第6話(最終話)仕返し

 ややおぼつかない足取りで階段を上る。自分の足音が、周囲に大きくこだました。


 するとその時、上から足音が聞こえてきた。何人もの足音ではない。誰かが一人で降りてきている音だ。


 踊り場を過ぎて、もう半分の階段を上る。すると足音の主が、僕の前に姿を現した。


 足音の主は山中君だった。だがこちらを見向きもせず、彼は僕の横を通り過ぎていく。


 僕が川原達のことを告げた件は、彼も知っているはずだ。もしかしたら僕がしたことは迷惑だったのだろうか? 遠ざかる彼の足音を聞きながら、あれやこれやと考えを巡らせた。


 だがもう終わってしまったことだ。これ以上考えてもどうしようもない。見返りを求めているわけでもないため、僕は考えるのをやめた。


 三階に辿り着いた。僕の教室は階段の目の前にある。ガラス張りの窓から、クラスメイト達の姿が見えた。


 そしてその中には、川原達の姿もあった。僕が教室に入っていくと、彼らは僕の方を見てニヤニヤし始めた。そして三人で、こそこそと会話を始める。


 彼らのいる机を横目に見ると、原稿用紙が三枚置かれていた。そして三人とも、手にはシャープペンシルを持っている。どうやら席に集まって、彼らは反省文を書いているようだ。


 彼らから視線を外し、自分の席まで辿り着いた。そしてそのまま椅子を引いて腰を下ろす。


 ふと黒板の右端にある時間割表を見ると、一限目は世界史になっていた。世界史で必要な道具は、教科書と資料集とノートだ。


 椅子から立ち上がり、ロッカーの方へ向かう。教科書とノートは持ち運びしている一方で、資料集のみはロッカーに入れていた。僕は自分のロッカーの前に立ち、中から資料集を探した。


 するとその時、後ろからクスクスと笑い声が聞こえてきた。笑い声は川原達の方から聞こえてくる。僕は彼らの方に視線を向けた。


 視線を向けると、すぐに三人と目が合った。やはり笑っていたのは、あの三人だった。僕は何やら嫌な予感がして、ロッカーの中を弄った。


 ロッカーに入れているはずの資料集が見つからない。僕は冷静になり、一つずつ探していった。だが何度探しても、資料集は見つからなかった。


「ざまあ!」


 周りが騒がしいにもかかわらず、声がはっきりと聞こえてきた。振り返らなくても分かる。倉田祐飛の声だ。


 僕は教材を手に持ったまま、その場で動けなくなった。仕返しとして、僕は彼らに資料集を盗まれた。


窃盗犯は許される (終) 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

窃盗犯は許される しんたろー @shintarokirokugakari

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ