第4話 勢いで頼まれた演劇指導
久しぶりの再会は俺にとってもきのっぴにとっても嬉しいものだったのだろう。俺はきのっぴが学校が終わるのを待って居酒屋へと足を運んだ。
「なんかごめんね。タイムカプセル見つからなくて。」
「いいよ。きのっぴに久しぶりに会えたし。」
「もしかしたら誰か掘り返しちゃったのかもしれない。分かんないけど。」
「大丈夫。俺も埋めた場所をはっきり覚えてるわけじゃないし。」
「気になる場所があったら言って。探してみるから。」
「ありがとう。」
木下は申し訳なさそうに微笑むとビールをグッと飲んだ。
「なんか不思議だな。あの真面目なきのっぴがビールを飲んでるんだもんな。」
「え~、普通だよ。こっちこそ驚いたよ。俳優になりたいって言ってたのは覚えてるけどトウ君がまさか劇団を作ってるなんて思わなかった。」
「まぁ、残念ながら解散しちゃったけどね。」
「それでも凄いよ。自分で台本書いて演出もやってたんでしょ。私には無理。」
「やろうと思えば誰でも出来るよ。でもきのっぴが先生って言うのは良いよな。俺もきのっぴの生徒だったらもうちょっと勉強したかもな。」
「何それ、全然たいしたことないし。」
「いや、高校の時に勉強教えてくれてたじゃん。めちゃくちゃ分かりやすかったし。」
「よく覚えてるね。破壊的にトウ君勉強できなかったもんね。」
「うるさいよ。」
二人はケラケラと笑う。久しぶりに何も考えずに人と話している。疑心暗鬼にもならず、ただただ思い出話に華を咲かせる。
楽しい・・・。
単純にそう思えた―――――
そして楽しい時間が過ぎた時、きのっぴがある提案をしてきた。
「あのさ、トウ君さ、演劇教えてくれない?」
「は?」
「いや、私にじゃないよ。小学校でさ、演劇やりたい子が何人かいるんだよ。今いる先生の中で演劇教えられる人いないしさ、もちろん少ないけどお給料は出るし、お願いできない?」
「・・・。」
困ったように上目づかいで聞いてくる。
きのっぴの性格からしてわざとではないのだろうが、その姿はあざとかわいい。
「え、あ、じゃあ、ちょっとだけなら・・・。」
「え!本当!見てくれるの?嬉しい。」
「いや、そんな本格的になんて教えられないよ。」
「ううん、大丈夫。経験者が教えてくれるってだけでありがたいの!」
「・・・。」
酔った勢いだろうか、思わずうなずいてしまった。
あれだけ東京で痛い目に遭ったのに、懲りずにまた演劇をやろうとしている。
断るなら今だ。
「早速校長に言っておくね!!」
「え、ああ、うん・・・。」
けれどきのっぴの勢いに負けてしまい、そのまま引き受ける事になってしまった。
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