生まれては還っていく

笑えばいいのか、神妙にすればいいのか、ひり出せばいいのか。
読後感がなんとも不思議な作品です。それゆえに面白くて二、三度読み返しました。非常に純文学らしい作品のように思えます。抽象的なようで、読み進めるほどに鮮明な輪郭が浮かんでくる。そして最後はそれをどう解釈するのか。とりわけ本作は誘導が丁寧だった印象です。そうした点が、より不条理な世界観を際立たせていたように感じました。

温泉街で巻き起こる、ちょっと不思議な出来事と発見。最後まで、あるいは永遠に登場人物たちの考えていることがわからない。ただ、言わんとすることだけがポツンとそこにある。いつもと違った読書体験をしたい方に勧めたい作品です。あまり純文学に馴染みのない方はなおのこと。この独特な世界に一歩、勇気を出して足を踏み入れてみてください。『お前だってそうじゃないか』うん、たしかに。洗練された読ませる文章たちが、貴方をこの永遠の命題へと誘うことでしょう。