第3話 ずっと好きだった彼女との再会

 とりあえず何か職を探さなくてはいけない。

 ベットで天井を見ながら考える。

「ん~~~~~。」

 ただ俺はなんの資格も持っていない。芝居以外何もやってこなかった。

「・・・。」

 寂しいものである。売れれば輝かしい下積み時代のエピソードになるが、売れなかった場合はただの何もしてこなかったフリーターと一緒だ。

「とりあえずちょっと駅前でも周ってみますか。」

 立ち上がり、外用に着替える。

 このままベットで横になっていても始まらない。車で街をぐるっと周ってみるのも悪くない。それで求人が見つかるわけではないけれど、なんとなく市場調査だ。

「母ちゃん、車借りてくよ~。」

「気を付けてよ~。」

 台所にいる母親との会話。なんだかこの15年の空白がなかったかのように自然に話せている。

 ちなみにこの前の外食は気まずさマックスで終わった。母親が一方的に話し、俺がそれに合わせる。父親はただ黙って食べていた。

 まぁ、でもあの日以来父親からの文句が出ていないのでそこら辺は良しと捉えている。


 駅前はずいぶん変わっていた。

 帰って来た時はすぐにタクシーに乗り込んでしまったから分からなかったけど、全体的に綺麗になっている。ブランド店が立ち並び、歩いている人もどこか垢ぬけている感じがする。

「・・・。」

 と言っても東京と比べると規模は何十分の一ではあるけれど。

 いや、比べてはいけない。俺は東京から帰って来ただけで、偉そうに比べられる人間ではないのだ。

「・・・。」

 しかし、困ったことに駅前を一周するのはすぐに終わってしまった。かと言って歩き回って求人募集を見て回る気にはなれないし・・・困った。

「・・・学校。」

 急に小学校を思い出した。変わったしまった街を見て何か引っかかったのかもしれない。そして行ってみたくなった。たしか卒業するときに「タイムカプセル」を作った気がする。何を書いたかは忘れてしまったけれど、無性に見てみたいと思った。

「入れるかな。」

 自分が通っていた時は今ほど警備はきつくはなかったと思う。それに金網も低くて簡単に校庭に入れた思う。

「とりあえず行ってみますか。」

 そういってハンドルを小学校がある方向に切った。

 

 時の流れは恐ろしい。

「マジかよ・・・。」

 校庭も見えないように高いフェンスで学校全体を囲んでいる。

「全然見えないじゃん。」

 これでは懐かしいもへったくれもない。

「・・・校門か。」

 入ることが出来るのはそこしかない。防犯上は良い事なのになんだか気後れしてしまう。しかしここでおめおめと引き返すのは情けない気がする。

 ちょっとだけ。ちょっとだけ入れるかどうか確認してから帰ろう。

 そう自分に言い聞かせ校門に向かう。


 当然のように門は閉まっている。

「そりゃあそうだよな。」

 さて、ここからどうやって中に入ろうかと考える。

 門を乗り越える。

 インターフォンがあるのでそれを押して事情を話す。

 人が来るまでジッと待つ。

「・・・。」

 一番まともなのは”人が来るのを待つ”だと思うが、来たとして何を話せばいいのだろうか?

「タイムカプセルを見に。」

 なんて言っても怪しまれるだけかもしれない。

「・・・。」

 色々考えると、やっぱりこんな事をするのは変だ。

 やっぱり帰ろう・・・。

 こんな事じゃなくて俺はやらなくちゃいけない事があるのだ。

「あの、ちょっと・・・。」

 諦めようとしたその時、校舎の方から声をかけられた。その方向をに視線を移すとそこにはジャージ姿の女性が立っていた。

「何か御用ですか?」

 完全に怪しんでいる目をしている。

「いや、あの、なんていうか、懐かしくてっていうか、あの、そう、俺、ここの卒業生なんですけど・・・。」

「・・・。」

 ちゃんと説明しようとすればするほど支離滅裂になる。

「いや、あの、なんでもないです。すいません。ちょっと懐かしくなって立ち寄っただけなので。」

 そう言って帰ろうとした。

「あのちょっと待ってください。」

「・・・。」

 彼女はジッと俺の顔を見ている。何かまずい事でもしただろうか?

「トウ君?」

「え?」

 さっきまで怪しんでいた女性が自分の昔の呼び方をした。

「失礼ですけど、フルネーム教えてもらってもいいですか?」

「え?ああ、あの、津山統治ですけど。」

「やっぱりトウ君じゃん!私、木下菜穂。覚えてる?」

「木下菜穂・・・?」

「ほら、高校の3年間一緒だったじゃん。」

「あーーーー!きのっぴ?」

「そうそう、きのっぴ。」

 そう言って彼女は微笑んだ。

 一気に気持ちが高校生に戻っていくのが分かった。呼吸が上ずっていく。まさかこんな形で彼女と再会できるとは思ってもいなかった。

 だって彼女は、俺が高校3年間ずっと好きだった女性だったのだ。

 15年ぶりに見た彼女の笑顔はちっとも変っていなかった。

 



 

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