバチ

エレケナの木

じゅそ【呪詛】

 1.人が悪意をもとにねんすることで個人もしくは社会等へ厄災やくさいや不幸をもたらそうとする行為。のろい。のろうこと。またその言葉。

 2.ある世界の現世うつしよならざる力。不可逆的に精神の破壊された者だけが宿し、ひとつの願いを叶える。


じゅそつき【呪詛憑き】

 呪詛(2)を宿した人間。




 *****





 あの子のユクルがもうすこしだから。


 あとふたつ抜けばひとまわり。さいしょのユクル。つぎのユクルはななつから。


 わたしのユクルももうみっつ。あのひとのがわたしよりひとまわりおおきくて、おとうさんやおかあさんははんたいしたけれど、もうみっつ抜いたらおなじ大きさ。それから季節がひとまわりするまでだけれど、わたしとあのひとはおなじでいられる。


 そのまえに、あの子のユクルが大きくなる。輪がななつ。


 エレケナのつるで作ろうねとやくそくをした。エレケナを使うのはおかあさんがそうしなさいといったからで、やわらかくてじょうぶでゆびを切るしんぱいがない。あの子のちいさなゆび。




 もどれ。


 もどれ。


 もどれ。




 やねのふちにさく花がほしかった。

 あの子がもりでまよわないよう。ただのおまもりだけれど。


 つるをはわせる竿さおをあのひとと立てた。つめをはいでしまったのだけれど、あのひとが泣きそうにあやまるから、こまってしまった。


 ユクルがひとつまわるまえから、わたしはいたみにつよい子だった。

 水をあげなくちゃいけない。もうすぐさくころ。


 ちを止めたゆびで竿さおをしばるのをやらせてとせがんだら、あのひとはけっそうを変えてわたしの手をにぎる。わらいかけるとだきしめてくれたけれど、こわい顔でまっていてといわれてしまった。おこられるのはきらい。きらいなのに、あたたかくなる。ふしぎ。


 水をあげなくちゃ。もうにどあの花をみて、あの子のユクルを作りたい。




 もどれ。


 もどれ。


 もどれ。




 あしたはゆきなんだ。


 かたかけの糸をかってもらおう。


 あのひとにはみどりがにあう。あの子にはゆうくさのようなきいろ。

 あのひとは、いつかぎんいろの糸をくれるといった。


 わたしがすきなのはあおよ。

 でも、きっとにあう、そのかみに。そういうから。


 いとをかってもらおう。

 あした、ゆきがやんだら。




 もどれ。もどれ。


 もどれ。もどれ。もどれ。


 もどれ。もどれ。もどれ。もどれ。もどれ。もどれ。もどれ。







 ゆうしょくのじかんになるからあのこをよんでこないといけないのに、そこにいるあのこのゆびをにぎってそとのゆきをあのひとのとなりでながめている。ゆきのおもみでさおはおれてしまったけれど、こんどはきっとつめをはがずにひもをむすべるから、いつかぎんいろのいとをあのひとにかってもらったひに、えれけなのきのしたでふたりのすきなおむすびをならべて、くらくなるまではなのさくわたしたちのいえをながめていようね。




「あぁ、ひでぇなこりゃ」




 もどれ。もどれ。




「カシラぁ。なんもありませんぜ」

「イモのひとつくらいあんだろ」

「いやイモひとつにここまでしませんて」

「ハラ減ってんだよ」

「しょうがねぇヒトだなぁ」




 もどれ。もどれ。もどれ。




「お、ユクルだ。おめぇ、いくつまで回した?」

「んなの覚えてねぇっつか、ガキの遊びっすよ? 三巡さんじゅん終わるころにゃいいオトナ……いや、サボってねぇでなんか探してくださいって。ちゃんとカネになりそうなもん」

「きれーに抜くの結構コツいんだよ。こうちっちぇーと……あーダメだ。割れた」

「全然聞いてないっすね」




 あのこのゆくる。いつつのわ。まだふたつ。あのこのは ま だ




 も




                         ど


                                  レ








「あ? なんか言ったか?」

「さっきからいろいろ言ってるっすよ。早いとこずらかりたいんすから、カシラもちゃっちゃと――」

「どした?」

「え? や、カシラ、指……」

「指? おれの……あれ?」

「あ、あああ、あの、そいつ、生きてません?」

「ゆび? おれの、ゆび……」

「なななんでトドメさしてないんすか!? 殺すなら全員じゃないと万一が、ああぁあッ!?」

「ゆび、ゆび、ゆびゅ、どろ、とけ、どろけ、どけ、どりゅ、どゅる、どゅる、どゅるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるる」

「ひぁあゃああ!? うそだろ!? おおおおいッ、くんな! てめぇっ、死にぞこないの呪詛憑きがッ、ぶっ殺して、ああああああああああああああああああああああああああああしがっ、おれの、足ッ、おれっ、ううううでもッ、うべぇやめぁぁたす、ばゃぁぁぁ、ぁぁぁぁぁぁぁぁぉぉぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ、ぇぇ、ぁ……………………………………、…………――」



















 エレケナの木を、にわのすみにうえようっていったの。

 きっとねづくから。わたしたちのユクルが、おなじになるころに。



















かんげんのじゅそ【還元の呪詛】

 対象の時間を一定のはんで逆行させる呪詛(2)。

 人体を対象とした場合、対象を構成する元素の由来するもの、すなわち、細胞のもととなった「食物の咀嚼そしゃくされた状態」まで還元しようとした例がある。

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エレケナの木 ヨドミバチ @Yodom_8

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