第5話 ある悩み

 小学生に演劇なんて教えたことがなかった。

「よろしくお願いします!」

 場所は学校内のとある教室。児童は大体10名くらい。みんな素直にそして元気に挨拶してくれた。

「よろしくお願いします。津山統治です。」

 ペコッと頭を下げる。なんだか気恥ずかしい。

「津山先生は東京でずっと演劇をやって来たんだよ。しかも自分の劇団を持ってたんだからすごいんだよ。」

「へぇー!すごーい!」

 少し生徒がざわつく。別に大したことではないけれど”東京”という言葉が魅力的に聞こえたのだろう。

「テレビに出たことあるんですか?」

 男の子の一人が聞いてくる。

「まぁ、ちょっとだけ。」

「やべースゲー!」

「でも俺はみんなが知ってるような俳優さんじゃないからね。」

「でも出てたんでしょ。スゲー!」

 またしても生徒がざわつく。

「・・・。」

 なんて言っていいか分からない。何も成し遂げていないのにここまで持ち上げられると自分が嘘をついているような気がしてくる。

「じゃあ、後のことは津山先生にお任せしていいかな?」

「あ、いいよ。」

「何かあれば職員室に私いるから声かけて。」

「分かった。ありがとう。」

 そう言ってきのっぴが教室を出て行った。


 ちょこちょこ休憩をはさみながら大体2時間くらい行った。

 準備体操をやって、ちょっとした演劇のゲームをやって、そして少しだけセリフをしゃべった。

「じゃあ今日は終わりです。気を付けて帰ってね。」

「は~い!!」

 ガヤガヤと生徒たちは話しながら帰っていった。

「ありがとう、トウ君。みんな満足してたね。」

 心配で様子を見に来ていたきのっぴが笑顔でお礼を言う。

「いえ、大したことはやってないよ。みんな元気で良いよね。」

「みんな演劇をやってみたいっていう子ばっかりだから。やっと出来てうれしいんだと思う。」

「・・・。」

「どうしたの?」

「ごめん。ちょっと東京の事思い出しちゃって。こういうのいいよなって。」

「何にか違うの?」

「みんな元気だって所かな。」

「何それ?みんな暗いの?」

「まぁ、そうかな・・・俺が暗くしちゃったってところもあるし・・・。」

「・・・。」

「あ、ごめん。気にしないで。東京の頃の話だから。それよりもさ、もらった名簿を見ると今日一人いないよね。」

「うん。学校自体休んでるんだよね。」

「そうなんだ。体調?」

「うん・・・そのことでちょっとトウ君に相談があるんだよね。」

 きのっぴが真剣な顔をこちらに向けてくる。

「そんなかしこまらないでよ。緊張しちゃうじゃん。」

「ごめんね。ちょっとどうしていいか分からなくて・・・。」

「・・・分かった。」

 きのっぴはそれからその休んでいる生徒の話を始めた。

 その内容は学校ではよくあることかもしれないが、現実にはどう対処していいか悩んでしまうものだった・・・。

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