第2話 面倒な親だけどここしかない
玄関の前に立つ。
「あ~、めんどくさ。」
入る前に自分を落ちつかせる。だるい感じで行った方が格好がつくと思ったのだ。
「何がめんどくさいんだよ。」
ギョッとする。横を見ると草を握った母親が立っていた。
「あ、母ちゃん。」
「十何年ぶりに帰って来たと思ったら何がめんどくさいだ。面倒なのはこっちだよ。」
「そんなに怒るなよ。草むしり?」
「ちょっとね。だいぶ伸びて来たからお父さんと一緒にやってたんだよ。」
「あ、そう・・・。」
親父には会いづらい。ほとんど喧嘩別れのような出て行きかたをしたのだ。
しかし、そんな事はお構いなく親父が陰から現れた。
「・・・なんだ、負けて帰って来たのか?」
「・・・。」
「あれだけ啖呵切って出て行ったのにおめおめと帰って来やがって情けない。」
「誰も負けて帰って来たなんて言ってないだろ。」
「じゃあ何しに帰って来たんだ。どうせ都落ちだろ。」
「お父さん、せっかく帰って来たんだから。」
「別に頼んだ覚えはない。連絡一つよこさないでどの面さげて帰って来たんだ。」
「・・・。」
悔しさのあまり帰るのをやめようと思ったが、グッとこらえた。俺にはここしかないのだ。
「悪かったよ。あんまり長居しないから少しいさせてくれよ。」
「・・・勝手にしろ。」
こちらの素直な謝罪が意外だったのか、親父はスッとその場からいなくなった。
「あんた、細かい事は聞かないけどさ、帰ってくる時は連絡しなさい。」
「ごめん。」
「部屋は荷物置きになってるから勝手にかたずけてよ。」
「分かった。」
そう言って母親も奥へと引っ込んで行った。
「・・・。」
もっと大喧嘩になるかと思ったがそんな事はなかった。
「ただいま。」
家に入りとりあえずの挨拶をする。そして自分の部屋がある二階に上がる。
俺にはここしかない・・・。
さっき親父に対して素直に謝れたのはこの思いが強いからかもしれない。
あのまま東京に一人でいたら自分がもたなかった。どこか違う場所に逃げたとしてもきっと俺の心は耐えられなかったと思う。
罵られるのも馬鹿にされるのも分かっていた。でも打ちのめされて心が壊れそうな時に真っ先に浮かんだのはこの実家なのだ。
「マジかよ・・・。」
15年ぶりに入った自分の部屋は本当に物置になっていた。ガチャガチャと物が置かれたせいで窓からの光がまともに入って来なくなっている。
「何でこんなに乱雑に物が置かれてるんだよ。」
荷物をかき分けカーテンを開けて窓を開ける。キラキラと埃が舞っていた。
「・・・。」
乱雑な置き方に疑問に思ったが、すぐに何となく想像がついた。
もしかしたら、いや、確実に俺が原因だろう。
親父の気性は一言荒い。怒りに任せてボンボン荷物をこの部屋に放り込んだのかもしれない。
「まぁ、これからこれから。」
いきなり関係を修復するのは難しいだろう。こういうのは徐々に軟化するのを待った方が得策だ。一先ずこの部屋を生活出来る状態にするする事が先決。東京の荷物が明後日にこっちに届く予定なのだ。
「統司~、夕飯どっかに食べに行くけど何食べたい?」
外から母親の声がする。
窓から顔を出すと母親が腰をポンポンと叩きながらこちらを見上げている。
「なんでもいい。」
「じゃあ焼肉でも食べに行こうか?」
「分かった。」
「こっちももう終わるから、もう少ししたら行くからね。」
「分かった。」
そう言って母親と父親は片付けを始めている。父親はこちらを一切見ない。
「・・・。」
これからこれから、また自分に言い聞かせる。
飯を食いに行って何を話そうか?
けれど勝手に出て行った俺の話なんか聞いてくれるんだろうか?
きっと俳優になりそびれた話なんて聞いた所で面白くはないだろう。
「まぁ、出たとこ勝負だな。」
とりあえず腹を括って今日を乗り越えよう。
よく分からない気合いが入り、部屋にある段ボールをせこせこと整理を始めた。
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