いつか見た夢をもう一度掘り返すことは無駄なのかと、俺は自分に問う。

ポンタ

第1話 ボロボロの帰省

 6月、約15年ぶりに帰って来た福島はほとんど変わっていなかった。

「・・・。」

 もちろん建物なんかは新しく建てられ、初めて見る光景が広がっていた。

 でも・・・。

 匂いが変わっていない。田舎臭い匂い。

 俺はこの匂いが嫌でこの福島を飛び出したのだ。

 けれど帰ってきてしまった。

 夢破れて、まるでボロ雑巾のようにくたくたになって・・・。

「あ、大槻の吉田屋まで。分かりますか?」

「ああ、あそこの吉田屋ね。大丈夫ですよ。」

 そういって、中年の人の良さそうなタクシーの運転手は車を発進させた。

 街を抜けて、どんどん大きな建物が減っていき、田んぼが多くなっていく。

「・・・。」

 ああ、俺は帰って来てしまったんだな。と、改めて実感する。


「あんな奴についていけるか!!」

「何様のつもりなんだよ。」

「お山の大将じゃねぇか。」

「オナニー野郎が。」

 さんざんな言葉を陰で言われ、徐々に人が離れていった。

 劇団を立ち上げてがむしゃらにやって来た。必ず成功させてやろう、有名になってやろう、そう意気込んでやってきた、つもりだった・・・。

 でも結果は、自分の元には誰も残らなかった。

 この事が自分の心を完全に叩き潰した。


 みんなついて来てくれてると思っていた。

 俺には才能があると思ってた。

 俺についてくれば間違いないって思ってた。

 劇団をやっていくことが俺にとってもみんなにとっても喜びだと思ってた。


 でも・・・全部間違いだった。

 何一つみんなのためになんてなっていなかった。自分だけ気持ちよくなっていただけなんだ。


 と、解散するときに実感した。

「・・・。」

「帰省ですか?」

 吉田屋が近づいてきた時、タクシーの運転手が話しかけてくる。

「え、ああ、まぁ。そんな所です。」

「どちらから?」

「東京からです。」

「そうですか。どうりで垢ぬけてると思った。」

「いや、そんな事ないですよ。」

「私の所も子供がこの前東京に行っちゃったんですよ。大学なんですけどね。たまには帰ってきて欲しいなぁって寂しくなっちゃいましたよ。行ったばっかりなんですけどね。」

 ははは、運転手は軽く笑う。

「僕は15年ぶりくらいです。」

「あ、そんなに・・・そりゃ1親御さんは喜ぶんじゃないんですか?」

「さぁ、どうでしょうか。」

 苦笑する。あまり喜ぶ姿が想像できなかった。

「はい、着きました~。ありがとうございます。」

 タクシーは吉田屋の前に車を止める。清算を済ませる。

「お子さん、ちゃんと帰って来いって釘刺した方がいいですよ。」

「分かりました。そうします。」

 自分のようにはならないように、と願いを込めて運転手にアドバイスする。そしてドアが閉まりタクシーは走り去っていった。

「・・・。」

 見渡すと山と田んぼしかない風景。

「・・・帰りますか。」

 家までここから約500メートルくらいだろうか。

 気まずいなぁ・・・なんて言おうか?

 そんな事を考えながら家に向かって歩き始めた。



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